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教育書

危機の時代を乗り越えるために


荒巻正六 学校問題研究家

 このごろの中学校、それも公立中学校は大変だ。いじめ、不登校問題も収まる傾向はみられない。そのうえ最近では、自殺予告、覚せい剤乱用、援助交際という怪しげな現象まで日常化しつつあるようだ。ある調査によると、ここ1年間に自殺予告の電話、または手紙を受けた学校が59校もあったそうだ。いたずらではないかと思いつつも、万が一のことを考えて、体育祭や学園祭、テストなどを中止または延期しているのが実状だという。これらは生徒指導上の問題だ。

 しかも、第15期中教審は、公立の中・高一貫教育を打ち出している。それもごく一部の学校を対象にしているから、ほとんどの学校はそのあおりを受けるのは目に見えている。完全学校週5日制も、私立学校は建学の精神を盾に、どこまで同調するかわからない。

 そのうえに情報公開の波は、内申書、指導要録、職員会議録は言うに及ばず、いじめに関する調査書や生徒の作文までもその対象になる。中学校、特に公立中学校は、本当に大変だなあと思う。

 そう思っている矢先に、『教育「大変な時代」』という全6巻シリーズが出版されているのが目についた。監修者は武庫川女子大学教授の新堀通也氏である。氏は監修者の言葉として、「知的所有権の侵害にもなりかねないが」と断って、堺屋太一氏の近著『大変な時代』の教育版を考えたとしている。参考までに、堺屋太一氏の考える“大変な時代”の定義を述べると、第一は、これまでの常識では考えられないことが次々と起こっていること。第二は、これまでに代わる、これからを説明するような思想も理論も、それを生み出しそうな技術も組織も見えてこないこと。第三に、先行き不透明で、日本の未来に対する衰退の予感があること、といっている。まさに大変な時代である。こういう見方で教育を見直そうとしたのが、『教育「大変な時代」』である。

 ここでは第4巻・高倉翔編『学校「大変な時代」』と、第5巻・牧昌見編『教職「大変な時代」』の2冊を特に紹介したい。いずれも2部構成で、第1部で分析、第2部でその克服法、そして関連事項が数多くデータ・ファイルされている。そのなかの第4巻・第4章「公立中学校の危機」は、ぜひ一読を勧めたい。

 私たちが今、警戒しなければならないのは、両編者がいっているように、学校が大変な時代であることの自覚がなく、この時代を乗り切る実力を培うこともなければ、やがて学校は亡び、教職という名の職業は沈没するであろうということである。できれば全シリーズを学校に備えたいものである。


学校「大変な時代」 教職「大変な時代」

『学校「大変な時代」』
高倉 翔 編 教育開発研究所 \2,000

『教職「大変な時代」』
牧 昌見 編 教育開発研究所 \2,000

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第218号 1997年(平成9年)6月1日 掲載


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