教育・一般書絵や写真を手がかりにした子ども史の本 永井聖二 群馬県立女子大学教授 |
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子どもたちが変わったという。その当否はさておき、私たちは、今、「子どもとは何か」を改めて考える必要に迫られている、とはいえそうだ。私たちが、「子ども」という存在に託すイメージも、検討し直すことが求められている。 「子ども観」の歴史的な変化という視点に基づく著作としては、フィリップ・アリエスの『〈子ども〉の誕生』が名高いが、今回は、絵や写真といった視覚に訴える資料を豊富に用いた2冊を紹介したい。 アニタ・ショルシュ『絵でよむ子どもの社会史−ヨーロッパとアメリカ・中世から近代へ』は、家族史、子ども史の成果を整理し、多くの絵を題材として中世から近代末期に至る人々の抱く子どものイメージを明らかにしようとする。 「現代のおおかたの読者は、16世紀あるいはそれよりも前の世紀の第一級の思想家たちが子どもというものを下等動物以外の何ものでもないと見なしていたことを知れば、きっとびっくり仰天するに違いありません…」で始まるこの本は、「わたしたちが生きている20世紀よりも前の数世紀に、子どもであるということがどのようなものであったのかということについての肩のこらない歴史書」であり、絵を眺めるだけで楽しい、刺激に満ちた本である。 もう1つ、バーバラ・フィンケルスタインら6人の著者による『子どもの時代−1820-1920年のアメリカ』は、やはり文献のみに依拠することなく、当時のゆりかごや人形、遊具、さらには家具や学校の調度品などの図版を示しながら、「教育や実社会の中において、子どもの発見はいつごろ行われた」のか、「そのときから、教育はどのように変化し、子どもは学校や家庭でどのように教え育てられたのか」を示そうとする。 近年、注目される社会史的な研究、それも文献ではなく視覚資料を用いてわれわれの想像力を刺激する研究の内容には、結着すべき多くの問題が残されているように思えるが、今日のパターン化された子どものイメージにとらわれた論議を脱却して長期的な視点から子ども問題とかかわるために、ぜひ一読を勧めたい。もっとも、この2冊は、収録された多くの図版を眺めるだけでも十分楽しめるものであり、余分な意味づけは無用ということもできよう。 |
「絵でよむ子どもの社会史− ヨーロッパとアメリカ・中世から近代へ」 |
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アニタ・ショルシュ 著 北本正章 訳 |
新曜社 | \3,300 (本体価格) |
「子どもの時代−1820-1920年のアメリカ」 | ||
バーバラ・フィンケルスタインほか 著 田甫桂三 監訳 |
学文社 | \2,000 (本体価格) |