一般書多元文化が共存し合うことで教育の明日が見えてくる あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト |
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この2冊、並行して読み始め、ほぼ同時に読み終えた。こんなことは珍しい。テーマは関連するところも多いが、書き方はまったく異なる。 異文化をめぐる心理を研究するアメリカの社会心理学者デーヴィッド・マツモトは、サンフランシスコ州立大学の教授。『日本人の国際適応力』では、日米に限らず、自国以外の海外での生活に適応するためにごく普遍的で重要な心理的要素を探り、簡潔にまとめている。彼の考案した心理テストも入ったチャート的な展開を売りにしており、あくまでも異文化の細かな知識を記述したものではない。 だが、柔道の師範でもあり、サンフランシスコの道場で子どもたちを教えているという著者らしく、読者対象の範囲はビジネスマンや学生のみならず、子どもたちも愛情を持って視野に入れている。ちなみに、彼はアメリカで生まれ育った日系人である。 『外資系で働くということ』を著した林謙二は、生まれも育ちも日本だが、大学でドイツ語を専攻し、いったんは邦銀に勤めた。後に、いわゆるヘッドハンティングされて外資系銀行に移り、国際的なキャリアを積んでいる現役のビジネスマンである。本書では、日系と外資系との違いをシャープに細かく説明している。彼は日本人として外資系銀行で成功しつつも、その比較の仕方には偏りがない。どのような視点から見ると、双方にはどのようなメリットやデメリットがあるのかを具体的に論じる。本書は良心的な比較文化の書ともいえる。また要所では日系、外資系の共存を唱える。 しかし、子どもも対象に含む『日本人の国際適応力』はともかく、「進研ニュース」の書評欄に企業の話はどうかと思われる向きがあるかもしれない。だが、働く現場で何がどう要求されるのか。人の動き、組織の性質などなど、これからの教育を考えるうえでも、かなり興味深く参考になるのだ。 マツモトは、さまざまな文化が交差する国際社会において、多元文化の共存を明確に志向している。つまり、自国の文化的なアイデンティティーを持ちながらも相手の文化も評価し、関係を伸ばしていける人間を育てることを最高の理想とし、そのために「異文化適応のプロセスに対応できるだけでなく、多元文化性というより大きな心理的なプロセスにも対応でき」るようになることを教育の目的とする。 これは単に日本人の海外体験や帰国子女などの話ではない。コミュニティー、家庭、学校など自国のあらゆる場所のあり方の理想ともつながる。彼の言う「多元文化性」はこれからの教育を考えるうえでの糸口となるはずである。 |
『日本人の国際適応力―新世紀を生き抜く四つの指針』 | ||
デーヴィッド・マツモト 著 三木敦雄 訳 |
本の友社 | \1,800 (本体価格) |
『外資系で働くということ』 | ||
林 謙二 著 | 平凡社新書 | \660 (本体価格) |