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CRN設立10周年記念
今日までの10年間の評価点と今後10年間の課題
東京大学名誉教授 石井威望

1.ビットから量子ビット(キュービット)への変化に対応する教育

 過去10年間は「ビット」全盛のデジタル・モデル万能時代であり,デジタルが主流の時代は今も続いている。ある世代より若い人々には,かつてのデジタル技術革新前夜のアナログ技術しかなかった半世紀以上前の世界は,少なくとも実感が持てない。したがって,21世紀にもデジタル・モデル一辺倒で行く以外にないと黙認しているかのように見える。しかし,宇宙に存在するすべてがデジタル・モデルに帰着できる筈もなく,むしろデジタル型アプローチは,案外狭い範囲にしか妥当性を持たない。少なくとも自己反映的(セルフ・リフレクティブ)な論理構造には原理的に不向きである。そもそも,デジタルの量的単位である「ビット」は19世紀に完成した物理学体系,いわゆる古典的宇宙観から導かれた産物であるが,20世紀に出現した量子力学体系,いわゆる量子的宇宙観に対応するのは「量子ビット(キュービット)」であり,キュービットを使った量子コンピュータが自己反映性を扱えることが1985年に明らかになった。したがって,キュービットは原理的に21世紀をリードするキーワードであることはほぼ確定的になってきた。ビット(デジタル・モデル)の拡張であるキュービットを使ったモデル,いわばキュービタル・モデルへの移行が広汎な分野で起こることを,十分織り込んだ未来戦略を必要とする時期に来ている。この変化が教育の面にも反映する筈であり,見方を変えれば過去10年間はキュービタル・モデルへの転換の準備として,取り敢えずデジタルでのウォーミング・アップの期間であったともいえる。



2.CRNの過去10年に及ぶ活動の評価

 インターネットという新しいツール(方法論)の普及を巧みに捉え,ネット活用型の新しいコンセプトを合致させて見事に成功したCRNに対する評価は極めて高い。つまり,前節で述べたとおり,過去10年間は古典宇宙観にもとづくデジタル・モデルの展開であり,リアリティ(存在論)としてはビット数の増大をもたらした。いわば,このビットの蓄積がそれ以前にはなかったユニークな活動を可能にしたことは勿論だが,同時にその限界も漸く気付かれている。
 「子どもは未来である」,あるいは「学生は未来からの留学生」などと言われるとおり,CRNの分野は元来“未知”に由来する大きな可能性をもつ。この未知なるものを本格的に取り扱うためには,方法論上のビットの限界という構造的問題を解決しなければならない。その点が,CRNの10年目の評価によって明らかになってきた。



3.今後10年間の課題

 基本的には,デジタル・モデルからキュービタル・モデルヘの脱皮がCRNの今後の長期的課題であろう。勿論,キュービタル・モデルの情報システムは量子コンピュータを駆使できるのが理想である。しかし,当面ハードウェアとして利用できるのはデジタル・コンピュータしかないという制限があるから,必ずしも満足できる成果は得られないかも知れないが,原理的な問題点やシミュレーション・ワークを通じて一種の未来心理をつかむことはできる筈である。つまり,量子コンピュータの完成以前に,キュービタル・モデルを新しい方法論とする場合の本質的なブレーク・スルーが如何なるものであるか実証できるかも知れない。たとえば,航空機のジェット・エンジンの登場以前のプロペラ・エンジンの時代に,如何に多くの航空関連分野の開発と拡大がなされたかを想起すれば,現時点の歴史的意味が浮き彫りにされるであろう。


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