●HOME●
●図書館へ戻る●
●一覧へ戻る●

教育書

改革論議の確かな視点


永井 聖二 群馬県立女子大学教授

 20世紀最後の10年間は、明治維新後、敗戦後の教育改革と並ぶ第3の教育改革の時期であった。私たちは、幸か不幸かこの激動の10年間に、多少なりとも教育とかかわってきた。そして、今世紀はいかなる課題が20世紀から引き継がれ、その解決への糸口はどこにあるのか。

 筆者・天野郁夫氏は、高等教育を中心として、現代の教育問題に幅広く的確な見方を示してきた教育社会学者として知られる。「教育の世紀末に」の章に始まり、「教育の21世紀へ」の章に終わる本書はタイムリーな構成であり、新聞や雑誌などの論稿をまとめたもので読みやすい。

 特に、「データに読む」「規制緩和のゆくえ」といった章は、中学校関係者にも大いに参考になろう。例えば、「子どもの体験活動等に関する国際比較調査」(子どもの体験活動研究会、1999年)の結果を取り上げた「社会性に欠ける子どもたち」では、さらに子どもたちの貧しい人間関係、教員の高齢化、高校で進行する学校統廃合などを論じている。縮小期の改革の困難さと問題点を冷静に論じる内容は、十分傾聴に値する。

 6年制の中・高一貫校や小・中学校の学校選択の自由化といった、中学校の教育が直接かかわる教育改革の動向についても、その解説は明確な根拠に基づいていて説得力を持つ。

 「臨教審からほぼ10年、この間に推し進められてきた教育改革のキャッチフレーズは、自由化・個性化・多様化であった。実際に、高校や大学については自由化が進められ、個性化・多様化にも一応の進展がみられた。しかしほぼ完全な学校選択の自由の認められたこれら高校や大学についても、それと個性化・多様化が結びつき、進学者の流れが大きく変わり、いっそうの個性化・多様化がもたらされたとみることはできない。学校選択の自由にもかかわらず、偏差値重視の進学者の流れは、基本的に変わっていないのである。

 学校選択の自由化が、それだけで公立の小・中学校を活性化させ、学校の活性化をもたらすという保証はまったくない。義務教育段階の学校の活性化が目標だというのであれば、規制緩和の対象は、もっと別のところに求める必要があるのではないか」

 天野氏が指摘するように、幼稚園から大学までの教育の全体像を組み立てる作業は、今世紀に引き継がれた最大の課題と言わざるを得ないのであろう。それをめぐる改革論議も、政治的な思惑の部分も含めてさらに盛んになることが予想される。矢面に立たざるを得ない中学校教育関係者に、こうした分析的で冷静な見方に親しんでもらいたい。



あ教育の21世紀へ

『教育の21世紀へ』
天野郁夫 著 有信堂高文社 \2,000
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第264号 2001年(平成13年)5月1日 掲載


Copyright (c) 1996- ,Child Research Net,All right reserved