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教育書

明治の「女学生」


永井聖二 群馬県立女子大学教授

 卒業式の季節となった。不況とはいえ、今年もまた多くの「女学生」姿を街で見かけることだろう。

 ところで、明治以降の近代化のなかで登場した「女学生」の髪型や服装、言葉遣いは、どんなかたちで生まれ、変わっていったのか。

 本田和子氏の『彩色される明治――女学生の系譜』は、「髷からの解放」「風のいたずら」「宙に揺れることば」…というように、女学生の装いや言葉遣いを素材とし、世間のまなざしと関連させながら、その軌跡を描き出す。

 ジャーナリズムの論調や大衆小説の主人公なども加えて、多彩な資料を駆使した分析の切り口と構成は見事で、興味深く読める。

 紆余曲折を経て、モラトリアム期間としての青年期を介在させた近代型のライフスタイルの誕生へと進む「女学生」の軌跡は、「人と制度とのかかわりを問い返し、さらには近代的制度そのものを問い返すべく、絶妙の素材たり得る」(あとがき)ものであろう。

 一方、同じ時期の近代女子教育の風俗や文化、それに代表的な卒業生などを「日本の文明開化、そして明治以降の発展を支え、家庭の安定と、文化・知性の向上に果たした、女性たちの教育への情熱には、はかりしれないものがある」との視点から紹介するのは、小河織衣氏の『女子教育事始』である。

 「キリスト教と文明開化」に始まり、津田梅子、荻野吟子、吉岡弥生、平塚らいてうら、おなじみの先駆者が取り上げられ、女子高等師範の創立期の様相なども多く紹介されている。

 唐突に断定されて戸惑うところもあるが、それぞれの事蹟を好意的に紹介するスタイルは、読みやすい。

 この2冊は、同じ時代の同じ素材を扱う部分が多く、最近の歴史ものらしく制服や装いに関心を払うなど共通点もあるが、他方、多くの点では対照的でもある。

 前者が人々の「まなざし」に注目し、何よりも近代を考察の対象として論を進めるのに対し、後者は近代化の進展と反動という軸で当時の教育をみる。

 鹿鳴館時代の女子師範について、「つねに時代の波に遅れまいという精神が強く、学校に踊りの稽古場を作るほど積極的で」(『女子教育事始』)と「それはまさしく、国家に対する奉公に他ならない。……カーテンで作った夜会服をまとって」(『女学生の系譜』)といった描き方の違いをもとに、史実に思いをはせたり、方法論的な関心をふくらませてみることも楽しい。


彩色される明治 女子教育事始

『彩色される明治――女学生の系譜』
本田和子 著 青土社 \1,748
(本体価格)

『女子教育事始』
小河織衣 著 丸善ブックス \1,650
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第239号 1999年(平成11年)3月1日 掲載


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