教育書教師の実践を問い直すために永井聖二 群馬県立女子大学教授 |
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「総合的な学習の時間」など、学校の創意工夫を求める声はいよいよ高まっている。教師の教育実践の質が、これまでにもまして問われているといえよう。 とはいえ、教育実践の質の向上は、何か一つの魔術的な手法によって成し遂げられるというものではない。例えばカウンセリング・マインドが、ある状況のもとで有効だとしても、それを万能薬視することは妥当ではない。言うまでもなく、今日の学校教育の諸問題には「構造的」な背景があり、教育実践の質の向上には、多面的、複眼的な見方に基づく地道な取り組みが不可欠なのである。 志水宏吉・徳田耕造氏の共編『よみがえれ公立中学――尼崎市立「南」中学校のエスノグラフィー』は、実在の中学校を綿密に観察し、記述して、表面に現れた問題点だけに目を奪われることなく、中学校教育の「構造」を多面的に明らかにしようと試みた出色の書である。 「南中の日々」「南中という世界」「地域のなかの南中」の三部から構成されるこの本は、研究者と現場教師の協同によってなされた点にも特徴があるが、それは「中学校が現にいまおこなっていることを、そこに生きる人々――教師、そして子どもや親――の論理にそくして内在的に理解する作業が不可欠」と考えられたからだという。 初版は1991年で、10年近い歳月を経て中学校の状況はかなり変わってきてはいるが、教師の実践を映す鏡として、複眼的な見方に気づかせてくれる書として、ぜひ一読を勧めたい。 もう一つ、小関煕純氏の編著『図形の論証指導』は、「……努力にもかかわらず、学力不振児の数は減少していない。……それは、学力不振の根本的な原因が究明されていないから」だとする立場から、「子どもの認知発達の段階を明らかにし、その発達段階に応じて指導することが極めて大切」だと主張する。 子どもの実態を示し、それに基づいて図形の証明問題の難しさを分析し、さらにそれを図形認知の発達的研究に結びつける試みは、教科教育研究のあり方を示してくれる。 内容とともに注目されるべきものは、この書が現場の教師の協同研究として生み出されたプロセスであり、単なる現場の慣行の記述ではなく、実践とかかわりの薄い抽象論でもない。「学校に基盤をおいた」新しい実践的研究のモデルとして、ぜひ注目してほしい。 |
『よみがえれ公立中学 ――尼崎市立「南」中学校のエスノグラフィー』 |
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志水宏吉・ 徳田耕造 編 |
有信堂 | \2,300 (本体価格) |
『図形の論証指導』 | ||
小関煕純 編著 | 明治図書 | \2,300 (本体価格) |