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ドゥーラ(Doula)研究室

第10回 ドゥーラトレーニング体験記 (2006.09.01)

岸 利江子 イリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程


 最終回は、著者がインターンシップ先Chicago Health Connection (CHC)で昨年受講したDONA International*認定ドゥーラ養成プログラムについて紹介する。

注* Doulas of North America International. 北米最大のドゥーラのための国際組織で分娩期・産褥期ドゥーラの養成、認定、登録をおこなっている。


DONA International分娩期ドゥーラの認定プロセス

 DONA International認定の分娩期ドゥーラになるには、以下のプロセスを経る(DONA International)。
  1. DONA Internationalの会員になる(日本から申し込む場合は年会費$45)
  2. 指定された5冊の本*とドゥーラについての説明**を読む
  3. 次のうちの1つをおこなう
    a) チャイルドバースエデュケーターまたは助産師による教育を受ける
    b) 看護師(Registered Nurse)として産科で働く
    c) 自分が妊婦としてではなく出産準備クラス(12時間以上)を見学する、またはDONA International認定の養成プログラムで紹介される「出産入門」クラスを見学する。
  4. DONA Internationalの分娩期ドゥーラ認定申請書類一式を購入する($35)
  5. DONA International認定の養成プログラム(16時間以上)を受講し受講証明書を得る
  6. 3件以上の分娩に立会い(計15時間以上)、各分娩について指定の分娩経過記録用紙(内診所見など)と、500〜700語のエッセイ(ドゥーラサポートの内容、母親の反応、学んだことなど)を記録し提出する。子宮頸管4 cm開大かそれより前から出産直後まで継続的に付き添う。帝王切開分娩になった場合もケースに含めてよい。産婦から個人情報の開示についての書類にサインをもらう。それぞれの産婦と、立ち会った医療専門職(医師/助産師/看護師)から推薦状をもらう。
  7. DONA Internationalによるドゥーラの倫理と実践基準に関する規定を読みサインする
  8. 分娩時サポートの価値と目的について500〜1000語のエッセイを書く
  9. 分娩期ドゥーラ認定の手数料を払う($60)
 DONA International分娩期ドゥーラの認定は3年間有効。再認定には、会員であること、15時間以上の継続教育プログラムを受講すること、3件の出産立会いについての書類提出などが必要となる。

ウェブサイト
分娩期ドゥーラの認定プロセス
◆*文献リスト
◆**DONA International ポジションペーパー
産褥期ドゥーラの認定プロセスについては

養成プログラムのスケジュールと内容

 著者が受講・見学した約20時間の養成プログラムは週末に行われた。
 参加者は毎回12-15名、受講料385ドル(テキスト、昼食・軽食・飲み物も含む)。トレーニングはドゥーラ経験の豊富なCHCスタッフ2人によって行われた。妊娠・分娩・産褥に関する診断や医療処置に関する説明も多いので、CHCに所属するスタッフの多くは助産師・産科看護師の資格や経験も持っている。1月におこなわれたプログラムでは外部の小児科医による講義もあった。
 2005年6月にCHCによって主催されたプログラムの詳細は下記の通り。養成プログラムの内容はDONA Internationalによって規定されている。年々改定されており、内容も増えて複雑になっているという。
1日目
9:00〜11:00 導入、紹介
CHCの歴史と理念
分娩の意義
ドゥーラの効果
11:15〜1:15 妊娠期の心と体の変化
妊娠期の医療処置
妊娠期のドゥーラサポート
1:15〜1:45 昼食
1:45〜3:30 理想のお産とは(自分の価値観を探る)
バースプラン
分娩の開始
陣痛の兆候
3:45〜5:30 分娩の進み方
分娩時のドゥーラサポート(ノンタッチ)
5:45〜7:15 産痛緩和法
分娩時のドゥーラサポート(タッチ、実習)
1日目の評価用紙記入
2日目
9:00〜11:00 産科的処置と介入
医学的処置以外の方法
無痛分娩など
11:15〜1:00 産科的処置時のドゥーラサポート
分娩遷延、難産
予期しない出来事への対処(帝王切開など)
特別な状況でのドゥーラサポート(死産など)
1:00〜1:30 ドゥーラ認定プロセスについて
倫理指針、実践指針
ドゥーラのセルフケア
産褥期のケア(母親)
1:30〜3:00 新生児のケア
母乳育児
5:15〜6:00 2日目の評価用紙記入、ふりかえり、受講証明書

