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“生”と“死”のとらえ方


片岡 千鶴 映画評論家

 人間の“生”と“死”を思う時、“死”にはどうしても消極的なイメージがつきまとう。常に無やマイナスのイメージが強すぎて、恐れる気持ちがわいてくる。

 けれども、そんなのはつまらない、と思ったことはないだろうか? できれば死を恐れたくない、ほかのとらえ方で感じてみたい、と思ったことは? そんな人にぜひ観ていただきたいのがこの二つの作品だ。

 まず、『アントニアの食卓』は、アントニアという太陽のような女性を主人公に、親子4代にわたる女性たちの人生を描いたものだ。若くして家出同然で村を出ていたアントニアが、ある日ひょっこり一人娘のダニエルを連れて村に帰ってくる。当然、彼女は村人たちの好奇の目にさらされることになる。何しろ田舎の古い価値観に縛られた周囲からすれば、彼女の生き方は異端そのものなのだ。ところが、当の本人は実に堂々たるもので、偏見だとか差別だとか、そんなものを頑として受け入れない性分で、自分なりの価値観をしっかりと持っている。アントニアの“食卓”とは彼女の“人生”にほかならない。やがて、彼女の食卓には多くの人々が集うようになる。

 そして、もう一つは『ガープの世界』。これはそのタイトルどおり、ガープというちょっと変わった名前の男の子の一生を描いたものだ。ここでもまた、かなり個性的な母親という強い女性の存在があるが、主人公はあくまでガープ。強力なカリスマ性をもつ母親の影響を受け、時には反発し時には寛容に受け入れながらたくましく生きていく彼の人生を、おもしろおかしいエピソード満載で綴っている。もちろん笑いのみならず、ズシッと心にこたえる痛みも涙もある。ガープを取り巻く人々のさまざまな生きざまも魅力的だ。

 この二つの作品が私たちに見せてくれるのは、いかに人生を生き、いかに人生を終わらせるかというサンプルでありヒントだ。いかに悔いなく生きるかということは、つまり、いかに悔いなく死んでいくかということにほかならない。

 さて、『アントニアの食卓』は年老いたアントニアの最後の1日から始まり、『ガープの世界』は生まれたばかりの赤ん坊が青空に向かって抱え上げられる場面から始まる。かたや“死”に面した場面であり、かたや“生”に面した場面という対照的なものだ。ところが、この対照的なはずの始まり方が、両作品を観終わった後には、まったく同様なものに感じられる。そう感じるのは、きっとこれらの作品が生と死を分け隔てて区別するのではなく、同じ天秤に載せて平等に扱っているからだろう。


アントニアの食卓 ガープの世界

『アントニアの食卓』
カラー/ステレオ/
102分
アスミック・エースエンタテイメント/
発売・レンタル中
\16,000
(本体価格)

『ガープの世界』
カラー/モノラル/
137分
ワーナー・ホーム・ビデオ/
発売・レンタル中
\2,480
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第245号 1999年(平成11年)9月1日 掲載


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