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笑いのエネルギー


片岡千鶴 映画評論家

 笑いにはエネルギーがある。人を楽しませたり、和やかにしたり、元気づけたりと、笑いが生み出すエネルギーはさまざまだ。だが、そのエネルギーの真価が発揮されるのは、実は幸福な状況下よりも逆境の最中であったりする。逆境にあって、笑いは時として人々に安らぎや活力を与え、癒し、生きる糧となる。今回はそんな笑いのエネルギーに満ちた作品を紹介してみたい。

 『パッチ・アダムス』は実話に基づいた物語だ。タイトルでもあるパッチ・アダムスことハンター・アダムスは、今なお健在の医師で、「笑いと思いやりが医療効果を上げる」と説いた先駆者である。

 かつて生きる目的を失って精神病院に入院したパッチは、そこで人生の転機を迎えた。強迫観念に駆られた同室の患者を笑わせ恐怖を克服させたことで、将来医者になろうと決意したのだ。

 それから2年後。念願の医学部に入学した彼が見たものは、理想とは大きくかけ離れた現実だった。清潔だが冷たさの漂う病棟。医者と患者の間には、高度な医療技術はあってもコミュニケーションはまったくない。そんな状況にあ然としたパッチは、カタブツの教授陣から非難されながらも“笑い”を取り入れた治療を実践してゆくが…。

 今でこそ笑いと治療との密接な関係が取りざたされているが、当時は型破りで異端視された。理想の前には必ず厳しい現実が立ちはだかる。

 さて、もう一つの作品『ライフ・イズ・ビューティフル』は、昨年アカデミー賞を3部門も受賞したので、ご存知の方も多いはず。

 舞台は1939年の戦火迫るイタリア。本屋を開くためにトスカーナの町にやってきたユダヤ系イタリア人のグイドは、そこで運命の女性ドーラと出会った。持ち前の明るさとユーモアで彼女との恋を成就させたグイドは、やがて幸せな家庭を築くことに。

 ところが、順調だと思われた結婚生活は、彼らの一人息子ジョズエの5歳の誕生日に破綻する。ナチスのユダヤ人迫害の魔の手に捕らえられ、一家は収容所送りになってしまうのだ。幼いわが子を守るため、グイドはある決心をするのだった。

 『ライフ・イズ・ビューティフル』にはユーモラスな笑いがふんだんに散りばめられているが、前半のそれと後半のそれとではガラリと意味合いが違ってくる。前半には恋を謳歌する奔放な笑いが、後半には勇ましくも涙ぐましい笑いがある。

 「笑いは幸福へのいちばんの近道」とは、映画『マイケル』に出てくる人間臭い大天使ミカエルの言葉だが、皆さんはどう思われるだろうか。



パッチ・アダムス ライフ・イズ・ビューティフル

『パッチ・アダムス』
カラー/ステレオ/115分 CIC・ビクタービデオ株式会社/発売・レンタル中 \2,980
(本体価格)

『ライフ・イズ・ビューティフル』
カラー/ステレオ/117分 アスミック・エース エンタテイメント/発売・レンタル中 \16,000
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第255号 2000年(平成12年)7月1日 掲載


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