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こどもサイエンストーク
HOME進化編遺伝編宇宙編参考資料研究チームより

参加者から 〜インタビュー結果の概要

 チンパンジー舎の見学のあと、参加した子どもたちに一対一でスタッフがインタビューを行った。
 *数字は回答人数を示す。複数回答を含む

面白かったのはどんなこと?

・チンパンジーの動きやしぐさ…5
・進化の不思議…5
・昆虫の観察やスケッチ…4
・チンパンジーの生活…3
・昆虫とのふれあい…3

アゲハとモンシロチョウの祖先は同じだと思うか?

・同じだと思う…9
・違うと思う…1

<同じだと思った理由>
 ・形態や色の類似性…6
 ・図鑑や人から聞いて知っていた…3
 ・その他…1
<違うと思った理由>
 ・形や色が違うから…1

チンパンジーと人間の祖先は同じと聞いてどう思う?

・遺伝子の類似度に驚いた…4
・遺伝子は近いのに、能力や形態が違うのに驚いた…2
・レクチャーを聞いて理解できた…2
・信じたくない、同じだとは思えない…2

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スタッフより 〜動物園で学ぶ進化

 動物園というフィールドは、進化を考える上で絶好の舞台になりました。昆虫生態館での蝶のスケッチやチンパンジーの観察など、実際に見て聞いて触るという体験が子どもたちの心に強く残ったようで、多くの子どもがそうした体験を「面白かった感想」として述べています。また、ポケモンの中でしか「進化」という言葉を聞いたことがなかった子どもも多く、目を輝かせながら佐倉先生と宮下先生のレクチャーを聞いていました。前回同様、レクチャー後に行なったインタビューから、子どもたちの進化に対する様々な考えがみえてきました。例えば、「アゲハチョウとモンシロチョウの祖先は同じと思うか」という質問に対し、10名中9名の子どもが「同じ祖先だと思う」と答えており、多くの子どもは、蝶の形態や羽の配色が近いことをその理由として挙げていました。中には「どんな蝶でも全て『○○蝶』と呼ばれていて、全部「蝶」という名前がつくから同じ祖先だと思う」と回答したり「人間とかの多細胞動物も、海に居た一つの同じ生物からできたの。だから、部分部分が違う生き物が枝分かれしたみたいにできたから、(蝶も)同じ祖先だと思う」と大人顔負けの高度な知識を披露してくれた子どももいました。また、佐倉先生がレクチャーの中でチンパンジーと人間の遺伝子は約99%同じである、ということを教えてくれたにもかかわらず、子どもたちからは「信じたくない」や「同じとは思えない」など率直な感想も出てきました。実際に動き回るチンパンジーの姿を見た後には、人間との違いを強く感じたのでしょう。ダーウィンの進化論に対する多くの反駁の中には、こうした子どもたちの感想のような見解が多くみられたのかもしれません。

 科学が対象としてきた事象や現象のなかには、われわれの肉眼では捕らえにくいものがありますが、今回のテーマである「進化」もその一つです。考えてみると、大人でも進化について理解することは難しく、さらに進化を目に見える形で体験することは非常に困難です。多くの種が共存する動物園の中で進化について考えることは、時に混乱を生じさせてしまうことになりかねません。特に興味深い感想を例に挙げてみます。「アゲハチョウとモンシロチョウの祖先は同じと思うか」という先の質問に対して、小学5年生の女の子は「同じだと思う。理科の先生から人間の祖先はアフリカの人と聞いた。それと同じだと思う」と答えてくれました。しかし、「チンパンジーと人間の祖先は同じと聞いてどう思うか」という質問に対しては、「同じとは思えない。格好だけでも違うのに、そう思えない」と種間の同一起源には否定的な意見を述べています。また、小学6年生の男の子は、同じ「アゲハチョウとモンシロチョウの祖先は同じと思うか」という質問に対して、「違うと思う。形や色が似ても似つかない」という見解を示し、「チンパンジーと人間の祖先は同じと聞いてどう思うか」という問いには、「(佐倉先生から)類人猿が人間と同じと聞いてわかったし、オランウータンの動きを(学校で)調べているので知っている」と答えてくれました。もちろん、佐倉先生はレクチャーの中で、蝶でもチンパンジーでも全ての生物群が共通の起源を持つことを教えてくれています。興味深い点は、先生から聞いた情報と自分が観察から得た情報をうまく統合することが出来ないこと、つまり一致しない二つの見解を持っているということです。

 例に挙げた二人は、共に小学校高学年ですが、このように「先生から教わったこと」と「自分で見て感じとったこと」の間にはまだ開きがあります。こうした状態を一貫した知識体系の欠如とみることもできますが、当の子どもは、新たな知識とこれまで体験との間にズレや統合の必要性を感じていないのかもしれません。人から教わった知識を自分の体験に結びつける必要性は、そのことが子どもの生活世界の中でどのくらい意味を持っているかということと関係しているのだと思います。いくら科学的に根拠のある事実を教えようとも、それらを子どもが自分の中で意味づけることができなければ、教わった情報と自ら体験したことは繋がっていきません。だからといって、子どもが一定の年齢に達すれば必ず統合されるとも限りません。しかし、子どもが世界に対して抱いている考えや印象を見出すこと、つまり子どもが持っている世界観をあぶりだすことができれば、それは科学的な知見を教えていく際の大きな手がかりとなるでしょう。ここで紹介した感想には、子どもたちの持つ素朴な生物観、進化観がよく表されています。

 サイエンス・トークの目的は、子どもたちに科学的な知見を投げかけることによって、子どもの持つ素朴な考えや世界観(素朴進化観)を浮かび上がらせることです。動物園で行なわれた今回のサイエンス・トークは、先生方のレクチャーと動物の観察を通じて、子どもたちに混乱や葛藤を引き起こしたかもしれませんが、わたしたちの目的からすれば、それはむしろ目論見どおりだったといえます。次回のサイエンス・トークでも子どもが持っている素朴な考えを発見し、子どもの世界と科学の世界との橋渡しを考えていきたいと思います。



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