教材
プログラムの内容に沿った資料ファイル(写真)
経膣分娩、帝王切開、母乳育児、新生児の世話に関するビデオ
産科的知識を学ぶための模型、ポスター
産痛緩和法を学ぶためのマッサージ器具、バースボール、その他(ドゥーラバッグ*)
ドゥーラに関連した書籍

*ドゥーラバッグ(ドゥーラがお産のサポートのために持参するバッグ)の中身
産婦のために : バースプラン、マッサージ用の小物、テニスボール、鏡(分娩中に赤ちゃんを見るため)、生理用ナプキン、キャンディ、飲み物、カメラ、ラベンダーなどアロマオイル、ノンフレグランスオイル、リップクリーム、綿棒、ヘアブラシ、音楽、ラジオなど
ドゥーラ自身のために : 記録するためのレコーダー、時計、軽食、飲み物、下着、服、口臭予防用品、デオドラント用品、本、聖書など

学んだこと

自分の見方や経験を他者と共有することの意味
 受講者は白人がほとんどで黒人が数名、妊娠・出産経験やバックグラウンドもさまざまで、ディスカッションではいろいろな経験が共有された。この場を通して、ドゥーラが自分の先入観や思い込みに気づき、出産経験でトラウマがあった場合は仲間に聴いてもらうことで癒されていくように見えた。ドゥーラのサポートは、個人的な感情や経験を生かして行う部分が大きい。ドゥーラは、出産に対する自分の価値観やバイアスを認識して初めて、自分の経験を一般化し他者の体験に生かすことができるのかもしれない。他者本位の支援を提供するための準備の場になっていた。

分娩のポジティブな面に注目することの大切さ
 プログラムの中で、「母親と聞いて思いうかぶイメージは?」「出産とはどんなもの?」など、漠然としたイメージについて話し合うことがあった。ほとんどの受講者は、「幸せ」「素晴らしい」「自然」「楽しい」など、ポジティブな意見が多かったのに、私の答えは「役割が増える」「マラソンのようなもの」などだった。妊娠出産の正常な面に目を向けたいと思っているのに、妊娠、出産、育児のどれについてイメージを聞かれても、マイナートラブル、異常分娩、育児困難など、リスクばかりがまず浮かんでしまって、全体的に「大変なもの」ととらえていることに気づいた。私がこれまでに経験した助産師の実践や教育では、妊娠出産の自然でポジティブな面に目を向けると言いながらも、実際には、妊娠、出産、育児におけるあらゆる「問題」を予測し対処できるのが良い助産師だと要求され、自分に染み付いていることに気づいた。

どれほどの知識や技術が必要なのか
 ドゥーラに必要な知識や技術とは何だろう。産科医や助産師により近い知識や、マッサージやアロマなど多くの産痛緩和テクニックはどれほど必要だろう。産科的専門知識の内容は助産教育に比べるとずっと浅く、たった20時間で、分娩を中心とした周産期ケアに必要な知識と技術を全て網羅することはどう見ても不可能だった。さらに、どれほどの知識や技術が身についたかを確認する試験などはない。このプログラムは、受講後に自己学習を進めるためのきっかけや情報源になるのだろう。トレーナーたちは限られた時間内で、周産期ケアの基本的な原則を確実に伝えるためにとても努力していた。

トレーナーや参加者について
 トレーナーだけでなく受講者も皆、とても社交的でオープン、親切でとても感じがよく、笑顔の素敵な女性ばかりだった。既にドゥーラなのだなと感じた。トレーナーたちは受講者のディスカッションを促し、聴き、質問やニーズに的確に応え、場を明るくし、協力し合って時間や場のマネジメントを行うなど、参加者にとってドゥーラ役割のモデルでもあった。参加者は後々連絡を取り合えるようメールアドレスなどを交換し合い、ドゥーラのコミュニティを作る場にもなっていた。

