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ヤングアダルト

恋にも似た、本の吸引力


増田 喜昭 子どもの本屋
「メリーゴーランド」店主

「万有引力とは
 ひき合う孤独の力である」

と、詩人・谷川俊太郎は「二十億光年の孤独」という詩のなかで書いている。彼が18歳の頃の詩である。ひき合う力とは、ときに恋心だったり、はたまた友情だったりするのだろうか。

 今回紹介する2冊は、若者が仲間を求めてひき合うその不思議な力がとてもうまく描かれている。

 『ゴールデンハート』…恋の始まりはキラリと光る小さなハートのペンダント…湖に落ちたそのペンダントを拾い上げたルードヴィヒ、「いっしょにいられる?」と、ストレートに自分の気持ちを彼女にぶつける。

 「わたしがどんな人間か、よくわかってからにして。ほんとにわたしを好きだって証明して」。ルードヴィヒの頭の中はカタリーナの言葉でいっぱいになる。ピアノコンクールの出場が目前なのに練習に身が入らない。身が入らないというのはよくないことなんだろうけど、それが恋愛ってもんだからしようがない。

 毎日、しなければならないことがたくさんあって、予定通りに勉強したり、スポーツしたり…そんななかに突然ドカンと割り込んでくるのが恋愛である。いつもボーッとその人のことを考えてしまう。いつもなら集中できる得意なことまでうまくいかなくなる。困ったものである。

 だがしかし、それが小説ならば少し気が楽だ。初恋の頃からはるか遠くの年齢になってしまったぼくは、この予定にはない非日常の恋をニコニコしながら読み進み、ずーっと幸せな初恋の気分になっていられるのだから。

 さて、コンクールの当日は、どうなったかって? それは読んでからのお楽しみ。

 もう1冊の『人魚の島で』は少年と人魚の出会いから始まる。浜辺で少年が拾った人魚のくし、まるで音叉のようなふるえる音を出した。

 人魚はすぐそこまで近づいてきて、少年の名を呼んだ。島に老人と2人で暮らす孤独な少年は、その人魚からもらった小さな古い鍵に守られて生きていく…。

 読んでいて、その世界に引っぱり込む力に驚く。人魚の世界に入り込むことは、恋に落ちるのと同じだったのだ。

 本が読者を引き込むのもそんな感じで、恋愛に似ている。とすれば、ぼくはこの2冊の本の作者、ウルフ・スタルクとシンシア・ライラントにのぼせている。だって、彼らの作品(日本で翻訳されている)のほとんどに満足しているからだ。


ゴールデンハート 人魚の島で

『ゴールデンハート』
ウルフ・スタルク 作
オスターグレン晴子 訳
偕成社 \1,000
(本体価格)

『人魚の島で』
シンシア・ライラント 作
竹下文子 訳
ささめや ゆき 絵
偕成社 \1,000
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第247号 1999年(平成11年)11月1日 掲載


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