●HOME●
●図書館へ戻る●
●一覧へ戻る●

教育書

学校のパラダイム変換と
総合的学習


荒巻正六 学校問題研究家

 東西の冷戦構造の終結と高度情報社会の出現によって、世界的規模における社会変動のうねりが、政治・経済・文化・教育とあらゆる分野に波及している。それは今日までそれら各分野の機構・制度・仕組み・知識の体系等を根本的に規定していた「思考の枠組み=パラダイム」の転換を迫るものである。そこで本号では、学校のパラダイム転換とその典型的発現として創設された「総合的な学習の時間」(以下、「総合的学習」)に関する次の2書を紹介したい。前者に関するものとしては、横浜国立大学教授・高橋勝氏の『学校のパラダイム転換』、後者に関するものとしては、ベネッセ教育研究所顧問であり、前国立教育研究所企画調整部連絡協力室長であった高階玲治氏の『総合的な学習の時間』である。

 前書の著者・高橋勝氏は、現代ドイツ教育学の一つの潮流をなしている「教育人間学」の研究者である。その立場から啓蒙期以来の、教師が教えて生徒が学ぶ、あるいは教師が問いかけ生徒が答えるという硬直した学校を、みずみずしい創造的立場としての「経験の空間」に変えなければならないという。特に高度情報社会における記号・映像などの視覚的経験が主流のなかで衰弱した五感の再生を図るためには、一つの問題にねばり強く取り組み、試行錯誤を重ねながら対象に迫っていく「活動的学習空間」として考えられなければならないという。それはまた「実践的学習」として具体化され、「自己決定能力」や「共同決定能力」を育んでいくはずである。こうして学校は「人間形成空間」として再生されるとする。これらはまさに「総合的学習」の哲学的基礎というべきであろう。その詳しい理論的展開は読んでいただくしかない。

 次に、高階玲治氏の『総合的な学習の時間』であるが、書店にあふれる類似書が、教課審の答申の解説や楽観的期待論に終始しているなかで、本書の持つ次の特色をあげておきたい。第1点は、著者が巷でささやかれる疑問を無視することなく大事にしながら論を進めていることである。第2点は、第3章で見る通りスプートニクショック以来の世界の教育思潮を追いながら、「総合的学習」創設の背景を克明に描いていることである。そのなかで特に情報化・国際化の進展と学校不適応現象の増大というギャップや教育のスリム化と拡大というジレンマにどう対応するかを論じている点で、著者もあまりにも複雑すぎて明確な答えが出ないと述べているが、著者のこの真摯な学究的態度は全編を貫くものであり読者の共感をよぶところでもある。さらに本書には、先進的実践校の豊富な研究事例や各種調査をふんだんに集録しているのも大いに参考になる。「総合的学習」に関する出色の一書としてぜひ一読されることをお勧めしたい。



学校のパラダイム転換 総合的な学習の時間

『学校のパラダイム転換』
高橋 勝 著 川島書店 \2,000
(本体価格)

『総合的な学習の時間―自ら学ぶ力をどう育てるか』
高階玲治 著 ぎょうせい \2,400
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第251号 2000年(平成12年)3月1日 掲載


Copyright (c) 1996- ,Child Research Net,All rights reserved.

?