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教育・一般書

異文化・異言語を学ぶ人の
脳に刺激を


あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト

 大学でしばらく英語を教えてみてわかったのは、多くの生徒にとって中学校や高校での英語教育は、「こじ開けようとすればするほど引っかかって余計に開かなくなってしまう扉のようなもの」ではないか、ということ。彼らにしてみれば、6年間も続いた苦い記憶を執拗に引きずったまま、大学でも(とりあえず日常には必要のない)英語の授業を受けなければならない。だから、教える側としては、言葉を教え込むよりも、まず英語というもう一つの言語に対する学生の態度や発想を変えていくことが先決なのだった。

 今、2002年度から導入されるところもある小学校での外国語会話などが話題となっている。従来の英語教育や英会話なら、私は断固として反対だ。しかし、『やってみよう!英語』を読んで、これなら絶対おもしろい! と膝を打った。

 本書は、「総合的な学習の時間」の一環として国際理解教育に英語を取り入れながら子どもたちに教えようという新しい試みであり、その基本的な考え方や方法を具体的に提案している。著者はアメリカ、リベリア、エチオピアなどに暮らし、国際理解教育の研究と実践を積んできた。小学校教育用に書かれたものとはいえ、どんなレベルの学びにも貫かれる異文化の本質的なとらえ方、他の言語を学ぶ時の基本的な姿勢を明確に指し示している。

 無知は偏見をつくる。だが、知識も往々にして人の考え方を硬直させたり、狭くしたりもする。知識が人を豊かにするのは、その根本に、より広く、より自由な発想がある時だろう。

 想像力を育てる。答えを先に出さない。今、全部わからなくてもいい。「まちがい、失敗」を大切にする。答えはそれぞれ違う。自分で調べる学習が学びの質を変える。教え込む英語教育はやめる。ジャパニーズ・イングリッシュを。…などなど、本書に散りばめられたおのおののメッセージは、さまざまな試行錯誤を肯定し、視野を広げ、他者への関心、かかわりを喚起する新たな学びのスタイルを形づくることだろう。

 さて、寝転がりながら、異文化理解のための頭の体操をしたい大人たちは『魔女の1ダース』をどうぞ。

 ロシア語の同時通訳者として活躍する著者が、さまざまな異文化がぶつかり合う現場での体験をネタに、観察、洞察を披露。うんちくを傾ける? いや、決してお上品とは言えないけれども抱腹絶倒のエッセイは、他の文化、他の言語を考えるための筋力を鍛え、脳に刺激を与えるに違いない。でも、突発的に笑い出したりするので、電車の中で読むには要注意。



公立小学校でやってみよう!英語 魔女の1ダース

『公立小学校でやってみよう!英語』
吉村峰子 著 草土文化 \1,700
(本体価格)

『魔女の1ダース』
米原万里 著 新潮文庫 \476
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第253号 2000年(平成12年)5月1日 掲載


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