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自然科学書

分子生物学の
最前線をたずねる


森田暁 博物館プランナー

 遺伝子組み換え物質、遺伝子治療、クローン人間など、分子生物学やバイオテクノロジーの最前線の話題は、人の生死にかかわることが多いために、比較的よく新聞などでも報道される。それでも日本の報道機関の科学部の体制は十全とはいえないから、重要な話題で、しかもそれに日本人がかかわっていても記事が載らなかったり、扱いが小さいことも多い。

 例えば、1997年9月、若山照彦博士は、ハワイ大学においてマウスのクローンを誕生させることに成功した。有名なクローン羊ドリーがイギリスで誕生してから半年後のことである。この結果は再現性の可能性の低いドリーに比べて重要なものだったが、学会で認められるまで10か月を要し、ようやく98年7月に世界で最も権威のある自然科学の学術雑誌「ネイチャー」に掲載され、その表紙を飾ることにもなったのである。『リアル・クローン』はその研究の成功から発表までの経緯を、博士の実の兄がつづったドキュメンタリー。現代科学の現場が生き生きと再現される。

 もう1冊の『DNAのらせんはなぜ絡まらないのか』は、アメリカを代表する新聞「ニューヨークタイムズ」の科学欄の中から、DNA関連の記事を集め、この分野の研究の現状を知らせようという意図でまとめられたもの。編者は、この欄の常連であり、アメリカ有数の科学ジャーナリストである。人間の起源、ヒトゲノム計画、病原菌の遺伝子解明、クローン研究、ヒトの形態生成、遺伝子治療など専門外の人が関心を持ちそうなテーマを取り出しながら、そのなかで科学の最先端で行われている基礎研究をきちんと紹介している。

 例えば、クローンのことを扱うにしてもマスコミではヒトのクローンが可能かどうか、そういった研究は倫理的に許されるのかどうかに関心が集中したが、本書では、普通は動物は受精卵という細胞からしか生まれず、体の細胞となってしまったものからもう1度動物の個体ができることがないのはなぜかという生物の基礎の基礎を解説したうえで、学問の最先端を紹介している。ぜひ手にとってほしい本である。



リアル・クローン DNAのらせんはなぜ絡まらないのか

『リアル・クローン』
若山三千彦 著 小学館 \1,500
(本体価格)

『DNAのらせんはなぜ絡まらないのか』
ニコラス・ウェイド 編
中村桂子 監修
翻訳工房ことだま 訳
翔泳社 \2,300
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第253号 2000年(平成12年)5月1日 掲載


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