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自然書

「図鑑」で広げたい
子どもの想像力


森田 暁 博物館プランナー

 最近、各地の学校で子どもたちの読書能力を高めるためにさまざまな取り組みがなされていると聞く。テレビゲームとアニメのなかで育った彼らに、活字を通じて想像力を働かさせるのは、かなりの困難が伴うことだと思われる。

 これに関連した一つの可能性として、“図鑑の復権”をお勧めしたい。学校の勉強に関係した何かを調べるというような特定の目的を持たずに、さまざまな図や絵によって想像力を広げる訓練である。この目的のためには、最近の図鑑は少し懇切丁寧すぎるように思われる。写真やデザイン構成による現代的な図鑑よりも、細密画で飾られた古くさい図鑑のほうが想像力を広げるのには向いているのだ。

 本書は、東京・上野公園内にある国立科学博物館で昨秋開かれた特別展「日本の博物図譜」にちなんだ出版物で、江戸時代以来日本で描かれ続けてきた動植物の、精密な写実画が多数収録されている。

 近代科学の先達であったリンネなどヨーロッパの博物学者たちは、絵師を使って数多くの動植物の絵を描かせた。これと同じように、江戸時代の日本で自然を学んだ本草学者たちは、自らの手で、あるいは絵師を使って数多くの博物画を残している。これらはとても質の高いものであるが、ごく近年まで科学史と美術史の谷間にあって、人々から忘れられた存在であった。

 日本の博物図譜の復権は、荒俣宏など在野の博物学者による“煽り”がきっかけであった。それがいまや、美術史家の辻惟雄から昆虫学者の小西正泰まで23人の論考を含む、まさに学際的な一冊としてこのように紹介されるに至ったのである。扱われている範囲は、著名な画家である尾形光琳、伊藤若冲から、昭和期の図鑑の挿図を描いた小林重三までかなり幅広いものである。

 本書の構成は、89点の図譜、東京国立博物館の佐々木利和などによる概論である第1章 博物図譜と博物館、増山雪斎、馬場大助など日本の博物画家を個別に紹介する第2章 日本の博物図譜――その伝統をさぐる、の2部構成となっている。

 栗本丹洲の「アカマンボウ」に始まり、岩崎灌園著『本草図説』に寄せられた馬場大助のタケニグサ、キツリフネなどの植物画、関根雲停のベンケイガニを散らし書きしたスケッチや大胆な構図のバイケイソウ、さらに木村静山の欧米の昆虫図鑑にも比肩できる『甲虫類写生図』、牧野富太郎の図鑑の原図、南方熊楠の各種キノコの図、そして長崎生まれの倉場富三郎『グラバー図譜』に寄せられた中村三郎などによる華麗な魚やエビたちなど見飽きることがない。



日本の博物図譜

『国立科学博物館叢書(1)
日本の博物図譜――十九世紀から現代まで』
国立科学博物館 編集 東海大学出版会 \2,600
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第272号 2002年(平成14年)2月1日 掲載


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