子どもの事故予防へのアプローチ |
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山中龍宏 (緑園こどもクリニック)
私は小児科開業医ですので、毎日のように子どもの事故を診ています。本日は、わが国においては、現在まで子どもの事故予防に対する取り組みがほとんどないこと、そして私自身がこの15年間取り組んできた、子どもの事故予防に対する取り組みとその限界についてお話しし、工学系とどのような接点を期待しているかという点でお話ししたいと思います。
子どもの事故の実態
先日、六本木ヒルズの自動回転ドアで子どもが死亡しました。テレビの報道によると、回転ドアの製造メーカーは、「起こるべくして起こった」「元々構造上大きな問題があった」と述べています。この件に関して多くの取材を受けたものですから、この事故に対する私の見解を書いた文書を入口でお配りしていますので、興味ある方は是非それをご覧ください。私がひとこと言いたいのは、六本木ヒルズの回転ドアの事故だけではないということです。社会が取り組まないと子どもの事故は予防できないと考えています。
成人の死亡原因の第1位は悪性腫瘍(癌)、第2位は心疾患、第3位は脳血管障害ですが、わが国では1960年(今から40数年前)から、子どもの死亡原因の第1位は「不慮の事故」です。0歳を除いた死因ですが、今年も、来年も10年後も、子どもの死因の第1位は不慮の事故であります。癌に対しては何百億円もかけて研究していますが、子どもの事故に関しては極端にいえば1円もかけていない、これがわが国の現状です。子どもの命にとって最大の敵は、病気ではなく不慮の事故なのです。
唯一、わが国で継続的に得られるデータは死亡データだけです。子どもの事故は膨大な数が起こっていますが、その実態は全く不明です。最近いろいろな地域で調査が行われています。例えば、3歳3ヶ月までに医療機関を受診した、あるいは電話で相談をした事故の経験人数に関する兵庫県のデータ(調査数:約6300名)があります。回答者1000人あたりで延べ791人は、「落ちた」「転んだ」「やけどをした」「誤飲をした」など、医療機関を受診するような事故に遭遇しています。つまり、10人のうち8人は3歳までの間に医療機関を受診するような事故に遭遇しています。非常に発生頻度が高いわけですね。子どもの事故を考えると、死亡事故、入院する事故、外来を受診する事故、家庭で処置が必要な事故、家庭での処置が必要ない事故、ひやっとした事故など、数限りない事故が起こっているわけですね。
子どもの事故はアクシデントではない
わが国では相変わらず事故は「アクシデント」として捕らえられています。欧米では既に20年以上前から事故は「アクシデント」ではなく「インジャリー」であると認識されています。英語のアクシデントという言葉は、予測できない、避けられないという語源があるそうです。そうでしょうか? 事故は予測することができ、予防可能であるということで、最近では「インジャリー」という言葉が使われています。予測できないし避けられないことであれば予防はできない。まずは、子どもの事故は予測ができる、予防可能であるというように意識を変える必要があります。わが国ではまだこの意識が変わっていないと思います。
事故の問題を考えるときは、「事故が起こる前」「事故が起こったとき」「事故が起こった後」の3つのPhase(相)に分けて考える必要があります。例えば、わが国では、毎年生後10ヶ月から1歳代の子ども50〜60人が浴槽で溺れて亡くなっています。子どもが歩き始めるようになる、開いているドアから浴槽の中に入る、防災あるいは洗濯のために浴槽に水が溜まっている、浴槽におもちゃが浮いている、子どもが中を覗き込んで、浴槽の縁の高さが50センチ以下ですと子どもは頭が重いので転落する。5分以上経てば溺れて心肺停止になります。救急車を呼んで病院で治療をするが、亡くなる、あるいは植物状態になって施設に入っています。重症心身障害施設に行きますと、必ず1歳代で溺れた子どもが何人か入所しています。ひと月の治療代が100万円かかります。年間1200万円、10年で1億2000万円…。
