教育書教育改革と改革の言説を考える永井聖二 群馬県立女子大学教授 |
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世はあげて教育改革の大合唱、百花繚乱の状況にある。もちろん、よりよい教育を目指す努力や議論は望まれるが、その際必要なのは、ある「改革」がどんな影響、効果と副作用をもたらすのかを、冷静に検討する視点であろう。 「個性とは何か」や、「個性と共同性の関係」が問われるにせよ、個性の尊重そのものに反対する人はいない。競争的な教育制度の現状に、問題がないと言い切れる人も少ない。しかし、だからといって、少数の中高一貫公立学校を設置することが、多くの子どもたちにとってそうした課題の達成、解決への途を開くことにつながると考えるのは、論理の飛躍というものであろう。 藤田英典氏の『教育改革─共生時代の学校づくり─』は、抽象的なだれもが反対しがたいスローガンのもとで、どんな帰結をもたらすかがあいまいな制度「改革」が推し進められつつある現状を、正面から検証する。中教審の処方箋に対する疑問、危惧に基づく警世の書である。 「いじめ」や不登校の問題を取り上げるにしても、教育改革論の多くは、印象論、常識論の域を超えていない。「いじめ」なら1980年代半ばにピークに達した「いじめ」と1990年代のそれがどう異なるのか、不登校ならそのさまざまな類型と原因はどうかかわるのかなどを、ていねいに論じたものはほとんどないといえる。 その点、本書は綿密な現状分析のうえに、欧米の教育改革の動向をも参照しつつ、説得力のある主張を展開する。社会的弱者に対する「改革」のマイナス面の影響の指摘にも、耳を傾けたい。 もう一つ、今津孝次郎・樋田大二郎氏の共編『教育言説をどう読むか』は、教育改革論議にかかわるさまざまな教育言説を検討し、教育問題の論じられ方そのものを問い直す。 ここでいう教育言説とは、人々を幻惑させる力をもつ、認識や価値判断の枠組みとなる論述を意味するが、具体的には「個性尊重」「カウンセリングマインド」「大人と子ども」などに代表される、殺し文句になったり、一定の行動を促したり、攻撃したりする論述を指す。 それがどんな使われ方をして、いかなる役割を果たしているのかを興味深く論じたこの本は、改革論議を従来とは異なる切り口で見る視点を提供するものとなろう。教育改革論の氾濫のなかで、併せて一読をすすめたい。 |
「教育改革─共生時代の学校づくり─」 | ||
藤田英典 著 | 岩波新書 | \630 (本体価格) |
「教育言説をどう読むか」 | ||
今津孝次郎・ 樋田大二郎 編 |
新曜社 | \2,500 (本体価格) |