自然科学・一般書「動物園」を教材に森田暁 博物館プランナー |
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「生きる力をつけるための『総合的な学習の時間』」、と言われても困るのは、子どもたちの生活範囲は、基本的に家庭と学校とテレビゲームなどのメディアに限られているからである。日常生活そのものを自然科学の対象として扱うのはかなり難しい。彼らの領分であるメディアに入っていくのはとても危険である。そこで浮上してくるのが、彼ら子どもたちと教師とが共有しうる唯一の場所としての動物園である。 『動物園というメディア』は必ずしも理科系の本ではないが、「科学の社会史」の本と理解できないこともない。「『人間』は動物園でつくられる」と題された第1部には、現代日本における動物園の意味を分析した政治学者や社会学者の文章が、「日本人と動物園」と題された第2部には、欧米や日本の動物園の歴史、日本人の動物観、日本の動物園の現状分析などの文章が並ぶ。最後の第三部では、富山市ファミリーパーク飼育課長の山本茂行とデザイン史家の柏木博がそれぞれの立場から、21世紀における動物園のあり方について展望を語る。この本に収録された10の文章を通読することで、読者の持っている動物園に対する通念が、かなり変わっていくことだろう。 そのうえで読んでもらいたいのが、『動物園アイドル図鑑』である。著者は、タイ料理に関する本で有名な、元児童文学編集者。この本は、前書とは一転して、幼児・児童の目で見た動物園体験記である。タイトルそのままに北海道旭川市・旭山動物園のオランウータンの坊や“釧太郎”から沖縄こどもの国のトラの“しーま”まで、子どもたちが「カッワイー!」と言うに違いない動物たちの写真が網羅されている。これらの動物たちはいずれも野生育ちではなく、動物園で生まれた個体ばかり。子どもたちにまず動物そのものへの関心を向けさせ、そのうえでアフリカや南アメリカで生まれた動物たちがなぜここにいるのかを端緒にして、国際社会、世界史、環境問題などさまざまに、授業のテーマを広げていくことができるだろう。 |
『動物園というメディア』 | ||
渡辺守雄ほか 著 | 青弓社 | \1,600 (本体価格) |
『動物園アイドル図鑑』 | ||
戸田杏子 文 さとうあきら 写真 |
世界文化社 | \1,300 (本体価格) |