教育書子どもが育つ環境として地域を再考する 永井 聖二 群馬県立女子大学教授 |
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地域の教育力への期待が高い。教育の再生のために、地域や家族といった共同体の教育力に期待が集まっている。個性的な学校づくりを目指すうえでも、地域や家庭と学校の連携の視点は欠かせない。 ただ、地域にせよ家庭にせよ、その変容には社会変動の背景があるだけに、教育力の再生への期待も容易には実現しないと見ざるを得ない。地域の教育力の再構築に、都市化の進行のなかでどう具体的に取り組むかが問われるのだ。 とはいえ、現代の子どもと地域の関係は、光の部分とともに陰の部分がある。中村攻氏の『子どもはどこで犯罪にあっているか』は、子どもの生活の発達という視点から居住地のあり方を研究してきた著者が、子どもが地域において犯罪に巻き込まれる実態を調査して、地域と子どもの陰の部分に警鐘を鳴らす。 「従前(高層住宅に引っ越す前)の住宅事情(広さや周辺環境など)が一定の水準以上にある居住者だけを抽出すると、高層住宅の子どもの生活へのマイナスの影響は鮮明」「地域の性格にかかわりなく、どの小学校でも、小学校の高学年になるまでに4割前後の子どもが犯罪の危険に遭遇している」などと、時にショッキングとさえ思われる内容を明確に指摘する本書は、読みごたえがある。「犯罪危険個所には、そこが危険個所たり得る空間的要因が必ず存在する」との視点から、詳細な地図と写真によって示されるケーススタディーの成果も、それぞれに有益であろう。 さらに、データの蓄積のうえに示される「都市を、もっと多くの人々が働き、学び、生活を楽しむ場所として再生していく」「生活のすべてを金もうけの対象にするような情報化は再検討が必要」「巨大生活空間の建設にも再検討が必要」といった著者の主張にも、ぜひとも注意を払いたい。 一方、『冒険遊び場がやってきた! 羽根木プレーパークの記録』は、子ども自身が創造する遊び場を目指す、アドベンチャー・プレー・グラウンド導入の記録である。 冒険遊び場、アドベンチャー・プレー・グラウンドについてはよく知られているが、その魅力については当然として、ここではその実現のためのさまざまな人々のかかわりに注目して本書を読み直すことを提案したい。 子どもたちのための新しい取り組みが、どのような人々によって担われ、どんな問題を克服していったのかというプロセスを参考にして、地域と子どもとの新しい関係と、それを支える地域の大人たちの関係が、いかにして可能なのかを考えてみたい。 |
『子どもはどこで犯罪にあっているか』 | ||
中村 攻 著 | 晶文社 | \1,900 (本体価格) |
『冒険遊び場がやってきた!』 | ||
羽根木プレーパークの会 編 | 晶文社 | \2,233 (本体価格) |