ヤングアダルト真剣勝負の相手は?増田 喜昭 子どもの本屋 「メリーゴーランド」店主 |
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久しぶりに真剣勝負をした。といっても、子どもたちのキャンプで、自称「仙台のコマの名人」と対決しただけのことなのだが、これが結構すごい勝負になり、大変盛り上がってしまった。ほんのお遊びのつもりだったのだが、いざ始めてみると、2人のおじさんは子どもの頃の記憶がよみがえり、すっかりその気になってしまったのだ。 お互いの得意技を一つずつ出し合って競った。拍手の数で勝敗を競うのだが、子どもたちの判定はなかなか厳しく、技の一つひとつに全神経を集中したぼくたちはぐったり疲れてしまった。なのに2人は固い握手をし「来年もやりましょう」ということになった。 勝敗の結果よりもむしろ対決する相手がいることの喜びのほうが大きかったのである。 前置きが長くなってしまったけれど、今回は2冊の真剣勝負の漫画を紹介したい。 1冊目は、ただいま刊行中の『バガボンド』だ。原作は吉川英治の『宮本武蔵』なのだが、子どもたちは「原作より読みやすくておもしろい」と言う。まだ7巻までしか出ていなくて、何巻まで続くのかもわからない。原作をワクワクしながら読んだおじさんたちは多いだろうし、ぼくもその1人だけど、この作者の井上雄彦の絵の迫力はかなりのものだ。続きが早く読みたくなってしまう。原作ファンとしては少し寂しいが、こんなかたちで国民文学は再読されていくのかもしれない。 殺すか殺されるか、17歳の武蔵と又八の立身出世の夢はどうなっていくのか、そこに描かれる少年の心と周りの大人たちとの絡みは、やはりおもしろい。 もう1冊、松本大洋の『ピンポン』は全5巻で完結しているので、続きが読みたくてイライラすることはない。 卓球のライバル同士である幼なじみの物語で、漫画ではあるのだがそのコマとコマの間になんだか文学や詩の世界が見えてくる。「274cmをとびかう140km/h 地上最速の球技、卓球!!」と帯には書かれているが、卓球そのものへの興味よりも、やはり人間関係のやりとりにより心ひかれるものがある。 勝者と敗者、何に勝ち何に負けるのか、青春には、いや人生には、いつでもゲームのようにこの勝ち負けがついてくる。 「自分の小遣いで買うなら漫画」と答える子どもたちは多い。ぼくの店は子どもの本屋なのに漫画が少ない。だが、読んでみると、映画でも、小説でも描けない微妙な空気が存在していてゾクゾクするのはやはり魅力的だ。 |
『バガボンド』1〜7巻、以下続刊中 (c) I.T.Planning,Inc. (http://www.itplanning.co.jp/) |
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井上雄彦 著 原作・吉川英治『宮本武蔵』より |
講談社 | 第1巻・\533 (本体価格) |
『ピンポン』全5巻 | ||
松本大洋 著 | 小学館 | 各\874〜876 (本体価格) |