特別寄稿

 著者がインターンシップ先のシカゴヘルスコネクションで大変お世話になったドゥーラトレーナー、Ms. Beth Isaacs, RN, MPHに、トレーナーとしての経験について語っていただきました。

2つの種類のドゥーラ養成の経験
 ドゥーラトレーナーとして、私は当初、シカゴヘルスコネクション独自の徹底的なモデルを使ったコミュニティベースドゥーラの養成をおこなっていました。コミュニティベースドゥーラは貧困層の女性たちとその家族のために、深く長期的な関係を築きながら支援をおこないます。妊娠、出産、産褥早期に限らず、母子の絆づくりや母親自身が自分の可能性を最大限に発揮する手助けなど、とても広い範囲に渡ってサポートし、ネットワークを作っています。ドゥーラの養成プログラムもそのような広い目的をカバーし、トレーニングが実際に役に立つように作られています。また、クラスで学んだ情報を実践に応用する方法についても強調しています。1-2週間おきに毎回3時間半、計20回に及ぶセッションからなるプログラムでは、その合間に実習や宿題も課され、受講生たちはクラスで学んだことを次回のクラスまでに整理する時間が与えられます。クラスで学んだ技術を練習し発達させる時間が与えられゆっくりと基礎を固めていくことができるので、ドゥーラたちは深く理解することができました。

 DONA認定のトレーニングのトレーナーも経験しましたが、こちらのトレーニングは型にはまっていて、コミュニティベースドゥーラの養成とは大きく異なりました。DONA認定の養成は週末を利用した短期集中コースです。スケジュールは金曜日の晩からぎっしりつまっており、土日は9時間を超えることが普通です。時間が限られているので、説明や会話、内容の応用も制限されてしまいます。トピックの重要度に関わりなく、参加者からもっと知りたいと関心が向けられたとしても、先へ先へと進んでいかなければなりません。トレーニング自体は楽しかったのですが、たっぷり時間をかけて一つ一つの話題について深く話し合ったコミュニティベースのドゥーラトレーニングを経験していただけになおさら、週末に集中的におこなわれるトレーニングの速いペースは私にとって満足のいくものではありませんでした。

 コミュニティベースドゥーラとDONA認定ドゥーラの養成プログラムでは、受講者もずいぶん異なります。コミュニティベースドゥーラとして養成される女性は普通、サポートを提供される側の女性と同じ貧しい地域に住む女性で、社会事業の事務所や保健医療の現場でフルタイムのドゥーラとして雇われます。一方、DONA認定ドゥーラ養成プログラムの受講者は、サービスに応じて報酬を受け取るといったように個人で営業しようとしているプライベートドゥーラで、ビジネスとして開業することを目的に受講します。このようなプライベートドゥーラは裕福な女性のお産のサポートに焦点を当てており、妊娠期や産褥期のかかわりは最小限になります。

ドゥーラトレーナーとしての個人的な学び
 コミュニティベースドゥーラの養成プログラムのトレーナーとしての経験は、受講者に変化をもたらすものでした。私たちはこれを「変化のためのトレーニング」と呼びますが、私は普段これをトレーニングされる女性たちに与える影響と関連づけてとらえています。しかし、私が最も気づかされたことは、このユニークで深くやり取りしあうアプローチを用いたトレーニングではそれぞれの女性がグループにもたらす知恵や知識が尊重され、その中で私自身も変化していたということでした。

 この仕事を始めた頃の私は、「私はナースで経験豊富な教師だ。十分な学位も持っているし、資格や認定も受けている。専門知識もたくさん身に付けている」と思っていました。でも、それはある一つの種類の知識でしかなかったのです。いろいろなタイプの知識や知性があるということを、以前は頭でしか理解していなかったのですが、そのことに本心から価値を見出せるようになりました。他の人々の英知を尊重する新しい方法を発見し、自分の限界や見方について前よりもっと謙虚になりました。

