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善き人がハッピーであること


片岡千鶴 映画評論家

 ある日、ジョージ(ジェームズ・スチュワート)は考えた。これまで自分は頑張ってきた。一生懸命働いてきた。なのに、このひどい状況はどうだ? こんな自分に、果たして存在価値はあるのか?

 「いつかは田舎町を出て成功したい」という夢を、家族のためにあきらめたジョージ。理想の町づくりのために貧乏な人々を助けてきたジョージ。そんな彼が絶望のなかで激流に身を投げようとした刹那、彼の前に“三流天使”が現れる。その天使は、「もう一度ジョージに希望を持たせることができたら昇格させてやろう」と神様に言われ、地上に舞い降りたのだ。

 このSFともメルヘンとも形容しがたい要素が展開のかなめとなる『素晴らしき哉、人生!』は、タイトル通り平凡で善良な1人の男の人生を通して、生きる素晴らしさを謳歌した作品。成功や富も確かによいけれど、それイコール人間の存在価値とは違うのだよ、と語りかけてくる。懸命に頑張っていれば報われる時がきっと来る、というエールが込められている。

 さて、もう1つの作品『ギルバート・グレイプ』の主人公ギルバート(ジョニー・デップ)もまた田舎町で一家の大黒柱として生活する若者だ。4人の兄弟姉妹の長兄である彼は、地元のスーパーで働いている。

 ギルバートには、アーニー(レオナルド・ディカプリオ)という知的障害を持つ弟がいるが、その面倒を見るのもすべて彼の役目だ。仕事に行くにも散歩をするにも必ずアーニーを同伴し、トイレ、入浴、就寝まで付き添ってやらねばならない。少し目を離せば鉄塔に登り警察沙汰を起こすアーニーだが、ギルバートはいやな顔一つしない。

 そんなある日、彼の前に1人の女の子が現れる。キャンピングカーで旅行中だった彼女は、エンジンの故障でしばらく町に滞在することになったのだ。彼らはたちまちお互いに好意を抱き、急接近するのだが…。

 この2つの映画は、つくられた時代が違うので、当然スタイルも趣もまったく違う。『素晴らしき哉、人生!』は古き良きアメリカ市民としてのスタイルを守っているし、『ギルバート・グレイプ』にはどこか飄々とした風変わりな要素がふんだんに散りばめられている。それでも両者に共通しているのは、人間の生きる意味と価値を問いかけている部分。金銭や物質では得ることのできない満足感を垣間見せてくれるのだ。

 善き人がハッピーであるのを見るとホッとする。そんな映画を観ると、じんわりと心が温まる。それはきっと、この現実もそうあってほしいと願うからなのだろう。



素晴らしき哉、人生! ギルバート・グレイプ

『素晴らしき哉、人生!』
モノクロ/モノラル/130分 株式会社東北新社/発売・レンタル中 \3,800
(本体価格)

『ギルバート・グレイプ』
カラー/ステレオ/117分 株式会社アスミック/発売・レンタル中 \15,800
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第258号 2000年(平成12年)11月1日 掲載


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