ヤングアダルト性を超えた世界を垣間みる酒寄進一 和光大学助教授 |
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女子中高生に人気の高い作家に長野まゆみがいる。 デビュー作の『少年アリス』(河出書房新社)以来、長野まゆみは一貫して少年を主人公にした小説を書いている。舞台設定は土着的なものと科学空想小説風があり、その合体・融合ぶりは宮沢賢治の作品世界を彷彿させる。 その長野まゆみが今、『テレヴィジョン・シティ』(河出書房新社)以来の長編小説に取り組んでいる。タイトルは『新世界』。すでに3巻まで出版され、4巻目もでる予定だ。 舞台は母星と夏星(シアシン)の惑星間につくられた人工的な集合天体「新世界」の、さらに辺境にあるオシキャット。母星の住民は男女の性別が先天的に決定されている種族だが、夏星の住民は単体生殖も可能なラシート系種族をはじめ、P.U.S(パス)という先天的な病気の因子を遺伝し、それが発症するかしないかで女になるか男になるかが決定するアスオン系種族、発症を避けられず、必ず超肥満化して女になるしかないシグリ系種族などが微妙な力関係のなかに共生していた。 「新世界」はこうした異なる種族が混在する世界であり、しかも母星系種族の策略で、かつて夏星の支配階級であったラシートは、健康で正常なものが姿を消し、すべて、なんらかの肉体的欠陥をかかえて暮らしている。 主人公のシュイは母星系種族によって階級制度(カスタ)の最下層に設定されたアスオンで、そのシュイにラシートのミンクがからみながら物語は進行する。 初めにも書いたように、長野まゆみは一貫して少年を描いてきた。しかも、決まって肉体の存在を感じさせない透明感のある少年たちだ。それは少年と呼ぶよりも無性(セックスレス)な存在といったほうがぴったりなキャラクターたちだ。そうしたあたりが、自分の自由にならない肉体を厭い、純粋な精神性へ向かいやすい少女たちに受けている一因と思われる。 『新世界』では、そのあたりがさらに押し進められている。 『新世界』の少年、特にラシートのミンクなどは、肉体の存在を感じさせないどころか、肉体は欠損部分だらけの存在であり、その逆に女になったものは超肥満体となって過剰な肉体を持て余す。『新世界』は、わたしたち人間が、初めから運命づけられている男女の性差からは自由な世界だが、別な意味で過剰で暗いイメージが人々を押し包んでいる。 果たしてその過剰で暗いイメージの世界から主人公たちは脱出できるのか、物語はまだ続く。 |
「新世界 1st、2nd」 | ||
長野まゆみ 著 | 河出書房新社 | 各\951 (本体価格) |