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自然科学・一般書

環境再考の本二冊


塩野米松 作家

 ジュラ紀、白亜紀などの地質年代というものがある。これは、その時代に生きていた代表的な生物が滅亡した時期をもって区切ることになっていると聞いた。白亜紀の末に恐竜が絶滅したという言い方をするが、そうではなく、白亜紀は恐竜が全盛の時代で、その時代が終わったのは恐竜が絶滅したからである。

 それまで生き延びていた生物が絶滅するには、それなりの理由があるのだろう。恐竜の絶滅理由には、彗星か小惑星の衝突があげられている。環境の異変は大きな絶滅の原因である。すべての生き物は、その時代の環境のなかで生き延びられるように体を合わせ、生きてきたのだから、環境が変われば生きていくのは難しいのである。

 今は新生代の第四紀。この時代は終わったわけではないが、もし終わりが来るとすれば、この四紀の最後を代表するのは人間である。人間は地球に登場した生物のなかで唯一、自分たちで環境を変えることができる生物である。生き方や体の構造を変えずに、環境を変えればどうなるのか…。

 『21世紀の子どもたちが地球を救う50の方法』は、今問題を抱えていて、このままいけば環境が生きていくのに適さなくなっている状況を紹介しながら、今何をすることができるのか、何をなすべきなのかを、子どもたちに向かって問いかけた本である。

 ダイオキシンやごみ問題、リサイクルの活用と、お母さんたちが話題にしていそうな問題が取り上げられているが、石けんの問題にしても合成洗剤、複合石けん、本物の石けんの違いをていねいに説明し、何が環境に害を与えているかを説いている。こういうと、はやりの環境問題の本のようだが、便利さと経済性を追求するあまり、害に気づきながらもそこから逃れられない大人を対象にするのではなく、子どもたちに、「君たちがいる環境は」と説く姿勢が問題や解決法を新しく示している。

 同じ視点で、子どもたちに森の大事さを説いているのが『森の自然学校』。著者は、飛騨でオークヴィレッジという工芸家集団を主宰する人であり、森や木に対しての著書も多い。

 この本では、板の裏表やホゾを刻む時を例に、木のリサイクル、森の役目、環境問題へと話を進めていく。

 いちばん身近で、だれもが知っていた木の性質や板の使い方が、便利さと新素材の虜になってしまった今の大人たちからは忘れ去られている。これを子どもたちに教えたいという著者の熱意が伝わってくる。

 環境の破壊は世紀の終焉を意味する。この問題を大人たちは見て見ぬ振りをしている。せめて次世代の子には…、という環境再考の本二冊である。


21世紀の子どもたちが地球を救う50の方法 森の自然学校

「21世紀の子どもたちが地球を救う50の方法」
グループなごん 著 ブロンズ新社 \1,300
(本体価格)

「森の自然学校」
稲本 正 著 岩波新書 \660
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第233号 1998年(平成10年)9月1日 掲載


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