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社会科学・一般書

戦争をめぐる
日系アメリカ史


あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト

 電車に乗る、地下鉄に乗る。公衆電話を待つ。そんな時に外国人と居合わせる。それが、ごく普通の都会の日常である。白人だけではない。アジア人、中近東やアフリカの人たち。人種もバラエティーに富んでいる。都会に住んでいるから彼らを見かけるわけでもない。むしろ、地方の都市に外国人の人口比の高い町があったりする。留学や仕事で一時的に滞在している人のみならず、ここ10年、家族をつくり、日本に移住した人たちも増えた。

 彼らに出会うと、私は逆に、日本から外国に集団で移民した人たちのことを思う。また、言葉にも慣れずに心のなかで格闘していたような留学時代の自分をも思い出す。

 それにしても、私たち日本人が、「外国人」と言う時、例えばそこに、日系アメリカ人は入るのだろうか。自分たちと彼らの立場を入れ替えて考えてみる。

 実際、日本から外国へ移り住んだ人たちを抜きには、日本人の国際化を語ることはできないのではないだろうか。

 今回紹介する2冊は、ともに戦争をめぐる日系アメリカ史である。

 岡部一明著の岩波ブックレットでは、「公民権運動がなかったなら、日系の戦後の補償運動もなかった」というマイノリティーの歴史との関連にも触れ、日系に限らず、他のアジア系アメリカ人に大きな影響を与えたことを示している。また、アメリカの現在に至る社会の変革に大きな役割を果たしたアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)やインディアン政策にも言及している。岡部氏は日系の問題をアメリカでの意味あいで説明し、日本の戦後の補償問題にも反省を促す。

 それに対して山本耕二著の『戦争と日系アメリカ人』は、写真家らしく、日系アメリカ人の個人史と一人ひとりの写真とで構成する。中学生にもストーリーとして読めて、興味をそそられるはず。

 どちらにせよ、歴史や社会を知る基礎テキストとして気軽に読めて、日系史の概略を知ることができる。8月にはうってつけのちょっとした読書となるに違いない。

 以前、日系アメリカ人の苦労話が、ドラマや小説としてはやったことがある。一時のはやりではなく、この現代日本で、同じ日本人の血を受け、なんらかの経緯によって他国に住みついた人たちの歴史を含めて、日本という国を考えられるようになればよいのではないか。

 日本は今、外国人というマイノリティーをどう受け入れていくのか模索している過程にある。そのような時に、立場を逆にして他国での日本人というマイノリティーの歩みを見るのは興味深く、大事なことであるように思う。


日系アメリカ人 強制収容から戦後補償へ 戦争と日系アメリカ人

「日系アメリカ人 強制収容から戦後補償へ」
岡部一明 著 岩波ブックレット \340
(本体価格)

「戦争と日系アメリカ人」
山本耕二
写真と文
草の根出版会 \2,200
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第220号 1997年(平成9年)8月1日 掲載


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