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先生と親とのコミュニケーションの改善に向けて
〜PDAとポケベルを利用した試み〜

パリス S.ストローム(アーバン大学)
ロバート D.ストローム(アリゾナ州立大学)

English


 アメリカの高校の先生に対して、生徒の学校生活を改善するために必要な変化を尋ねたところ、親のサポートという回答が最も多かった。最近では多くの親が、電話を折り返しかけることを拒否したり、学校の生徒指導の強化に協力的でなかったり、保護者会への出席を無視したりするような状況にある。このような親の非協力的な態度は、子どもの教室での非行の増加と相関していて、世論調査によれば、親の半数近くが学校での子どもの安全性に対して不安を感じているという結果である。

<親の責任感を高める>

 思春期の子どもの社会的・情緒的発達を導く指導的な役割を果たす権限があるのは親だけであることを先生は認めている。したがって、アメリカ中の教職員が、親に対して中高生の子どもの教育に携わり続けてもらうための方法を模索している。しかし、多くの家族は自分たちの代わりに学校が子どもを育てることを期待しているようである。
 これに対し、ある教育委員会では、家族の責任を学校の先生に押し付けることはできないことを親に知らせている。例えば、シカゴの公立学校では幼稚園から高校までの43万人の生徒の親に対して、5週間おきにレポートを送っている。これらのレポートは親の評価も行っており、評価は以下の基準について、満足か満足でないかを採点するものである。それらの基準とは、生徒は身なりの整った服装をしているか、機敏に行動できるほど睡眠は十分であるか、欠席は最小限であるか、遅刻はしていないか、毎日宿題はしているか、暴力や嫌がらせはしていないか、親は保護者会に出席しているか、などである。評価の低かった親に対しては、地域のボランティアが家庭訪問をして子どもの教育にもっと注意をはらうように働きかける。また、常に落第点をとる親に対しては、子どもをもっと効果的に監督できるようになる方法を学べるクラスに招待される。
 メリーランド州のボルティモアの公立学校でも、これと似たような方法を用いて、親の責任感を高めようとしている。親は生徒のために一定の義務を果たしているか自己評価のレポートを課されている。自己評価の基準としては、生徒が授業に必要な教材を持っているかを確認しているか、宿題を終わらせているかを確認しているか、他人を公平に扱うように親は模範となっているか、先生からの伝言に返答しているか、などがある。生徒は親の自己評価のレポートを学校の事務局に持っていく。レポートの回収率を最大限にするために、親の自己評価のレポートを提出した生徒は、魅力的な賞品が当たる抽選会に参加できる資格を得る。
 教育関連の政策立案者も親が教育に参加しないことに懸念を示している。なぜなら、家族がよい行動や態度を導く規則をつくって強化しない限り、学校の改革は成功できないと考えているからである。人々は、学校での問題行動を最小限にするほどの多大な影響力をもち得るのは親であることを認識している。無作為に抽出された1000人の大人を対象にして、校内暴力やいじめを減らすために最も効果のあるものを1つ回答してもらったところ、親の関与を挙げるものが最も多かった。同様に、ある学校が他の学校よりも優れている理由として、親の協力が最も重要視されていた。
 多くの調査研究において、親が子どもの学習の進み具合をしっかりみている場合、補習、留年、停学、退学の割合はかなり低いという結果が報告されている。親が関与している生徒は、親が関与していない生徒に比べて、卒業後も学習意欲や何らかの勉強をしている割合も高い。多くの親は子どもの学校での成功がよりよい将来のための鍵となることを認識しているにもかかわらず、子どもの学習に果たす親の潜在的な影響力の大きさを過小評価している。
 親と先生が互いに協力すると、生徒の意欲の低さや不適切な行動に対して、お互いを非難するという傾向が少なくなる。したがって、先生は親との協力関係を築いて学習経過を知らせるように勧められている。学校と家庭との密なコミュニケーションは、家庭での会話が著しく減少することが25万人の調査で明らかとなった小学6年生から高校3年生までの子どもに対して特に必要である。親子の時間が減少すると、学校に関する会話が少なくなり、親は何を授業で習っているかが分からなくなる。学校で学習したことを日常生活で応用することも、宿題を終わらせる手伝いをすることも難しくなる。

