ヤングアダルト一枚の写真から増田喜昭 子どもの本屋「メリーゴーランド」店主 |
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一枚の写真、アフリカの草原、草を食べている長い角の牛(ゲムズボックというらしい)の背後から手作りの槍を投げて仕留めようと、地面に足をめり込ませながら構えている、その男の筋肉は引き締まって美しい。そのまた後ろから息子が同じ格好でじっと見ている。左のページにはクワキュートル・インディアンの詩が書かれている。 大人になったら、 ぼくは狩人になる 大人になったら、 ぼくは銛(もり)打ちになる 大人になったら、 ぼくはカヌー作りになる 大人になったら、 ぼくは大工になる 大人になったら、 ぼくは職人になる お父さん、ヤ、ハ、ハ、ハ 一枚の写真には不思議な魅力がある。眺めているだけで、どんどんイメージが膨らんでくるからだ。写真集『人間家族』には、そんな写真がたくさん収められている。1955年にニューヨーク近代美術館から発行されていて、翌56年には日本で写真展が開かれている。1956年といえば、日本が国際連合に加盟した年である。この写真集には日本はもちろん、世界各国のいろんな写真が収められている。結婚、家族、戦争、子ども、遊び、教育、いろんなテーマ別に散りばめられた写真たちと少しの言葉は、笑いと涙をさそう感動の1冊になっていて、何度眺めても飽きることがない。ブックデザインやレイアウトは、あの絵本『スイミー』の作者のレオ・レオニによるもので、これまた時代の古さを感じさせないすばらしいものになっているのだ。 もう1冊の写真集、『みんなのかお』は、表紙に実物大のウォンバットの顔。動物園の動物たちの顔だけの写真集だ。ゴリラはみんなゴリラなんだけど、全国の動物園のゴリラたちにもそれぞれの顔があって、まりちゃんも一郎くんもいるのだってことを発見できてうれしくなってしまう。キリンは漠然とキリンじゃないのだ、みんな違ってるのだ、それでよいのだ、うれしいのだという気分になってくる。今度、動物園へ行ったら、もっとじっくりと動物の顔を見ようと思えてくる。 こんなふうに、一人ひとりと、いや一匹一匹とちゃんと時間をかけて向かい合うのって、やっぱりいいもんなんだなあ…って思えてくる。 この本が書店の絵本や児童書のコーナーだけに並んでいるのは、やはりさみしい。 |
『人間家族』 | ||
エドワード・スタイケン 編 | 冨山房 | \3,107 (本体価格) |
『みんなのかお』 | ||
さとうあきら 写真 とだきょうこ 文 |
福音館書店 | \1,500 (本体価格) |