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教育書

「不登校」を考える視点


永井 聖二 群馬県立女子大学教授

 不登校の増加が、またもや問題になっている。増加を示すデータと実態の関係についても検討する視点が必要だが、多様な子どもたちが「学校に背を向けている」事実は、私たちに重い課題を突きつけている。

 ただ、不登校について気になるのは、現実の多様性をあまりに無視した議論がまかり通っていることである。解決策を求めるのを急ぐあまり、強引な原因の推定とそれに基づく「療法」の押しつけが懸念される。それは、本人はもちろん、親や教師といった関係者にも、さまざまな悪影響をもたらすことになる。

「(不登校についての論議は)あまりにも一面的であったり、短絡的であったりなどして、かえって混乱や拡散を伴った百家争鳴に終わってしまっている」と主張することから始まる、河合洋著の『学校に背を向ける子ども―なにが登校拒否を生みだすのか』は、バランスのとれた見方に基づく好著である。

 著者は児童精神科医だが、「いずれにせよ、『登校拒否』の発生を充分に了解的に説明できる医学的・心理学的な理論はない」と言い切ったうえで、精神療法的介入、行動療法、睡眠療法などを、「…『登校拒否』を、矯正・除去すべき、厄介な異物としての『症状』『問題行動』とみているか、あるいは、『登校拒否』の社会文化的背景をほとんど無視したうえで、もっぱら少年の“未成熟な情緒発達”や、それと関係が深いときめつける“家族関係の歪みなどの諸問題”に焦点をあてたところで、一方的な、乱暴ないじくりまわしをしている」と警鐘を鳴らす。

 医療専門職に教育問題の解決を委ねようとする傾向が強まっている昨今、現実の複雑さを認めたうえで何をなすべきかを考えることを求める著者の主張は、有益な視点を与えてくれる。

 あと一つ、山崎晃資編『こころの科学51号・特別企画=不登校』は、前出の河合洋氏を含む5人の座談会に始まり、12人の専門家が、家族関係、学校教育とのかかわりの両面から、不登校がどんな意味を持つ行動なのか、さまざまに分析して、進むべき方向を語っている。文部省の教科調査官なども含めて、さまざまな立場からの主張をどう受け止めるべきか、格好の資料となろう。

 母子関係にすべての原因が求められたり、管理教育と不登校を直接に結びつける論調もみられるなかで、この問題の理解に近づくために、学校教育関係者にぜひ一読を勧めたい。


学校に背を向ける子ども こころの科学51号

『学校に背を向ける子ども―なにが登校拒否を生みだすのか』
河合 洋 著 日本放送出版協会 \870
(本体価格)

『こころの科学51号 特別企画=不登校』
山崎晃資 編 日本評論社 \971
(本体価格)

株式会社 ベネッセコーポレーション ベネッセ教育研究所発刊
月刊/進研ニュース[中学版] 第247号 1999年(平成11年)11月1日 掲載


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