欧米では医療行為にも経済効率が考えられていて、起こってから治療するよりは起こる前に予防したほうがお金が安くすむという考えで、20年前から事故が起こる前の予防にお金をかけています。わが国では予防には一切お金はかけていません。わが国では子どもの事故が起こると、「親の不注意」、「親の責任」、あるいは遊び方が悪ければ「本人が悪い」と指摘しているわけです。ですから、ただ「気を付けて」「危ないですよ」「目を離さないで」と言っているだけです。あるいは、事故というとすぐに応急処置とか治療とかリハビリのほうに眼が向き、予防は全く考えられていません。ですから、事故の発生頻度は全く変わらないのです。
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事故予防の基本的な考え方
事故予防の基本的な考え方とは、事故予防のために求められる努力量と事故予防の可能性の関係を検討することです。非常に努力してもほとんど効果がないことよりは、ほとんど努力しなくても効果があることに力を注ぐべきというのが原則です。
誤飲:水薬のビンから何日分かを一気飲みする子がいます。薬物は基本的には毒物ですから多ければ中毒を起こします。「保管には気を付けてください」と何度言ってもほとんど意味がありません。あるいは「使用後は薬棚に入れて鍵をかけましょう」といいますが、そんなことをしている親もそう多くはありません。危険度を減らすためには、子どもには開けにくいセイフティーキャップ付きの容器を使えばいいわけです。最終的には容器の中に中毒量を入れなければ一気飲みしても問題はありません。
やけど:蛇口から出てくるお湯でやけどする子が多いですね。「熱いものは“あちち”と教える」といいますが、何度教えてもほとんど効果はありません。「台所でやけどしないようにお鍋の取っ手は壁側にして」といっても、たまたまこっちを向いているときにひっくり返してやけどするわけですね。台所には入れないように柵をする。それよりは、給湯の設定温度を下げる、それを法制化すればより予防効果は大きいわけです。
火災:「火の始末は厳重に」といっていますが、誰だって厳重にしているわけで、たまたまそうしないときに火事が起きるのです。より効果的には、消火器を設置する。欧米では既に防燃性のパジャマや毛布の使用が法律で義務付けられています。煙や熱の感知器を一般家庭にも設置することが既に法制化されている国もあります。わが国の火災の原因の第1位は放火ですが、第2位はタバコの火の不始末です。今のタバコは30分間火が消えないようにクエン酸が入っていますが、そういう物質を入れなければタバコの火による火災は少なくなるわけですね。
公園の遊具:事故が起きるとすぐに「正しい遊び方を教える」といいますが、私はどんな遊び方をしても正しいと思っています。こういうことを指摘してもほとんど効果はありません。大人が監視する、しかし、監視していても目の前で事故を起こすのが子どもであります。注意シールをあちこちに貼ってもそんなものを読む子どもはいません。要するに構造物の安全性を法的に規制する。あるいは死亡例があった遊具は即刻撤去する。これが正しい予防法だと思います。
お風呂での溺れ:「浴室に子どもが入らないようにしてください」と言っても意味はありません。「いつもドアは閉める」といっても、たまたま開いているときに入って事故が起きるのです。残し湯をしない、あるいは子どもが入ったらブザーが鳴るようなものを設置する、このほうがより予防効果が高いわけですね。
車の事故:「子どもが乗るときは気を引き締めて安全運転しましょう」といっても、向こうから車が突っ込んで来ることもありますよね。チャイルドシートを正しく装着する。将来的にはセンサーがあって決してぶつからないような交通システムにする。道路にもそういうセンサーを設置する。絶対にぶつからないシステムにすれば、なにもチャイルドシートをしなくていいわけですね。
要するに、病気も健康を障害します。事故も健康を障害する。健康という面から見たら病気も事故も全く同じです。ただし事故の場合は、すべての事故を防ぐ必要はありません。また、それは不可能です。重症度が高い事故、発生頻度が高い事故、そして増加している事故をまず防ぐ必要があります。重症度が高い事故の代表は交通事故、特に自動車乗車中の事故です。生後10ヶ月から1歳代は浴槽での溺死です。発生頻度が高い事故は、乳児であれば誤飲、増加している事故は自動車乗車中の事故です。
解決策のある事故予防に取り組む
大切なことは、具体的な解決策があることについて取り組むことです。解決策がないことをいくら言っても意味がありません。予防活動を行った場合、必ず事故の発生数あるいは発生率が減少した、また、通院日数、入院日数、医療費などが軽減したという数値で評価しなければいけません。わが国ではこのようなデータはありません。なぜかといいますと、発生数が全く分からないからです。欧米からは既にこのようなデータがたくさん出ていますが、わが国では全くこの領域の報告はないですね。
