教育・一般書人間関係が壊れる前に荒巻正六 学校問題研究家 |
|
今春は教職員間のトラブルが目についた。文部省の委託で全国に配置された「心の教室相談員」が、勤務校の教諭に「文部省のスパイだ」「余計なことするな」と圧力をかけられた。またある高校教諭が「差別を受けている。校長ならだれでもよかった」などと言って、他校の校長室に爆発物を仕掛けた。さらに、日の丸・君が代をめぐって、教委と組合の板挟みに悩んだある高校の校長が自ら命を絶った。やはりこれも高校の例であるが、卒業式のあり方で校長と職員会・生徒会との意見が一致せず、分裂卒業式が行われた、などが報ぜられた。 そういえば、最近、学校のなかがなんとなく苛立っている。仲間との人間関係がしっくりしないという声が聞こえてくる。 そこで今回は、人間関係調整の根本的な心構えと、それを調整するまったく新しい技術を論じた2書を紹介したい。 人間関係調整の根本的な心構えというのは、突き詰めて言えば人間の生き方である。やや古典的になったが、書評子が「生き方の聖書」と思っている、フランス文学者河盛好蔵氏の『人とつき合う法』をあげたい。開巻第一は「イヤなやつ」というテーマである。校長先生や先輩を「イヤなやつ」と思うかどうかは別として、人間は自分の気に入った人とだけつき合うこともできなければ、「イヤなやつ」と思っている人にもつき合ってもらわねば困る。そんな時、先哲はどうしたか。氏は古今東西の、特に文学者の作品やエッセーをあげながら人間性の深奥に迫る。こんな調子で、いろいろな場面のつき合い方を論じている。氏は、一昨年95歳の時、『人生を楽しむ才能』という書を出した。この「つき合い方」も才能だという。才能は磨けば光る。壊れかけた人間関係もこの才能で修復できる。若い人もベテランもぜひ本書を座右の書としてもらいたい。 人間関係を調整するまったく新しい技術というのは、ここ20年来、欧米で研究されているパーソナル・スペース(個人空間)理論に基づくもので、その研究を紹介したのが山梨医科大学教授・渋谷昌三氏の『人と人との快適距離』である。それによると、現代社会は情報、交通、建造物、人間、ものなど、個人にとって異常といえるほどの過剰負荷環境であり、そのなかで人間は哲学者ショーペンハウエルのいう「ヤマアラシのジレンマ」に喘いでいるという。そこには、冷淡、無視、逃避、分離不安、親和葛藤、イライラなどの人間関係が生まれる。そのことから「快適に他人とつき合う方法」を提案している。詳しくは読んでいただくしかないが、人間関係調整には心の持ち方のほかに、個人空間を考える必要もありそうだ。 |
『人とつき合う法』 | ||
河盛好蔵 著 | 新潮文庫 | \362 (本体価格) |
『人と人との快適距離――パーソナル・スペースとは何か』 | ||
渋谷昌三 著 | NHKブックス | \922 (本体価格) |