社会科学書今、われわれはどのような環境に 生きているのか 岩間 夏樹 ライズコーポレーション代表取締役 |
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この社会が言いようのない閉塞感にとらわれるようになって、かれこれ10年が経った。マスコミでは「長期化する不況」という言い方をされるが、事の本質は経済の停滞にあるのではなく、われわれの社会が大きな転換期を迎え、その変化に適応できないでいる焦りにあるのではないか。実をいえば、今、いったいどのような変化が起きているのかさえ、そこに首までどっぷりつかっているわれわれにはわかりにくい。そのままでは、ますます苦しいので、「不況」という手近でわかりやすいイメージをオブラートのように用い、違和感を緩和している。 今、われわれが経験している大きな変化は、必ずしも日本だけが経験しているわけではなく、先進国に共通のものだ。「長期化する不況」といった安直なイメージがそのことをかえって見えにくくしている。変化が見えないから、一向に適応できない。悪循環だ。 われわれは今、どのような環境に生きているのか。アメリカ人の文明批評家は、次々と具体例を記述していく。当然のこととして受け入れてきた近代社会の枠組み自体が変化している。例えば「何かを所有する」ことの意味。モノが欠乏していた時代には「所有」は「所有せざる」ことより明らかに望ましいことだった。しかし、モノがあふれる時代にあって、何かを所有することは、陳腐化や維持費などのリスクが上昇し、そのメリットが見えにくくなってきた。所有せずとも、「アクセス」できるだけで十分なのではないか。こういったことを背景として、伝統的な「売り手」と「買い手」の関係は、「サプライヤー」と「ユーザー」の関係に変化していく。この著者は「煽り」の言説を吐かない。淡々と現実を受けとめる。それがいい。 われわれの社会にべったりと張りついた「不良債権」やら「既得権益」やら「抵抗勢力」といった重苦しい課題が、この大きな流れのなかでは実にささいで取るに足らないものであるような気分にしてくれる。そういう日本に特有の課題については、例えば、ジョン・ダワー著『敗北を抱きしめて』(岩波書店・上下2巻)を併読することで、この半世紀といった長いタイムスパンで考えるといいだろう。この本も「煽り」や「告発」とは無縁な静かな言説で、われわれにさまざまなインスピレーションを与えてくれる。 社会はいや応なしに変化していく。まずは、自分の生きる環境を冷静に観察しよう。新しい環境への適応はそこからしか始まらない。 |
『エイジ・オブ・アクセス』 | ||
ジェレミー・リフキン 著 渡辺康雄 訳 |
集英社 | \2,400 (本体価格) |