欧米では20年以上前から、例えば自転車の事故予防について取り組もうとすると手がかりとなるデータがきちんとあります。アメリカでは、自転車乗車中の事故で年間に900人が死亡していますが、これは日本でも分かるデータです。しかし、50万人が救急外来で治療を受けているというアメリカのデータに対応するものは、わが国にはありません。まず、情報収集する、そして資料を分析する、そうすると死亡事故では頭部外傷が多いということが分かります。予防法はというとヘルメットをかぶればいいわけですね。ということで、街角で自転車に乗っている子ども達のヘルメットの着用率を調査員が調査して、例えばシアトルとポートランドの2つの町でヘルメットの着用の効果を見る。ヘルメット着用の啓発活動を片方の町ではしない、片方ではする。そして2年後ぐらいにヘルメットの着用率をもう1回チェックをして、その間に病院に入院した自転車事故による例を分析すると、ヘルメット着用を促したシアトルでは脳神経外傷の危険率が63〜88%減少していたというきちんとした科学的なデータが出ます。そして、そのデータを議会に持って行き、法律でヘルメット着用の義務を決めているわけですね。
やけどに関してもそうです。わが国では分析できるやけどのデータはありません。疫学的に何人発生しているかさえ分かりません。アメリカのデータでは、0〜4歳の子ども10万人がやけどのために救急病院で治療を受けたとあります。その情報を分析すると、家の蛇口でのやけどが多い。給湯の温度が高いことが原因です。60度のお湯では、1秒で熱傷となるところが、50度であれば29秒で熱傷になる。そこで、給湯温度を下げる啓発活動をする。そうすると当然熱傷の入院例は減るわけですね。そのデータを議会に持っていって法制化する。欧米ではこのような活動が行われています。
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子どもの誤飲の実態
いろいろな事故がありますが、今日は、誤飲を取り上げて、今まで私がやってきたことの一部を紹介したいと思います。日本中毒情報センターによると、毎年3万7000〜3万8000件の電話相談があり、その75%は5歳以下の子どもの誤飲です。このデータは毎年変化がありません。年報では「昨年のデータもそれ以前と同じであった」と毎年報告されています。
アメリカのPoison center(中毒センター)のデータと比較しますと、わが国では0歳児の誤飲の発生率は3〜4倍と報告されています。その原因はやはりライフスタイルの違いですね。畳の上や低いテーブルの上での生活が大きく影響していると思います。私のところにも毎日とは言いませんが、何日かに1件、タバコなどを誤飲した子が来ます。子どもの生活環境に新しいものが出回るようになると早速それを誤飲した子がやって来ます。例えば、ほう酸団子が出回れば、早速ほう酸団子の誤飲が来ますし、親の薬を飲んだ、プランターの肥料を舐めた、農薬を袋から出しておせんべいに付けて食べた、落ちていたチューブを舐めて口の中じゅう軟膏だらけになってやってきます。
欧米では、子どもが飲んでは困るようなものは子どもの目を引くデザインであってはならない、色を付けてはならないといっています。わが国では、わざわざ子どもの目を引くようなデザインになっていて、誤飲させるような商品もあります。社会全体が安全に対してルーズなところがあります。
夏の暑い昼下がりに、自動販売機で買った缶チューハイをジュースと間違えて一気飲みしてアルコール中毒でやってきた子どもがいます。3日後には、実家の冷蔵庫からジンフィズをジュースと間違えて飲んだ子どもがやってきました。全て私の経験例です。私がこうやって1例、2例経験しますと、日本中毒情報センターには1000件というレベルの相談があります。決して1件で済むことはありません。お母さんの指輪を飲んだり、パチンコ玉を飲んだり、それからボタン電池がいろいろなおもちゃに使われるようになりますと、早速ボタン電池の誤飲が発生します。
これは誤飲ではありませんが、2歳ちょうどになった男の子が、裏の畑でお母さんと一緒にプチトマトを摘んでいまして、青いプチトマトを口に入れたら、それがスポッとのどに詰まって、心肺停止状態で私のところにやってきました。3週間治療しましたが、結局亡くなりました。ピーナッツを気管に詰まらせることもよくあります。これら口から入って窒息あるいは誤飲してしまうことを防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか。
