教育書総合的学習をより確かなものにするために 荒巻正六 学校問題研究家 |
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「総合的な学習の時間」(以下、総合的学習)の先導的実践校の公開研究会場には、全国から教師・研究者が押しかける。それはちょうど50年前、主題も決まっていない、教科書もない社会科新設当時、全国各地で何々プランと称して公開研究会が催されていたのに酷似している。そのなかで教育史に残るのは、埼玉県の川口市社会科教育計画(川口プラン)と広島県の本郷町地域教育計画(本郷プラン)であった。そこで行われていたのは、生徒自身が課題を見つけ、そのための実態調査をし、課題解決に取り組むというものであった。そして、それらのプランの理論は、アメリカのJ・デューイの経験主義教育哲学に支えられていた。そこで今回は、本郷プランのリーダーで、当時東大教授であった大田堯氏が、地域の課題をとらえるためにとった実態調査の技法や組織・実践をつぶさに回想し、自己評価した『地域の中で教育を問う』と、デューイ哲学の研究者・杉浦宏氏編の『日本の戦後教育とデューイ』の2冊を紹介したい。これらは、総合的学習を展開するに当たって用心しなければならないことがいくつもあることに気づかせてくれる。 本郷プランの大田氏は率直な人で、開巻第1章で「上からおっかぶせるような計画にはもろさがあって、やがてうたかたの如く消え去り、それは砂上の楼閣であった」という主旨の自己評価をしている。“地域の問題”というけれど、問題の根は深い。それをとらえるために、あらゆる角度から実態調査をしたが、調査結果を鵜呑みにすることは極めて危険であった。調査結果から何か問題が見つかるだろうと思うのは本末転倒であって、調査の前の問題意識こそ重要であるという。そのほか著者は、本郷プラン以後30数年間各地の課題に取り組んだ体験を綴っている。 総合的学習のねらいである自発的・主体的・問題解決的・体験的学習や自己の生き方を考える学習の教育哲学的根拠は、デューイに求めることができる。『日本の戦後教育とデューイ』はそのことを多角的に説く。デューイの構想は一時アメリカでも廃れたが、今は違う。アメリカでも日本でもその構想と先見性が見直されている。総合的学習をより確かなものにするために、絶対欠かせないものは、行政当局の財政的支援(むしろ保証)である。かけ声だけで成功するはずはない。そのことはデューイがつくったシカゴ大学附属小学校(実験室学校)の現校長であり、アメリカデューイ学会の現会長であるフィリップ・W・ジャクソン教授の『学校と社会・子どものカリキュラム』(デューイ著・講談社学術文庫)の編者による序論に実に詳しい。本書もぜひ併せて読んでいただきたい。総合的学習は可能性に満ちている。 |
『地域の中で教育を問う』 | ||
大田 堯 著 | 新評論 | \2,800 (本体価格) |
『日本の戦後教育とデューイ』 | ||
杉浦 宏 編 | 世界思想社 | \2,800 (本体価格) |