<先生と親とのコミュニケーションに対する障害>

 青少年期の始まりに親子間の会話が減少するのにともなって、子どもが高校に入学する頃から先生と親との連絡も減ってくる。コミュニケーション不足は、学校側の親との連絡のとり方が確実でなかったり効果的でなかったりするために、ますます悪化する。以下に連絡方法の限界をいくつか挙げよう。
  • 多くの親は働いているため、日中に家に電話をしても連絡が取れない。
  • 何人かの親はe-mailや留守番電話機能のついた電話を持っていない。
  • 生徒が留守番電話やe-mailのメッセージを盗み聞きしたり、消去したりできる。
  • 何人かの親は職場では電話で話すことができない。
  • 先生は一日中授業をしているため、何度も電話をかけられない。
  • 先生はすぐ興奮する親と話すことにためらいがちである。
  • 生徒に渡した学校からの連絡文書は親の手元に届かないことがある。
  • 多くの親は毎日e-mailをチェックしたり、留守番電話を聞く習慣がない。
  • e-mailはサーバーがダウンしたり、時にはウィルスによって破壊されることがある。
  • 親は成績が良いと態度も良いと考えてしまう。
  • 親は親としての努力の成果を確認できるようなフィードバックをなかなか得られない。
 このような学校と親とのコミュニケーション不足はいくつかの悪い結果をもたらす。まず第1に、情報を遅れて入手することにより、親として子どもに十分な影響をあたえることができない。第2に、情報を全く入手できなければ、親は子どもの不適切な行動や褒めるのに値するような行為に対して何の反応もできない。第3に、電話やe-mailでの連絡合戦は、時間や労力がかかるために、コミュニケーションを制限する。こうして、学校からのコミュニケーション不足により、親は正しい道へと導く指導者の役割から撤退し、学校に問題解決を期待するようになる。しかしながら、親が指導者の役割から撤退するのと同様に、先生の何人かも役割から撤退してしまう。先生は子どもの発達段階における問題を解決しようと試みるが、サポートが無いために徐々にあきらめてしまう。親と先生の両者がそっぽを向いてしまえば、何の効果も期待できない。家と学校が歩調を合わせて努力をしない限り、青少年期の子どもの社会的、情緒的、精神的な要求に応えることはできない。


<先生と親とのコミュニケーションの新しい方法に対するフィールドテスト>

 著者はモトローラー社の支援を受けて、2つの新しいコミュニケーション方法の有効性を評価するためのフィールドテストを実施した。これらのシステムは、先生が生徒の行動で気がついたことがあったら記録することを可能にして、必要なときには親にポケベルですぐにそれを知らせることで、不適切な行動を戒めたり、よい行為を誉めて次につながるようにしたりする。そうすると親としての最初にすべき役割を引き受けることができる。この調査は文化的に多様な生育環境を持つ1800人の生徒が在籍する公立高校で実施した。調査では、先生たちにボランティアで参加してもらい、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)の実験をしてもらった。先生はPDAを用いて生徒の行動を記録し、親にポケベルで伝言する。そのことによって地域で研修を受けたと認められる。ポケベルによる伝言は、不適切な行動をとった生徒の親だけではなく、広範囲に実施した。担当教科が多様で、豊富な経験のある14人の先生が選ばれた。選ばれた先生の中には、教頭先生やカウンセラーも含まれていた。PDAの機械はパーム社の「パイロット」が選ばれたが、その理由としては、低コストで使い方が簡単なうえ、すぐにアクセスができて、教室への持ち運びが楽で、学校のコンピューターに接続可能だからである。
 選ばれた先生が担当する1クラスの生徒の親全員に対して、手紙を送り、調査について説明し、ポケベルにメッセージを送る先生についての確認を取った。調査に参加する親はモトローラー社のポケベルが無料で支給され、調査が終わった後も6ヶ月間は無料で持つことができることが事前に伝えられた。研究費からポケベルを購入するという予算の制限上、調査への参加を表明してくれた親の中から調査対象を無作為に抽出した。すでにポケベルを持っている親に対しては、購入費用がかからないため、全員に参加してもらった。108人の生徒の親が調査に参加することとなった。

<PDAを用いて「SCORE」を打ち込む>

 調査者は、SCOREと呼ばれる、出来事を記録する学校コード(School Code of Recordable Events)を開発した。このコミュニケーション・コードには、生徒の行為の良し悪しそれぞれのタイプ、先生の反応、達成レベル、先生や親が要求する情報などが含まれる。先生はSCOREカードのリストに挙げられている出来事を目撃した場合、すぐに対応する番号を手の平サイズのワイヤレスの機械に打ち込む。その情報はのちに学校のコンピューターにデータとして読み込まれる。

