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教育・一般書

創造性を育て、
独創力を鍛える


荒巻正六 学校問題研究家

 第15期中教審はその第1次答申で、最近の青少年の「科学離れ」「理科離れ」は、むしろ「知離れ」現象ではないかと指摘し、これからの教育は、自ら学び、自ら考える創造性の基礎となる力の育成が必要であると提言している。そこで本号では、創造性を育て、独創力を鍛える次の2書を紹介したい。

 その一つは、あのエサキ・トンネルダイオードを発見し、ノーベル物理学賞を受賞した現筑波大学長・江崎玲於奈氏の近著、『創造力の育て方・鍛え方』である。氏は、本書のなかで、エサキ・トンネルダイオードの発見過程や、アメリカでの研究生活32年間の体験を通じ「独創的な研究開発を進めるための鍵」について克明に論じている。その論述過程をいちいちここで紹介するスペースはないが、結論的にいうと、「創造」というのは当然個人の活動であるから、そこには自由闊達に個性的な活動ができる社会環境が最重要であるとし、その点、協調性、忍耐力、自制心を重視し、平等主義、効率主義の支配する現代日本の教育は、創造性を育てないと断言している。本書の後半は、物理学・科学における着眼点の歴史が述べられており、読み物としてもおもしろい。

 もう一つは、バイオセンサーの世界的権威であり、現東京大学先端科学技術研究センター教授軽部征夫氏の『独創力をつける』である。本書でも、氏の「川の汚染を測る世界初のBODセンサー」の発明過程や、三重県英虞湾の赤潮発生の原因究明過程から、海洋ヘドロの資源化の開発プロセスの解説などを例としながら、独創的発想の具体的展開が細かく述べられている。

 氏の最初の研究「生物電池の研究」の着眼点が、環境問題を起こさないことであったり、ヘドロ資源化の開発が、正義感を高めることを発想の原点にしているのも、感銘を深くする。また実学を重んじる日本では、本当の哲学がなく、視野が狭く、失敗が許されず、赤信号皆で渡ればこわくないというような社会のあり方や、規制の多い社会システムが独創を阻んでいると鋭く指摘している。独創力を伸ばす、あるいは鍛える具体的な方法など、参考に富む提言が多い。

 なお、この著者軽部征夫氏については、ベネッセ教育研究所発行の季刊『子ども学』vol.15号「科学離れする子ども」に詳しく紹介されている。この特集は、創造性を考えるうえでも、多方面から論じられており参考になる。前記2書とあわせて読まれることを勧めたい。


創造力の育て方・鍛え方 独創力をつける

「創造力の育て方・鍛え方」
江崎玲於奈 著 講談社 \1,600
(本体価格)

「独創力をつける」
軽部征夫 著 日本経済新聞社 \1,262
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第220号 1997年(平成9年)8月1日 掲載


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