●HOME●
●図書館へ戻る●
●ABM TOPへ戻る●

子どもと親の発達の関連について
ロバート D.ストローム(アリゾナ州立大学教授)

 多くの幼児が質の高い世話を受けられない理由の一つは、幼少期の発達が将来の成長に多大な影響を与え得ることを親が理解していないことである。幼少期教育プログラムの追跡調査によれば、親と子どもの両方を対象とした教育は、どちらか一方を対象とするよりも、長期的に得るものが多かった。以下に、いくつかの例を挙げよう。

 コネチカット州のニューヘブンでは、低所得の片親世帯を対象にして、子どもの誕生から30ヶ月までの間、実験を試みた。母親は、小児科や保育所で人と接触するほかに、社会福祉士による定期的な訪問を受けた。社会福祉士は、母親が赤ちゃんを尊重して行動するように自覚させたり、遊びを通して赤ちゃんに教える方法をやってみせたり、母親が赤ちゃんと接する姿を観察したり、母親を勇気づけたりした。10年後、実験に参加して社会福祉士の訪問を受けた母親は、実験に参加しなかった母親よりも、小学生の子どもが何を必要としているのかを敏感に感じ取り、子どもとの接触も頻繁であった。子どもに関しても、母親が実験に参加した子どもの方が、実験に参加していない同じような社会的環境の子どもよりも、学校での適応性があり、補習授業を受ける回数が少なく、学校を休む日が少なかった(Seltz, Rosenbaum & Apfel, 1985; Grant, 1998 )。

 テキサス州のヒューストンでは、低所得のメキシコ系アメリカ人の親が1歳から3歳までの子どもを対象としたプログラムに参加した。家庭教師が週2回訪問した。プラグラムの重点事項は、親が子どもの能力やニーズを理解すること、親に対して子どもが満足する教え方をやってみせること、親に自分がもっとも重要な教育者であることを認識させて、勇気づけること、であった。週末には、コミュニケーション、決断の仕方、子どもの発達に関する責任の共有についての講習会を実施した。

 プログラムの2年目は、母親が親業(親としての態度、行動)について話し合う間、子どもは保育所に参加した。

 このプログラムを修了した母親は、プログラムを受けていない母親と比べて、子どもに愛情を与え、子どもと相互行為を行い、子どものために社会環境を刺激していることが観察された。このような違いは、プログラムに参加した3歳の子どものIQが高いことからも確認された。パーソナリティの要因も関係していた。7歳までには、プログラムに参加した子どもの方が、参加しなかった子どもよりも、積極的であり、楽観的であり、他の人のニーズに対して鋭敏であった。また、プログラムに参加した子どもの学校の成績は2から4であり、プログラムの成果が続いていることを表している(Johnson & Walker, 1987)。

 このような独創的な試みは、全米中の至る所で行われている。例えば、ミネソタ州幼児家族教育プログラム(Minesota Early Childhood Family Education program )では、子どもが5歳になるまでの子育て中に、同じような心配や不安や関心事を経験している親同士が話し合うことの大切さを認識して、新生児の親が、2、3ヶ月児の親と話し合うサポートグループをつくっている。多くの経験をした母親と父親は、子どもが同じ発達段階の時に直面した問題を容易に思い出すことができる。親同士で意見を交換することにより、子どもの態度が年齢によってどのように変わり、その年齢に合った子どものニーズは何なのか、が分かり、安心感がもてるのである。プログラム修了者は、後の受講者のために指導者になることを引き受ける。このプログラムは、州の400の学校区に設けられていて、毎年、幼児のいる家族の95%以上が参加している。このプログラムのカリキュラムは、子どもが学校でうまく適応できるように家族を導くものであると親や先生や地域の指導者は信じている(Engstrom, 1995)。

 ミズーリ州は、全ての学校区が3歳未満の子どものいる家族を対象にした親教育のために利用されるように義務化された最初の州(1984年)である。「先生としての親(’Parents as Teachers’)」プログラムでは、親に対して、子どもの肉体的・社会的・知的発達を促進し、ストレスを減少し、親であることの喜びを高め、特別な教育サービスや高額の矯正治療の長期的な必要性を最小限にするように、情報と指導を提供することを目的としている。このプログラムは、年間10万家族以上が対象となっていて、ミズーリ州以外でも35の州が採用していて、子どもが学校や地域にうまく適応できるように、親を援助している(Winter, 1999)。
▲このページのTOPへ