<PASSを用いて親とコミュニケーションをとる>

 生徒の行動について親に報告する新しい方法であるPASS−親への警告信号システム(Parent Alert Signal System)−に対するフィールドテストが実施された。10代の多くはポケベルを持っている。なぜなら、親が子どもの安全を心配して、必要なときにはいつでも子どもと連絡が取れるようにしたいからである。学校も同じように思っているのだ。教育者も、生徒が目に余るような行動をとったり、学力基準を満たさなかった時、本来取るべき行動を示し、家での指導をしてもらうために、親にすぐ連絡を取りたいと感じている。親が知っておくべき生徒の行動を見かけた場合、先生はSCOREカードのコード番号を打ち込む。そうすると、その数字でコード化されたメッセージが教室の電話回線を介して親のポケベルに送信される。親はSCOREカードを確認することで、息子や娘がどのような行動を取ったかを把握し、その行動に対して戒めるのか、褒めるのかを判断することができる。親はメッセージを受け取ったことを知らせるために、先生のポケベルに生徒の学籍番号を入力する。
 メッセージは報告すべき行動が起こった当日の5時までに親に送られる。そうすることにより、その出来事について、その日の夜に、親と子どもが話し合うことが可能となる。先生が予定通りに授業を進めるために親は必要に応じて指導しなくてはならない。先生がすばやく適切に目立った出来事を報告してくれると、親は「人生についての授業」をいつ行なうべきかが分かる。このような生徒の行動に対する親への即座のフィードバックは、肯定的な態度の強化や否定的な態度の注意に対して効果的である。

<コミュニケーションの際の問題点>

 フィールドテストを実施している間、先生は調査者に対して問題を報告する義務があった。PDAへのデータの入力、情報の移し変え、生徒の行動を報告する基準、ポケベルへのメッセージの伝達、などが先生から問題として指摘されたが、解決された。先生は、生徒の学籍番号、親のポケベル番号、SCOREコード番号を入力する際にミスを頻繁に起こした。したがって、本調査の前には、先生を対象として、2人1組で練習をしてもらったり、個別に教えたりするような組織だったトレーニング・プログラムが必要であろう。PDAのソフトウェアをインストールするために、技術者と先生のスケジュールを調整する必要があることから、調査計画に地域の技術指導をするグループが含まれるべきである。
 同様に、調査に参加する親全員に対して、ポケベルの使い方やメッセージの解釈やメッセージの受け取りの確認について問題がある時は調査者に連絡を取るように伝えられた。多くの親が失敗したことは、ポケベルからメッセージを受け取ったことを即座に確認しないことであった。特定のSCOREメッセージについて、どのように子どもと接すればいいかアドバイスを求めた親も何人かいたことは注目に値する。それについては、青少年期の指導に焦点を当てた教育プログラムに親がアクセスすることが有効であろう。親と先生はSCOREの基準を改善させるためにいくつかの方法を見出した。


<参加者の評価>

 フィールドテストの終わりに、参加者は調査経験を評価するように求められた。調査書は大学の調査チームに送り返してもらうように、宛名が明記され切手が貼られた封筒が同封された。また、生徒に対しては、プライバシーが守られるように、個別に図書館に行ってもらい、匿名で調査書に記入してもらった。調査書の回答率は高く、先生が100%、親が70%、生徒が94%であった。以下に挙げる参加者の評価から、PASS/SCOREのシステムはかなり有効であることが認められた。
  • 先生の93%が、PDAの使用により、生徒の留意すべき行動を記録することが容易であると報告した。
  • 先生の93%が、PASSは親と連絡を取る方法として電話よりも効率的であると結論を下した。
  • 親の94%が、先生からポケベルにメッセージをもらうのは容易であることに同意した。
  • 親の87%が、コード化されたメッセージは、SCOREカードを参照すれば、容易に解釈できるという意見であった。
  • 親の93%が、ポケベルのメッセージの即時性により、子どもが指導や忠告や戒めをいつ必要としているのかを知る手助けとなっていると指摘した。
  • 全員の親がポケベルのメッセージについて子どもと話し合ったと報告した。
  • 親の97%、先生の93%、生徒の82%が、ポケベルにメッセージをすることにより、家と学校の協力関係が改善することに同意した。
  • 親の98%と生徒の83%が、よい行動を把握するうえで、ポケベルのメッセージが励ましとなった。
  • 先生の92%、親の92%、生徒の82%が、もしよい行動がよいタイミングで認識されたならば、多くの生徒がよりよい行動をするだろうと信じている。
  • 親の95%が、青少年期の子どもに対して行動について教える責任があるのは親であることを認識し、かつ子どもの75%がそれに同意した。
  • 親の92%、先生の93%、生徒の70%が、青少年期や今日の青少年の成長に伴う要求について学校が親に対して教育を提供すべきであると考えている。
  • 先生の93%が、SCOREデータについて先生と生徒が共有することにより、早期にクラスの誤解が解け、統一された方法で対処できることに同意した。
<SCOREとPASSの利点>

