教育書新しい学校図書館のあり方を考える 永井 聖二 群馬県立女子大学教授 |
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学校教育が、既製の知識・技術の伝達にとどまらず、「学び方を学ぶ」こと、学習への動機づけを図ることにシフトしていくべきだとの主張は、近年ますます盛んになっている。 それが、学習指導要領にある「生きる力」ということになろうが、昨今の学力低下論争にも表れているように、事はさほどに容易ではない。自らの知的関心に基づく問いを見いだすことは大切であっても、半面、正確な知識の伝達のない「学び方の学習」というものも、存在しないのではなかろうか。 とすれば、今日求められているのは、学校教育の目標の転換ということではない。むしろ、さらに高度な成果を求められることになるのだ、と理解するのが妥当であろう。 そして私たちが、今、目指さねばならないことは、新しい学習を成立させるために必要な、設備、資材といったハード面の条件整備を進めることである。教師の心構えも重要だが、教師の仕事を支える条件の改善が、社会的なコストをともなって具体化されることが不可欠といえる。子どもたちの知的探究の場としての、また教材センターとしての学校図書館の整備などは、まず第1に取り組まれるべき課題である。 熱海則夫・長倉美恵子氏の共編『子どもが生きる学校図書館』は、これまでの類書のような技術的な解説に偏ったものではなく、学校運営のマネジメントを説くという点に特徴がみられる。 「『総合的な学習』と学校図書館」といったテーマのほか、「情報リテラシーと学校図書館」「『心の教育』と学校図書館」など、これまであまり論じてこられなかったテーマが盛り込まれている。マルチメディアを生かした学校図書館運営についても紙幅がさかれたうえで、先進的事例が多く紹介されているが、ここでは豊富な図版や写真が興味深い。 もう1冊、黒沢浩氏の編著『学校図書館入門 子どもと本と教育をつなぐ』は、手堅い標準的な編集だが、それだけに学校図書館の担当となった教師には参考になろう。 教師の要求に応えて、学校図書館部の司書教諭が教材のビデオ、地図、CDなどを組み合わせて学校に配送してくれるというオーストラリアの事例、教師用図書館が市内数か所にあり、専任の教育専門司書が教材作成を援助してくれるカナダのバンクーバーの事例を目にすると、わが国でもこうした方向の施策の充実が望ましいことを痛感する。 学校図書館法の改正により、2004年度以降は一定規模以上の小・中・高校に司書教諭の配置が義務づけられた。新しい学校図書館の発想を手がかりに、教師の仕事のあり方を考えてみたい。 |
『子どもが生きる学校図書館』 | ||
熱海則夫・長倉美恵子 編著 | ぎょうせい | \3,800 (本体価格) |
『学校図書館入門―子どもと本と教育をつなぐ』 | ||
黒沢 浩 編著 | 草土文化 | \1,400 (本体価格) |