ヤングアダルトココロも遺伝する増田 喜昭 子どもの本屋 「メリーゴーランド」店主 |
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専門学校の講師をしていた頃、学生の夏休みの宿題に「私の歴史」というテーマを出したことがある。自分の前に生きた人々のことをあれこれ調べてくるというものだったのだが、この時におもしろいことを発見した。それは顔の形やホクロの位置などがおじいさんやおばあさんに似ているだけでなく、ココロも似ているということである。 例えばA子さんのおじいさんは、豆腐屋を営んでいるけれど本当は絵描きになりたかったんだそうだ。家業の豆腐屋を継ぐために絵描きをあきらめたのだが、その孫のA子さんがイラストレーションを学びに専門学校へ来ていたりするのだ。 これをココロと呼んでいいのかどうかはわからないが、これによく似たケースがいろいろとあって、これは、自分の前に生きた人たちの気持ちがDNAの中に入っているのだなあと、学生たちと感動していた。 ルイス・サッカーの『穴』を読み終えて真っ先に思ったのは、そういった人の歴史のつながりだったのだ。 スタンリーはいつもツイていない男の子。学校では「太っちょ」といじめられ、盗んでいないのに盗んだと言われ、「有罪」になって更生施設へ送られる。そこは「グリーン・レイク・キャンプ」という名前でありながら100年以上も雨の降らない、草一本生えていない湖底が果てしなく広がっている所だ。 ここで少年たちは「根性を養うため」と、毎日穴を掘らされているのだ。スタンリーは無実の罪なのに、この不幸な運命を「あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんのせいだぞう」と叫んで受け入れていく。 この穴掘りの物語のなかにもう一つ、このひいひいじいさんの少年時代の不思議な物語が割り込んでくる。100年以上前の、まだグリーン・レイクに水がたっぷりあった頃の、恋の物語である。このひいひいじいさんの物語こそが、スタンリーの運命に大きく結びついてくるという結末があるのだ。 梨木香歩の『西の魔女が死んだ』のなかにも、それがはっきりと描かれていて、体がぞくぞくしたことを憶えている。学校に行かない少女まいと暮らすおばあちゃんが語る、若き日のおばあちゃんの物語は、少しずつ硬くなったまいの心を溶かしていくのがわかる。 この物語もまた、ラストが感動的なのだが、すでにこの世にいない人たちに守られてぼくたちが生きていることを実感できる不思議な2冊である。 |
『穴』 | ||
ルイス・サッカー 著 幸田敦子 訳 |
講談社 | \1,600 (本体価格) |
『西の魔女が死んだ』 | ||
梨木香歩 著 | 小学館 | \1,170 (本体価格) |