教育書新しい学校像を考えるために 永井 聖二 群馬県立女子大学教授 |
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教育改革国民会議の中間答申は、地域のニーズに根ざした「新しいタイプの公立学校の設立」を提唱している。従来型の日本の学校にも評価されるべき点は多いが、人々が学校の現状に疑問を持っていることは否定できない。保護者の教育要求が多様化していることも確かで、一定の基準を整備したうえで、新しい学校の設立を支援することは、あってもよいように思える。 ただ、その際には、それが「学校において正統とされ、伝えられる『学校知』とは何か」を問い直すこととかかわっていることが、忘れられてはならない。そうでなければ、「地域のニーズ」という抵抗しがたいスローガンの内容によって伝えられるべき「学校知」が忘れられる懸念を、ぬぐい去ることは難しい。 川上邦夫氏の訳による『あなた自身の社会―スウェーデンの中学教科書』は、表題の通りスウェーデンの中学教科書。「自分自身の意見を持つことを徹底して奨励している」「社会は自分たちの手で変革できることを教えている」「さまざまな角度から社会的存在としての人間に光を当てている」といった特徴を持つが、特に「実社会への手引き」となっている点が最大の特徴として注目される。 例えば家族の生活についてでは、結婚の条件として、18歳以上であること、近親でないこと、同性とは結婚できないことなどを条件としてあげ、「結婚は対等な人間間の契約です」「結婚をしないで一緒に住んでいる人も多い」「同性愛者は結婚できない」「国とコミューンは家族政策を実施している」といった小見出しが並ぶ。系統的な学習にも長所があるが、身近な問題について学ぶこうした教育内容の特徴は、今後の日本の学校のあり方にも大いに参考になろう。 あと1冊、東京シューレの編による『フリースクールとはなにか―子どもが創る・子どもと創る』は、フリースクールの歴史や実態、代表的なフリースクールである東京シューレの実際の活動が紹介されている。 学校の役割をどう位置づけるのか、個人の「学び」の欲求をできる限り尊重したうえで何を共通のものとして求めていくのか―これらの疑問にどう答えるかは、これからの学校のあり方を考えるうえできわめて重要な課題である。 不登校やいじめの問題とのかかわりで話題になることが多いフリースクールだが、そのトータルな姿を理解するのに適当な本は案外少ない。本書は、学校関係者がフリースクールについて理解を深めるための格好の入門書といえよう。 |
『あなた自身の社会―スウェーデンの中学教科書』 | ||
アーネ・リンドクウィスト ヤン・ウェステル 著 川上邦夫 訳 |
新評論 | \2,200 (本体価格) |
『フリースクールとはなにか―子どもが創る・子どもと創る』 | ||
東京シューレ 編 | 教育史料出版会 | \1,750 (本体価格) |