欧米では、セイフティーシリンダーという子どもの口の容積の模型を作って、それで誤飲予防の指導をしているということを聞きました。わが国にはそのようなものはないので、朝日大学の小児歯科の田村康夫先生にお願いして、日本人の子ども1500例の口の大きさを測ってもらいました。「あー」と口を開けたときの最大開口径とレントゲン写真から計測しました。欧米のセイフティーシリンダーについては、その中に入らないものでも窒息した報告例があり、危険だということを知っていましたので、日本人の3歳児の口の大きさの模型容器を教材として作りました。ニックネームを「誤飲チェッカー」と名づけています。ひとことで言うと、これに入らないものは子どもの口にも入らないから誤飲や窒息が防げるということです。逆に、これに入るものは誤飲や窒息の危険性がありますよということです。
生後5ヶ月までは誤飲は発生しません。手を出したり、つかんで口に持っていきませんから。生後6ヶ月を過ぎますと、手を出す、つかむ、つかんだら口へ持っていくようになります。これが、子どもの正常な発達です。何でも口に入れるので誤飲となる訳ですね。1歳2,3ヶ月ごろまでは何でも口に入れてしまいます。1歳ごろでだいたい身長は75センチですから、1メートルより上にものを置いておけばまず誤飲するということはありません。ただし2歳、3歳になりますと誤飲するものも違ってきて、母親や父親の薬などを飲んだりしますが、その場合には、この1メートルという値は有効ではありません。何でも口に入れる時期は、1メートル以下の場所に口に入るものを置かないことを徹底すれば誤飲は防げると考えています。
市販薬では幼児には開けにくいセーフティーキャップの容器がありますが、医師が処方する薬の容器も、一度押して回さないと開かないようなセイフティーキャップ付きの水薬容器が使われるようになりました。こういうものを使えば誤飲が防げるということです。これは一例ですが、それぞれの事故についてこういうアプローチをしなければいけません。
そのためにはともかく事故の情報を収集する必要があります。集めたデータを解析して、予防法をきちんと検討し、それを実践して、きちんとした数値で評価するのです。このステップを続けていけば子どもの事故は予防できるということです。
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事故は誰もが遭遇するもの、意識改革を
我々は健診の場などで事故予防についてお話しているのですが、ほとんどの親は「まさかうちの子に限って」「私が気をつけているから大丈夫だ」と思っています。決して自分の子が事故に遭うとは思っていない。けれども、最初のデータに示したように必ず事故に遭遇するのです。1度も事故に遭遇しないで大きくなることはありません。重症度が高い事故については、そういう危険な事故が起こるかもしれない、だから「まさかうちの子に限って」ではなくて、「ひょっとしたらうちの子にも」と、母親や父親が事故に対して、意識や行動を変える。その行動を変えてもらえるような活動を我々が展開しなければならないと考えています。私もいろいろなところで講演などをしているのですが、ほとんど効果がありません。そこで、2年ほど前にサイト(ホームページ)を作りました。「子どもの事故予防情報センター」(http://www.jikoyobou.info) という個人的なサイトですが、こういうのを作って今、少しずつ啓発活動をしているわけです。
先ほど紹介した「誤飲チェッカー」は、教材として優れていると自分では思っていたのですが、山梨県の人口2万7000、年間出生数240の市で「誤飲チェッカー」を使って介入試験を行いました。その市は8年前から健診の場を利用して1歳半、3歳、5歳の時点で医療機関を受診した事故の情報を継続的に収集しています。わが国で唯一情報がきちんと取れている場所での介入試験の結果がやっと今春出ました。結果は、全く効果がない、でした。効果はないかなと思っていましたが、はっきり科学的に効果がないというデータが得られました。私は非常にすばらしい結果と思っているのです。今回はっきり効果がないと分かったわけですから、次にはその方法を変えて次の介入試験に臨めるわけです。効果があるかないか分からないままに漠然とやっているのが現在の保健所、保健センター、あるいは小児科医の活動です。今回わが国ではじめて介入試験をして科学的なデータを出したと思っています。