 プログラムの中には、3歳から5歳までの子どものいる家族を対象とするものがある。もっとも有名なプログラムのひとつは、「就学前児童のための家庭教育プログラム(Home Instruction Program for Preschool Youngsters)」(HIPPY)である。このプログラムは、もともとはイスラエルで発案されたが(1969年)、1984年以後、アメリカで運営されている。対象は、学歴の低い親である。高度に組み立てられた実践的な活動カリキュラムによって、親が子どもの教育に関して知らないかもしれないことを補うのである。このカリキュラムは、子どもが言葉の基礎的な概念や数学を学ぶのに役立つ。親であったり地元の人であったりする擬似専門家が、学歴の低い親の家庭を2週間おきに訪ねて、子どもへの教え方を実演したり、親の指導の仕方を観察したり、親へのフィードバックを行う。このプログラムは17州で実践されていて、1万家族以上が対象となっている。このプログラムのアプローチを擁護する人は、子どもの学校の成績が平均よりも高いことを指摘する(Lombard, 1999)。

 「ヘルシー・スタート(Healthy Start)」は、1985年以降、ハワイ州が資金提供するプログラムであって、ケースワーカーが子どもを出産した親に対して病院でインタビューすることから始まる。第1の目標は、子どもを虐待する危険性を親に認識させることである。虐待をする危険性が高いのは、薬物使用者、アルコール依存者、未成年の母親、生活保護を受けている人、子どもの時に虐待を受けたり、配偶者により虐待を受けた経験のある人、である。虐待をする危険性が高いと判断されると、無料で、家庭訪問のサービスが提供される。家庭訪問者は、一般に安定した家庭に育った高卒の者であり、5年間まで訪問家族の相談相手としての役割を担う。対象となった親はこのプログラムに登録することは強制されていないが、断る人はほとんどいない。家庭訪問員の役割は、家族のために、全ての面において代弁者となることである。家庭訪問員は、どのようにして子どもに食べさせて、栄養を付けさせるかを親に教えたり、子どもがきちんと定期的な健康診断や予防接種を受けているかを確認したりする。時には、親の就職先を探すのを手伝ったり、家探しを手伝ったりする。プログラムの成果は著しい。他の州での調査によれば、家庭訪問員がいなければ、虐待をする危険性の高い親の20%が子どもに虐待をする可能性があったという。ヘルシー・スタート・プログラムにより、ハワイでは、虐待をする危険性の高い親の虐待率を1%未満に減らしている。ヘルシー・スタートの運営費用として州が負担する額は、虐待後の保護拘置や子どもの養育にかかる費用の3分の1である。また、このプログラムは犯罪に対しても有益な影響を与え得る。コロラド州の青少年犯罪の初犯者を調査したところによれば、84%が6歳までに虐待を受けていた。幼児虐待は社会における多くの問題の根源のようである。ヘルシー・スタートのような子どもの発達をサポートするプログラムは、全米20州で採用されている(Bond, 1998 )。

 ヘッド・スタート(Head Start)は、もっとも古く(1965年)、もっとも大規模な連邦政府による幼児のいる家族のためのプログラムである。低所得者世帯の4歳児を対象としたカリキュラムでは、より裕福な世帯の子どもと同じようなレベルの知識や技能を持てるようにするのが目的である。最近、特に必要なサポートとして加わったのは、親の影響力を高めて、先生としての機能を持たせることである(Health and Human Services, 1998)。ヘッド・スタートと連携したサービスとして、それほど知名度は高くないが、イーブン・スタート(Even Start)というサービスがある。この連邦政府のプロジェクトの目的は、移民の親が子どもの先生になれるように読み書きの能力を高めることである。多くのイーブン・スタート・プログラムでは、スペイン語による「先生としての親の指標(Parent as a Teacher Inventory)」を採用している。この指標は、著者が発案したものであるが、3歳から5歳までの親を対象にして、親として何を習う必要があるかを明らかにして、親のために提供された教育の成果を測るものである。

 子どもに対する私たちの考えは、徐々に重要な変化が起きている。1965年から1995年にかけての償いの教育の時代は、家族は、恵まれているか、恵まれていないか、どちらかに特徴づけられる傾向にあった。これらの言葉がよく使われた当初は、中流家庭と低所得家庭を区別するために使われた。今日、私たちは、親として成功する条件として、よりバランスの取れた見方ができるようになった。どの所得階級も関係なく、親としてのスキルを身につけることが、全ての子どもの生活から社会的貧困をなくすことができる最良の方法である。さらに言えば、親の態度というものは親の収入よりも重要なのである。
▲このページのTOPへ



Copyright (c) 1996- , Child Research Net, All rights reserved.