ヤングアダルトいい歳になったらいい顔になりたい 増田 喜昭 子どもの本屋 「メリーゴーランド」店主 |
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絵本は子どものためだけのものではないということは、いまさら言うまでもないことだけれど、ガブリエル・バンサンは、まさにその世界をぐっと押し広げた人だ。『アンジュール―ある犬の物語』をはじめとする彼女の一連の作品は、確かなデッサン力と温かい線で、見る者の心をひきつけている。 新作の『ナビル―ある少年の物語』は、学校で先生に聞いた壮大なピラミッドの話に魅せられた一人の少年が、自分の足で歩いてそれを見に行こうとする物語である。途中、いろんな人に出会い、道をたずね、とうとう砂漠のなかにそびえ立つ巨大なピラミッドと感動的な出合いをする。 絵で語る――まさにバンサンの表現力が、文章をほとんど必要としないまでに後半のストーリーを盛り上げる。何度も眺めていて、「あっ」と思った。登場する大人たちの顔が、なんともいえぬ味わいのある顔なのである。一人で冒険の旅をする少年を支え、励ますいい笑顔をしているのだ。 こんないい顔をした大人が街にたくさんいたら子どもたちはうれしいだろうなあ…とぼんやり考えながら、今年50歳になる自分の顔を眺めてみる。「もういい大人になったのだから、自分の顔には責任持たなくちゃ」などと神妙に考えてみたりする。 いい顔といえば、『よあけ』という絵本のなかの老人の顔は最高だ。湖のほとりに少年と眠っている老人、火をおこす老人、ボートをこぐ老人、どの場面の老人もにっこり微笑んでこちらを見ている。 ページをめくるごとに少しずつ明るくなり、夜が明けていくという静かな絵本だが、これもまた言葉少なく、水彩の淡い色で、微妙な夜明け前の風やにおいや空気を表現している。 そういえばこの絵本を何人かの古い友人に贈ったことがあった。この美しい世界を体験してほしかったからだ。うっとりと静かな絵本を眺める時間を持ってほしいという願いもあった。ぼくたちの世代は忙しい人が多いからだ。もちろんぼくもその一人である。 どんなに忙しくしていても、毎日太陽は昇り、潮は満ち引き、少しずつ周りの風景は変化している。それはまさに感動の連続なのだ。 その自然のなかにあって不自然じゃない顔になりたい。にこりと笑うだけで少年を安心させることのできる、そんな顔になりたい。 2冊の絵本を眺めながら、なぜか、自分の顔のことばかり考えてしまった。そろそろ、そういう年齢なのだろう。 |
『ナビル―ある少年の物語』 | ||
ガブリエル・バンサン 作・画 今江祥智 訳 |
BL出版 | \2,500 (本体価格) |
『よあけ』 | ||
ユリー・シュルヴィッツ 作・画 瀬田貞二 訳 |
福音館書店 | \1,200 (本体価格) |