 トレーニング(正確には、他者 - ドゥーラも他のトレーナーも - の学びを手伝うこと)は、たくさんのものを得た一方、困難も伴う、とても豊かで複雑な経験でした。母親学級や看護学生を対象にしたそれまでの教育経験では私は教員として一人で動き、コントロールできる立場にあったのですが、今回はそれとは異なり、バックグラウンドや物事の見方が私とは大きく異なる2‐3人の他のトレーナーとどうやって協力しあうことができるかを学ばなければいけませんでした。クラスの構成についても同様です。ほとんどのクラスで私はマイノリティでした。私は白人で、裕福で、より正式な教育を受けていました。一人一人の女性のユニークな才能が集まって学びを深めるということの価値を認めるのに時間がかかりました。自分の思い込みを捨てて、私よりずっと若く正式な教育も受けていない女性を信頼できるようになるのにも時間がかかりました。自分とはまったく異なるタイプの女性たちと効果的にコミュニケーションをとる方法を身に付けることは、彼女らの学びを手助けするためだけでなく、自分が彼女らからどれだけ学べるかを認識し、彼女らを深く気遣うようになるためにもとても大切なことですが、そのことはおそらく私の人生においてもっとも難しく、しかしもっとも大きなものを得た経験となりました。

おわりに―日本への導入―

 これまで10回にわたり、ドゥーラについての研究結果などを紹介してきた。ドゥーラサポート(主に分娩時に継続的に付き添い、エモーショナルサポートを提供すること)によって、産婦にとってより良い出産体験になることが明らかになっている。日本の周産期ケアでもこのようなサポートが必要であれば、ドゥーラの知恵を日本の社会や文化に合った方法で取り入れたい。日本に導入する際に大事にしたいと著者が現在考えていることについて以下に紹介し、この連載のまとめとする。

1.ドゥーラサポートをすべての産婦が等しく当たり前に受けられるようにすること
 母親は妊娠期間を経て命がけで出産し、産後はその子どもを一生守り育てていく。経済状態や教育レベルなどにかかわらず、すべての母親とその家族が、家族と人生の重要な出発点である出産において心をこめたサポートを受ける資格がある。理想的には、このようなサポートはお金でやり取りされるよりも、地域社会やケアの提供者と受け手の意識に働きかけることによって無償で自然に満たされるようなものにしたい。

2.ドゥーラサポートと産科医療は対立しないこと
 出産は本来自然なものであるが、産科医療が母子の生命の安全を支えてきたことも事実である。ドゥーラが医療介入を敵視すると、出産のリスクが増えて結果的に母子の不利益になってしまう。産科医療の功績や価値を軽視すれば、過酷な勤務と責任を負って働いてきた心ある医療職者の気持ちはそがれてしまう。医師や助産師がドゥーラサポートについて関心を向けることで全人的な医療の質を向上させるヒントが見つかるかもしれない。ドゥーラサポートと医療は統合されるものであり、対立するものではない。

3.ドゥーラ(サポート)が医療専門職の助手や代用として医療の階級制度の下層に置かれるのではなく、医療職、妊産婦、夫や家族から尊敬され大事にされること
 医師は異常な分娩において生命を救うことを優先するためドゥーラサポートの優先順位は下がり、助産師や看護師はドゥーラサポートの大切さを知りつつも忙しすぎて十分に実践できないことが多いように見える。ドゥーラは医学や助産看護ができなかったことをやってくれると期待された人たちである。ドゥーラの役割は医療職の下位の仕事を引き受けるものとしてではなく、人間の尊厳を守るための重要な仕事だと認められる必要がある。

4.日本の良さを生かすこと
 ドゥーラの活動や研究は北米を中心に海外で発達してきた。日本には母乳育児や自然を好む風潮、協調性、気遣いや察しの文化、諸外国に比べて優れた医療制度など特長が多い。諸外国と比べて識字率が高いこと、社会の格差が少ないことなども特長である。海外の知識を日本に導入する際には日本の良さを生かして日本の社会風土に合った方法を考え、最終的には日本で発展させた知識を海外に還元していきたい。

謝辞

 この原稿は小林登先生(東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長・CRN所長)のご指導のもとに作成しました。快く情報を提供してくださったChicago Health Connection、DONA Internationalに感謝申し上げます。特に、今回、ドゥーラトレーナーとしての体験談を寄せてくださったMs. Beth Isaacsのご厚意に感謝いたします。最後に、質問や励ましをくださった読者の皆様、この連載を通して毎回お世話になった所さん、稲辺さんはじめCRNのスタッフの皆様に心から感謝申し上げます。



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