ヤングアダルト口では言えない想いを伝える物語二題 酒寄進一 和光大学助教授 |
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教師という仕事は、「しゃべる」ことが本業。 授業の内容を正確に伝えることはもちろん、生徒たちの関心を話術で引きつけることも大切だし、時には自分がしゃべるよりも、生徒にどうしゃべらせるかが課題になることもある。 だがみなさんは、「しゃべる」ということをどのくらい意識して日々を過ごしているだろうか。もちろんこれは、教育現場に違いはあれ、やはり教師という仕事についているぼく自身の自戒の念がこもった問いではあるが。 さて、そんなことをつらつら書き連ねてしまうのも、最近、佐藤多佳子の『しゃべれどもしゃべれども』という小説を読んだからで、これが「しゃべる」ことをめぐる笑いあり、ペーソスありのなかなかおもしろい物語になっている。 まずは主な登場人物を紹介しておこう。自分の芸に行き詰まりを感じている若手落語家の三つ葉、その従弟でテニスのインストラクターをしているが、あがり症が災いして仕事もおぼつかなくなっている良、口べたで失恋ばかりしている勝ち気な五月、いじめにあっているが、負けん気の強い大阪育ち(ちなみに舞台は東京)の小学生の優、人気プロ野球選手だったが、引退後、赤面症で野球解説者がうまく務まらず難儀をしている湯河原。 およそ互いに接点などなさそうな、このひと癖もふた癖もある面々がひょんなことから落語家の三つ葉の元に集まり、「しゃべり」を学ぼうということになる。ひと癖もふた癖もあるというのは、彼らにいろいろ内に秘めた想いがあるというのと同義だ。そういう口で言えない想いをどう人に伝えていくのか、そのあたりが読みどころといえるだろう。 『イグアナくんのおじゃまな毎日』は、同じ作者による児童文学。父親が私立中学に勤める一家が、その私立中学の横暴な理事長からペットのイグアナを押しつけられてしまい、すったもんだするという話で、語り手は小学5年生の一人娘。改築したばかりの快適なサンルームを占拠され、イグアナを毛嫌いする一家だが、言葉が通じないはずのイグアナと語り手がしだいに心を交感させていくあたりがとてもいい。児童文学ではあるが、『しゃべれどもしゃべれども』と併せて読むと、佐藤多佳子がイメージしている「しゃべる」ということが重層的に見えてきておもしろいので、ぜひ一読を! |
「しゃべれどもしゃべれども」 | ||
佐藤多佳子 著 | 新潮社 | \1,600 (本体価格) |
「イグアナくんのおじゃまな毎日」 | ||
佐藤多佳子 著 はらだたけひで 絵 |
偕成社 | \1,200 (本体価格) |