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教育書

血も涙も魂もある教師群像


荒巻正六 学校問題研究家

 児童・生徒を巡る事件が発生するたびに、教師の教育力が問われる。「教師は何をしているのか」「教師はしっかり子どもを見ているのか」「教師は本当に子どもを愛する気持ちを持っているのか」等々、責任追及の文言を挙げたらきりがない。マスコミの声高な論調を全面否定する気はないが、そこには多くの良心的な教師の存在が一方的に見落とされている。

 このことは日本の教育の発展のために、ひいては子どもの健全な成長のために不幸なことと考えていたところ、このほど血も涙も魂もある多くの教師が、目立たないところでも活動している姿を描き出した書物が相次いで出版された。

 その一つは、クレオ編集部が全国から公募した「あのときのあの先生」というテーマに寄せられた作品1175編中の56編を編集した『先生』である。10代の小・中・高校生をはじめ、70代の高齢者に至るまでの主婦・会社員・自営業者等々の人々が、在学中に感銘を受けた教師の立ち居振る舞いや言葉に支えられて今日を生きているという、まさに「生きる力」を与えられたさまざまな思い出集である。

 絶望のどん底で何度かの自殺にも失敗し、酒乱の父親から逃れようと家出もする。そんななかで、家庭訪問してくれた時の担任教師の言葉に救われる(33歳・会社員)。勉強嫌いで不登校を重ね、登校しても、無断で校外に出る自分を「授業に出たくなかったら先生と一緒にいようね」と最後まで見守ってくれたF先生(21歳・主婦)。数々の教師の思い出は、どれも読むうちに胸が熱くなってくる。字数さえ許されれば、もっと紹介したい。

 もう一つは、晶文社発行の『教師』である。本書はフリーライター森口秀志氏をはじめ8人のインタビュアーが、北海道から沖縄まで全国87人の教師(小・中・高校教諭・養護教諭・特別講師・臨時採用講師・管理職・スクールカウンセラー等)に語ってもらった実践記録集である。そこに語られているのは、授業だけではなく、生活指導、部活動、校則、体罰、不祥事、教育論から教師の私生活にまで及ぶ。475ページもの分厚い書であるから要点さえも紹介しきれないが、一例だけ挙げてみる。

 それは、53歳の公立中学校の教師が、生徒の作文をもとに生活劇を指導するのだが、教師の手に負えないような子が劇のメンバーになると見違えるように変わっていく様が、生き生きと語られている。  

 そのほか、きれいごとだけではない、泥にまみれて必死に闘う教師の生きざまが本書にはあふれている。

 前記2書は現職の教師には多様な教育活動を、「教師は何をしているのか」と問う人には、教師の陰の努力を教えてくれる。教師にも教師以外の人にも、ぜひ一読を勧めたい。


先生 教師

『先生』
クレオ編集部 編 クレオ \1,500
(本体価格)

『教師』
森口秀志 編 晶文社 \2,600
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第244号 1999年(平成11年)8月1日 掲載


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