情報工学的なアプローチから事故予防の可能性を探る
昨年の夏に、産業技術総合研究所の西田さんから突然電話がありまして、子どもの事故について知りたいというお話をいただきました。お話を聞くと工学的な技術を利用して事故予防にアプローチしたいとのこと。我々は、工学系の方とは全くコンタクトがなかったものですから、今後、一緒に研究していこうということで昨年の秋から協同研究が始まりました。
そのとき話をしていて、ふと思ったのです。病気の原因・治療法が分からないときはともかくその病気を作ることがとても大切なのです。病気を作るといろいろなことが分かる。例えばエイズも作れるようになると病気の治療法が分かる。事故もそうなのではないかと。今まで私は、事故を予防しよう予防しようと思っていたけれど、事故を起こさせようと思えば考え方が違ってくるかもしれない。工学系の方にコンピューター上でモデルとして事故を起こさせてもらう。そのために私たちが収集した事故の情報を提供しようと考えました。また、お母さんたちが、事故が起きることが実感できるようなツールもつくりたいと考えています。今までのように「チャイルドシートをしていますか?」というような漠然とした質問ではなく、親たちに事故について教える方法をきちんと考えるのです。そして最終的には、工学的な面から絶対に事故が起こらないような仕組みを作る。「気をつけてね」ではなく、全く気をつけなくても安全が保たれるような製品の開発を希望して、一緒に仕事を始めました。
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子どもは発達するから事故に遭遇する
なぜ子どもに事故が起こりやすいのか? ひとことで言いますと発達をするからです。発達をしなければ事故は起きません。老人も事故に遭いやすいのですが、それはなぜかというと退行するからです。要するに、子どもは昨日できなかったことが今日できるようになる、だから事故が起きるわけです。寝返りをしない子が急に寝返りをするからベッドから落ちるわけです。老人は逆に、昨日できたことが今日できなくなるからです。昨日まで足が上がったのに今日は足が上がらないからひっかかって、階段から転んで大腿骨の骨頭を骨折するわけですね。世の中の構造はすべて健康成人向けにできていますし、子どもや老人に対して組織だった事故予防の取り組みがないということで、子どもや老人が相変わらず事故の犠牲者になっているのです。
たぶん人類は昔から子どもの事故には遭遇していたはずです。例えば火を使っていて、子どもがハイハイして火の中に落ちたなどということは多々あったでしょう。もし子どもが生まれてから1歳半までぐるぐる巻き(swaddling)にしておけば、こんなに安全なことはありません。決して誤飲はしません。転落もしません。やけどもしません。現在の日本で急にswaddlingを広めようと思ってもまず行き渡らないと思うので、これは私が作った勝手な言葉ですが、光学系のうえで1歳半ぐらいまでの子どもを決して動きまわらないようにするエンジニアリング(swaddling engineering)を展開してもらいたいと思っています。
我々は医療の現場で毎日のように山ほど事故を診ているわけですから、その情報を提供する。それをコンピューターに入れてもらう。そして、コンピューターに入れてもらったものを実際の現場で使って検討するということで、何か効果のあるものが作り上げられれば大変嬉しく思います。
子どもの事故は個人の責任ではなく社会の責任
最後になりますが、わが国の子どもの事故予防についての取組みは全くといっていいほどありません。「子どもの事故は親の責任」といって個人の責任にしています。個人の責任だけにしていては子どもの事故は解決しません。社会全体の意識を変えないとダメだと思います。社会全体が、子どもの事故は重要な健康問題であると認識しなければなりません。そして、いろいろな職種の人が取り組むことで子どもの事故は予防できるようになると思っています。そういう意味で学際的な人たちと一緒に仕事をさせていただいて、我々の現場でのデータを利用、あるいは我々のほうで検証させていただければと考えています。
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