社会科学・一般書アジア人のイメージを探るあわやのぶこ 異文化ジャーナリスト |
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日本の女性にはオードリー・ヘプバーンのファンが極端に多い。ご多分にもれず私もそうなのだが、「ティファニーで朝食を」を見直すたびに、オードリーの魅力にうっとりとするのと同じくらい、ユニオシという東洋人の役に考え込んでしまう。彼の持つイメージへの一考もなく、日本人の女たちがオードリーやティファニーに単純に憧れてしまうとしたら、それはどういうことだろう…。素朴な疑問がわく。日本国内での社会的環境を考えると、一般的に私たちは自分をアジア人だと実感したり、汎アジア的な感覚を持つには程遠いのではないか。 数年前、『イエロー・フェイス』が刊行された時には、待ってましたとばかりにうれしかった。副題の「ハリウッド映画にみるアジア人の肖像」の通り、これはアメリカの映画産業におけるアジア人のイメージを社会的な文脈で探る画期的な書である。「ティファニーで朝食を」はもちろん、膨大な数の映画が網羅されている。 日系人のルポを皮切りに、アジア系アメリカ人をテーマにおく書物を著してきた村上由見子氏は、現代の気になる書き手の一人である。彼女の新刊はずばり、『アジア系アメリカ人−アメリカの新しい顔』。1994年からカリフォルニアで過ごした研究生活をベースに、アジア系アメリカ人の最新報告をまとめた。 「アジア系アメリカ人とはいったい何か? を知るために、外側から近づき、そのドアを開け、内部を探索してきた」著者には、「内部に踏み込めば、そこはまるで雑然とした倉庫のごとき状態で、しかもここには絶えず、横の窓から、上の屋根からバックドアからと、次から次へと新たな荷が投げ込まれていて、ますます整理が追いつかなくなっていることも見えてきた。しかし、この一種カオテックなアジア系の状況が、アメリカ社会に新たな刺激を生み出していることもたしかだ」と映った。 アジア系作家がアンソロジーを出版し、キャンパスでもアジア系学生の声が上がった70年代。80年代は日系の戦後補償問題など政治的にリベラルな論議も目立ったが、同時にアジアの新移民が増加した時代でもあった。現在のアジア系は、アメリカのマルチエスニックな土壌のうえに、まさに百花繚乱。単なるマイノリティーとしてのイメージから、教育と金を持ったエリートタカ派やタイガー・ウッズのような多彩なアメリカの新しい顔まで多士済々。また養子たちを含めた新たなアイデンティティー問題を抱えながらも日々進む。その状況はユニオシどころか、想像を超える幅を持つ興味深さである。 |
「イエロー・フェイス」 | ||
村上由見子 著 | 朝日新聞社 | \1,400 (本体価格) |
「アジア系アメリカ人」 | ||
村上由見子 著 | 中公新書 | \740 (本体価格) |