教育書児童虐待にどう対応すればよいか 大竹 章喜 人権擁護委員会・子どもの人権専門委員 |
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児童虐待の痛ましい報道が後を絶たない。2000年に施行された「児童虐待防止法」で、虐待の内容がa身体的、b性的、cネグレクト(放棄)、d精神的、と示されたことから、社会の関心もいっそう高まり、隠蔽されてきた部分が明るみに出てきたこともあろう。 本書で筆者は、虐待を「子どもとの不適切なかかわり方」ととらえ、次のような構成で論述している。 第1章 児童虐待防止法の成立と保育実践の課題 筆者は、児童養護施設で12年間、児童指導員として勤務した。1980年代に、寮で担当した16名の子どものうち、10名以上が虐待を受けての施設生活だったなど、虐待問題に直接かかわった。その経験から問題意識を持ち、現在は、児童養護実践、性教育、子ども虐待問題等の研究と実践に取り組んでいる。 「児童虐待防止法」にいう虐待の内容のうち、「身体的・ネグレクト(養育の放棄・怠慢)・精神的な虐待にかかわる人権侵害」については、養護施設・学校・幼稚園・保育園などにおいても起こり得ることは、残念ながら予測される。まさか「性的人権侵害」など無関係だ、と思いたいが、第2章、第3章を読むと、トラウマ(心的外傷)への対応や「性的自己決定能力を育てる性教育の必要性」等、大人として、子どもへの援助事項の多さに気づかされる。 第4章で、筆者は「体罰合理化論を考える」「子どもの現実は福祉・保育実践を困難にしている」と、社会的な背景を述べたうえで、「専門職による虐待の種類と実際」「専門職の虐待にみる攻撃の戦略性」「虐待に至る専門職の心理過程」「専門職の虐待はなぜ起こるのか」「専門職における虐待を克服するために」と主張を深めている。 筆者は、「子どもの権利は、個々の専門職の判断によって左右される問題ではなく、まず法律問題でもあるはず」との立場を堅持している。それが子どもの人権問題に具体的にかかわり、迷いつつ取り組んでいる者に、共感と展望を感じさせてくれる。 思いがけず直面する、子ども虐待問題を解決するための地域ネットワークづくりについても、困難性を認めたうえで、具体的な提起をしている。 職務上、避けて通ることのできない課題についての啓発書として、一読を勧めたい。 |
『子ども虐待の福祉学――子どもの権利擁護のためのネットワーク』 | ||
浅井 春夫 著 | 小学館 | \1,700 (本体価格) |