 SCOREの利点は以下のように挙げられる。
  • 統一されたコードを用いることで、より正確に生徒の行動を記録し報告できる。
  • SCOREデータを先生同士が共有することで、生徒の問題を監視し抑制することができる。
  • 生徒の社会的発達は記録として累積されて残る。
  • 生徒の不適切な行動から、先生と親は優先すべき指導方法を発見することができる。
  • 先生のコードにより、家族はポケベルを使って親密な会話ができる。
 PASSの利点は以下のように挙げられる。
  • 迅速な通知により、親は指導者として重要な役割を担うことができる。
  • 不適切な行動のタイプが明確になることで、親は青少年期の子どもと向き合える。
  • 親は学校とは異なった方法で子どもを更生させることができる。
  • 生徒のよい行動は、タイミングのよい報告によって、家庭で強化できる。
  • 先生と親との対立が少なくなることによって、コミュニケーションが改善する。
  • 親は子どもの行動に対する指導の効果へのフィードバックをすぐ得られる。
  • 不適切な行動が減ることで、勉強に対する集中力が高まり、学習能力が上がる。
  • コミュニケーション手段としてポケベルを使うことで、先生と親の時間を節約できる。
  • 先生と親が共同ですすんで努力することで、学校はより安全な場所となる。
  • ポケベルは持ち運びが簡単で、使いやすく、コストも低い。
<発達のための次のステップ>

 先生と親と生徒は、PDAとポケベルの使用によって学校でのコミュニケーションが改善されたという印象を強めた。生徒が抱える困難な状況にもっと効率的に対処できるために、学校内で連絡を取り続けるよりよい方法も必要である。同じ生徒を教える違う教科の先生が、生徒が他の授業ではどのような態度を取っているのかを知る方法を確実にしなければならない。先生は情報を共有することで、授業の枠を越えて生徒の不適切な行動を早期に発見することができ、指導するための時間が増えて、問題を解決するための戦略的な方法を考案することができる。
 子どもへの親のサポートと関心を高めようとする学校の努力は、教育者間の協力体制を強めることで、さらに強化されるべきである。先生たちは情報が共有されないと、しばしば矛盾した方法で対応してしまう。一般的に行われているのは、一人で対応する先生の能力を前提としたクラス管理の評価であるが、その場合、しばしば最後の手段として、問題行動を起こす生徒を教頭先生に引き渡すことになる。青少年期の生徒が学校に望むサポートシステムは、先生たちがもっと頻繁に協力し合うことである。先生や学校関係者のためには、SCOREデータを共有したり、協力体制による対応の成功を検証したり、生徒の社会的能力の習得過程を記録したりする方法が開発されるべきである。
 そして次の一歩は親自身の成長である。青少年期の子どもをしつけるのは困難である。なぜなら、子どもの成長過程はより複雑になっているうえ、多くの母親が働いていて、親戚も頼りにできないからである。青少年期の子どもが家で習得すべき課題は、多くの親が身に付けていない知識や技術を必要とする。しかし、特別に必要であると見なされた家族以外は、高校生の親は、一般的な問題への対処のための教育プログラムにめったにアクセスしようとはしない。今回の調査結果によれば、親の92%、先生の93%、生徒の70%が、ポケベルのメッセージによるSCOREの情報に広く対処できるような自主学習的な指導カリキュラムを考案することを勧めている。

<結論>

 学校のコミュニケーション方法はより現代的になり、協力体制がもっと一般的になる必要がある。そのためには、生徒の学校での成功を高めるために、独創的な方法で科学技術を応用すべきである。先生と親との協力体制は、互いを補い合うことで、青少年期の子どもの発達に対する明確で本質的な役割を果たすことができるができる。生徒が数学や生物学がわからないといったような学問的な問題を抱えるとき、親は教えることができないかもしれない。そんな時には、学校がその責任を持つべきである。同様に、もし生徒の問題が不適切な行動の結果であるならば、親は必要な教えを提供すべきである。もっと多くの親が、たとえ忙しくても、青少年期の子どもへのしつけに対して、学校に転嫁できない特有の責任があることを自覚しなければならない。親は善良な市民としての行動のあり方や、生産的な職業倫理観など、極めて重要な基本的な理念を子どもに示さなくてはならない。
 教育者と親は、生徒の不適切な行動だけに注目するのではなく、良い行動に対して学校でも家庭でも認識して強化できるように互いに協力すべきである。高校の先生は、孤立した専門家としてふるまうよりも、協力体制を強化するように努力すべきである。先生と親がSCOREデータを共有することにより、生徒個々の成果や問題を把握でき、協力して対処する方法を考案できるため、生徒にとってよりよいサポートとなる。親と先生が充分に役割を果たせば、生徒の社会的な発達や学問的な達成を改善することができるものである。

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