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社会科学・一般書

あえて真剣に考える、
男性問題の認知と男性解放


あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト

 今思い出すと笑ってしまうのだが、かつて“女性問題”というと、男の女性問題のもつれなどを示すだけの言葉であった。いまや女性問題には、仕事や暮らし、政治経済などさまざまな女性に関する問題をすべて含む。女たちは自分たちを取り巻く多くの問題を、リブやフェミニズムなどの考え方や実際的な女性による活動によって、社会に認知させることに成功したのである。

 時代は変わって今、最もホットな話題は女性問題ならぬ“男性問題”だ。この不条理で奇妙な日本の現実のなかで、男の悩みは増大している。「あえて真剣に、『男はつらいんだ!』と訴えたい」と主張する豊田氏。「そう訴えることは、今の世の中ですごく重要なことだとさえ考えている」

 なぜか? 男がつらいと吐露することは情けないことだと考えられてきたために「これまで男の生き難さをめぐるさまざまな問題が隠蔽されてきた」からだ。母親や父親とのかかわり、仕事、男女関係などなど男への期待と現実…。

 『オトコが「男らしさ」を棄てるとき』は、女性解放ならぬ男性解放(メンズリブレーション)に向かって地道な活動をする「メンズリブ東京」の彼や彼らがどのような個人的かつ共通の体験や考えから出発して、どのような活動をしているかが書かれている。

 ここ20年、いや、この10年、日本の状況は急激に変化し、女も男もその生き方に明確な指針を失ったように思える。私たちは手本なき時代に右往左往しているのではないか。その揺れは、男たちをもすでに襲っていた。もし、今まで女たちが自分たちの試行錯誤を比較的肯定的にとらえていたとしたら、それは、女性問題の認知や自分たちの自助的なネットワークがあるからで、今、男性たちは初めて自分たちの体験を吐露しながら、男性問題の認知と自分たちを支える方法を模索し、社会に訴えかけている。

 さて、『少し立ちどまって、男たち』は、その副題で、「男性のためのジェンダー・フリー読本」と銘打ってある。ジェンダー・フリー、つまり男女両性に多様な生き方を許容する社会を考えるテキストであるが、それを主に男性側から模索した時、日本はどう変わることができるのかがテーマ。その可能性を優しく説いている。

 男たちは、自らの性がつくり上げた社会のなかでその軋みを体験している。その生の体験を基に、徐々に自らを修正し、抵抗しながら、新しい論理を内側から積み上げていく努力をしているように思える。それは、侍が割腹自殺するような派手で悲壮な男らしさや勇気ではなく、静かで密度の濃い「新しい勇気」の誕生といえよう。


オトコが「男らしさ」を棄てるとき 少し立ちどまって、男たち

「オトコが「男らしさ」を棄てるとき」
豊田正義 著 飛鳥新社 \1,400
(本体価格)

「少し立ちどまって、男たち」
江原由美子
渡邊秀樹
細谷実 著
財団法人
東京女性財団
\600
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第223号 1997年(平成9年)11月1日 掲載


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