●HOME●
●図書館へ戻る●
●一覧へ戻る●

社会科学・一般書

最良の人間関係を築くバイブル


あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト

 「ベストセラー5週連続第1位、76万部突破!」

 この種の広告に興味半分、冷やかし半分でつい買ってしまった『他人をほめる人、けなす人』。およそ物書きという人種は、朝、広げる新聞の下半分(書籍広告欄)にばかり目がいってしまう。たとえ怠け者の物書きといえども同じ。ベストセラー嫌いなくせに、新刊広告の“何刷り”という売り込み文句はちゃんと見てしまう。というわけで、私もその罠にはまってしまった。

 しかし、「『人を見抜く目』をよみがえらせてくれる、現代人のバイブル!」といういかにもベストセラー狙いの帯の文句とは裏腹に、本書はごく地味なエッセイ群だった。イタリアの社会学者である著者アルベローニが新聞で連載したエッセイを1冊にまとめたもので、密やかな1人の時間にぴったりの読書。なんでもないようだが、時として1人でうなずいてしまう。そんな文章である。

 本書は人がテーマ。「日常的に出会う人」、「人の上に立とうとする人」、「社会を支える人」、「よりよく生きる人」、「自分らしく生きる人」、の5章から成り立ち、各々の章に例えば、陰口をたたく人、他人を認めない人、けっしてほめない人、成果だけを重んじる人、真の教養がある人、冒険できる人、自分の感情を恐れない人などなどの細かい項がたくさんあり、それらさまざまな人に関して著者は思いや考えをめぐらせては、書き綴っている。

 例えば「社会を支える人」の章で、「くり返すだけの人」に関して彼は言う。「学ばず創造しない者はくり返すこともできなくなる」と。「優秀なコックは、単純でしかも絶妙な味のパスタ料理をつくるが、それは彼が別の無数の料理を心得ているからである。彼は調理技術の総合的な知識をもっている。……トマトが十分に熟していれば、酸味を加える必要はないだろう。バジリコが新鮮でなかったら、他の香草をひとつまみ加えることも知っている。彼の料理は変わりない。それは異なる方法で調理されるからである。変わるのは扱う対象である」

 くり返すだけ、という一見否定的なコノテーション(connotation)を、こんな風に静かにひっくり返してみせる。

 さてついでに、発刊早々ベストセラー入りしそうな『9つの性格』だが、人の性格を九つに分けて考えるエニアグラムの本だ。血液型や星占いにも興味はない。だが、人間関係で悩みがある時、性格の分類以上に、同じ性格の人間が、ストレス時や悪状況下でどう豹変するかという本書の説明は、役に立つかもしれぬ。“困った時の本だのみ”か。


他人をほめる人、けなす人 9つの性格

『他人をほめる人、けなす人』
フランチェスコ・アルベローニ 著
大久保昭男 訳
草思社 \1,600
(本体価格)

『9つの性格』
鈴木秀子 著 PHP研究所 \1,429
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第227号 1998年(平成10年)3月1日 掲載


Copyright (c) 1996- ,Child Research Net,All right reserved