社会科学・一般書サナトロジーのパイオニア、E・キューブラー・ロス あわやのぶこ 異文化ジャーナリスト |
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取材仕事の関係で、エリザベス・キューブラー・ロスの本を手にしてみた。折しも最新刊の自伝『人生は廻る輪のように』が出たばかり。これを読んで、すっかりこっちの目が回ってしまった。やはりすごいことを始める人は、そのエネルギーが違う…。 後半チャネリング(異次元との交信)まで登場するのには、その種のものに馴染めない読者としては困ったが、彼女の70数年間にわたる人生は、なんと目まぐるしくエネルギッシュなことか! これが、かの『死ぬ瞬間』を書き、サナトロジー(死の科学)の世界的なパイオニアとなった人の背景だったのかと、驚きのため息をついた。 『死ぬ瞬間』は、原題の「死と死にゆくこと」のほうが内容をよく示している。これは、キューブラー・ロスが、死期せまりくる患者をインタビューし始めた時の最初の記録集である。もちろん、その後の記録も膨大なシリーズとなって世界中で出版されている。 「死があまりにも恐ろしく不快なので、われわれの全知識の方向を逸らして器械に向けているのではないだろうか?」という疑問、そして現代人が、死に直面する能力が低下したというのがキューブラー・ロスのサナトロジーの出発点である。 患者の表情よりも、彼らの傍らに備え付けられた器械の記録にしか注目しなくなった現代医療に、自ら医者である彼女が「むしろ患者の手を握り、ほほ笑みかけてやり、患者の問いに耳を傾けてやるべきではないだろうか」と真摯に問いかける。 死という運命を抱えた患者たちの、それぞれの死に対する思いや態度を読むうちに、こちら側の死にゆく人々に対するステレオタイプな考えが露わになってくる。恐れから解放されないのは私たちである。 キューブラー・ロスは別に大きなことをしようとしたのではない。自分の身近なことを自分なりの発想を持って実行しようとしたに過ぎないだろう。が、それが世間的にはとんでもないことになる。シカゴ大学の教授時代に死についてのセミナーを始め、シカゴ神学校の神学生4人と共に病院で末期患者に話を聞き始めようとした時、驚愕の表情を見せた医者たちから、1人の患者にすら近づく許可が下りなかった。なんと1970年頃、キューブラー・ロスが40代の話である。そんな時期にこんなことを始めたのか、この大したオバサンは!などと思わずつぶやいてしまった。イギリスの刑務所で寝泊まりし、受刑者の話を聞く、エイズ患者に耳を傾ける。ついこの間まで、決して走ることをやめなかった彼女は今、病床にあるという。 |
「人生は廻る輪のように」 | ||
エリザベス・キューブラー・ロス 著 上野圭一 訳 |
角川書店 | \1,800 (本体価格) |
「死ぬ瞬間」 | ||
エリザベス・キューブラー・ロス 著 川口正吉 訳 |
読売新聞社 | \1,456 (本体価格) |