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ヤングアダルト

老人の描く老木の力強さ


増田 喜昭 子どもの本屋
「メリーゴーランド」店主

 佐藤忠良(ちゅうりょう)といえば絵本『おおきなかぶ』の絵を描いた人で彫刻家だなぁ…。そう思いながらふと手に取ったのが、月刊誌「こどものとも」の2001年2月号、『木』である。鉛筆デッサンのコブコブの太い木の幹が表紙に描かれている。表紙をめくると大きな木の写真。次のページにはその木の根っこをデッサンする佐藤忠良の横顔、その隣に木島始の文章。

 「おおきな木は なにを かんがえているのかな おおきな木を えに かくと おおきな木は いろいろ はなしをしてくれる」

 ページをめくるたびに繰り広げられる白黒の木のデッサンと詩人の言葉、途中から少しずつ若葉の緑がちりばめられて、だんだんクライマックスに向かう。

 一見地味な1冊に見えるのだが、ラストの折り曲げたページを開くと「あっ」と思わず叫んでしまう。そうなのだ、木は素晴らしいのだと一人で納得してしまう。ラストのページには木を見上げている佐藤忠良の写真、「ありがとう また くるよ」の文字。

 そういえば、佐藤忠良は90歳に近いはずだ。木島始は70歳ぐらいかな? それにしてもすごい。力強い詩と絵だ。「まいったな」「すごいな」を連発しながらぼくは友人たちに電話をした。みんなに見てほしいからだ。

 「こどものとも」は、おもに幼稚園や保育園の子どもたちが月に1冊ずつ買っている月刊予約絵本だ。しかし、小さな子どもたちにこの本が理解できるかな、と心配する必要はない。感じればよいのだ。「へぇー」とか「ふーん」とか「うわぁっ」とか感じればよいのだ。

 絵本は子どものものという考えはもう古い(とあえて言うことにしている)。1枚の写真や絵を、あれこれ読む、これも読書の楽しみの一つである。1本の木のコブやしわのなかに人間の人生を重ね合わせ、美しくたくましく年輪を重ねていく木に魅せられる大人たちは多いが、子どもたちだって、そういうものを感じ取る力はむしろ大人よりも広く大きいような気がする。

 それにしても、90歳の老人の描くこの1本の木は見るものを引きつける。何度眺めても飽きることがない。地に大きく根を張る木の生命力、やさしさ、そういったものがページのすき間からこぼれてくるような気がする。まさに1本の老木のような芸術家のなせる技なのだろう。



こどものとも 二月号 木

『こどものとも 二月号 木』
佐藤忠良 画
木島 始 文
福音館書店 \362
(本体価格)
※子どもの本の専門店や大手書店などでも購入可能

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第263号 2001年(平成13年)4月1日 掲載


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