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教育・一般書

受験勉強=悪玉論を検証する

荒巻正六  学校問題研究家

 珍しい本が出た.受験勉強=悪玉論がはやるなかで,「受験勉強は子どもを救う」と,堂々と書名で主張している本だ.しかもこの著者は,救うのは子どもだけではない,受験勉強にみられる精神構造とそれによって醸成される社会的雰囲気が,国家に活気をもたらし,発展させるという(「日本を蝕む精神病理」).私の常日頃の考えにぴったりくる発想であり,着眼である.

 著者は,灘中学校,灘高校を経て,東京大学医学部を出た精神科医で,精神分析学を専攻している和田秀樹氏である.前述2書にみられる著者の一貫した考え方は,次の通りである.

受験勉強は子どもを救う  まず第1は,現代社会では受験勉強を否定的にとらえ,子どもをめぐるさまざまな社会問題(いじめ,不登校,中退,暴力,非行,オウム真理教など)の原因を受験勉強に帰しているが,それはあまりにも短絡的で,なんら科学的論証も,統計的裏付けもない.

 第2に,子どもを自由にさせておかないと心身の発達上よくないというが,自由にさせておいたアメリカの青少年の,目をおおわんばかりの現状をどう解釈するのか.

 第3に,受験勉強が子どものノイローゼを誘発するというが,子どものノイローゼは,もっと深いところ,特に母子関係にあることを見逃している.

 第4に,受験勉強にみられる意欲や判断力が国家の活気と発展を導き出している例は,熾烈な受験勉強で知られている韓国,中国,台湾にみられることができる.日本における受験勉強=悪玉論のはびこりと,日本経済の不況は,妙に一致している.

 第5に,現代の子どもは20年前とは変わってしまっているのに,当時と同じ発想で受験勉強を批判しているのでは,子どもをめぐる問題の解決はない.そして著者は,子どもの代わり用を専門の精神分析学の立場から,日本人すべてを大きく2つ(周辺の人にこだわるシゾフレ人間と自分にこだわるメランコ人間)に分けて,あらゆる社会現象を分析している.現在の子どもは,周辺に気をとられ,事故確率の意欲さえないシゾフレ人間であり,このままでは日本の将来はないと主張する.

 最後に著者は,受験勉強=悪玉論が先入観となって,これからの教育を考える建設的な議論の妨げになっている現状に対し,受験勉強にもこんなメリットがあると,1つの問題提起をしたものと断り書きをしている.一生懸命に受験勉強に取り組んでいる子どもたちや,その指導に当たっている教師や父母に勇気を与える2書である.一読を勧めたい.

日本を蝕む精神病理

「受験勉強は子どもを救う」
和田秀樹 著 河出書房新社 \1,800

「日本を蝕む精神病理」
和田秀樹 著 KKベストセラーズ \800

掲載書籍の価格は平成9年3月31日現在のものです。
4月からの消費税アップにともない価格が変わる場合があります。

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版]  第216号 1997年(平成9年)4月1日 掲載


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