自然科学・一般書若者の孤高と生への潔さを読む塩野米松
作家 |
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人は人生を逆から歩むことはできない。結果はいつも、歩みのあとにある。 |
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「アラスカ 光と風」は、著者星野道夫(昭和27年生まれ)が初めてアラスカの地を踏んだいきさつから、たった一人で挑むさまざまなアラスカでの冒険紀行が、進行形で描かれている。 この旅を経て星野は、世界有数の野生動物の写真家に育っていく。これは、記念すべき、そして感動に満ちた紀行である。 カリブーを追って、北極圏でたった一人で暮らした1ヶ月半。落ちたら数分で死ぬという氷河の海を、一人カヤックで進む旅。マッキンレー山にかかるオーロラを撮影するために、厳寒の山頂で待機した体験。ブルックス山脈の紅葉から初雪の撮影のために、大きな荷物を背負っての山紀行。エスキモーとの鯨漁。 北極アラスカの旅は、常に熊の恐怖にさらされている。手首だけを残して消えた写真家の話を例に、先輩たちは声をそろえて、銃を持っていくことを忘れるなと忠告する。 星野のモットーは、”自然のことは自然のなかで覚えていく””行動に移す前に考えすぎて、夢をしぼませてしまうことはしない”ことだった。彼は銃を持たずに自然に入る道をえらんだ。これは、彼の自然に対する一つの矜持(きょうじ)である。 人生は逆からたどることはできないといったが、実はぼくたちは、昨年、一つの悲しいニュースを手にした。 星野道夫がカムチャッカで取材中に、熊に襲われて死んだのである。 彼の最期を知ってしまったぼくらは、彼の紀行を進行形ではなく、結末からたどることも可能になってしまったのである。彼は文中で、尊敬する写真家の死を「たとえこころざし半ばにして倒れても、もしそのときまで全力をつくして走りきったならば、その人の人生は完結しうるのではないだろうか」といっている。これは、自分の死への予感でもなければ、死へのロマンでもない。たった一人自然のなかで暮らした者だけが持つ孤高と生への潔さである。この本には、夢に向かって進んだ若者の姿がある。 これから人生を切り拓く若い人に接する機会の多い先生方に、一読を勧める。 |
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『ゴミにまみれて』は、ある町の清掃作業員である著者が、自分の仕事や職場の現状をリポートしたもの。差別に満ちた実態と現代社会がかかええるゴミ問題にいかに人々が無関心かを、ぼやきと怒りを込めて報告している。 この本を読むと、ぼくたちは無責任にゴミを放置する者や遅れている役所のゴミ問題を責める側ではなく、ゴミを作り出す加害者の一人であることに気づかされる。 |
「アラスカ 光と風」 | ||
星野道夫 著 | 福音館日曜日文庫 | \1,400 |
「ゴミにまみれて」 | ||
坂本信一 著 | 径書房 | \2,060 |