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10代の妊娠と性と人間関係の教育(性教育)について最近の研究が示唆すること
サイモン・フォレスト
Simon Forrest
セックス・エデュケーション・フォーラム 代表
Director, Sex Education Forum

性と人間関係教育(以下SRE:Sex and relationships education)に大変重要な意味をもたらす4つの研究レポートが近週発表された。英国医学学会誌(The British Medical Journal)にはシェア (Sexual Health and Relationships Education: 性の保健と人間関係の教育)プログラム の中間報告書に関する論文と、若者間の望まない妊娠を減らすための任意抽出、適合確認された系統的な調査が掲載された。ユニセフ(国連児童基金)は豊かな国における10代の妊娠についての報告書を、教育基準オフィス(Office For Standard In Education:OFSTED)は学校で行なわれるSREの授業の報告書を出版した。

シェア研究の中間報告書は、スコットランドの教員によって13−15歳の若者たち対象に行われているSREのプログラムの影響を評価したものである。報告書は、SREによってより低い年齢での性行動が助長されることはないと発表している。中間報告書は、シェア・プログラムが若者の性的健康と関係についての知識を高め、人間的、社会的な技能、そして彼らの人間関係の質の向上にもいくらかの影響を与えたとしている。重大なことは、プログラムが教員と生徒から、今までの型にはまった授業よりもより肯定的に受入れられていた点である。シェア・プログラムの後に、若者はより多くのアドバイスや情報を友達や親、または他の情報源に求めたことも分かった。以上のような有力で肯定的な結果を得たにもかかわらず、シェア・プログラムは16歳になる前に性行為を行なったことがあるとしている若者のサンプルの3分の1に、コンドーム使用の影響を与えることができなかった。

シェア・プログラムの中間報告結果と並んで、ディセンソらにより発表された系統的な調査は、若者たちによる望まない妊娠を削減するために、任意抽出され適合確認された数多くの事業の評価結果をまとめたものである。この調査は、学校のみや地域の場のみで行なわれた性教育のプログラムは若者の性的な行動に影響を与えるという点で限界があるとし、シェアの結果をより強調するものとなっている。しかしながら勇気づけられることとしては、研究者たちが妊娠を減らしたプログラムの形の一つとして「多様な方面からの実践(Multi-faceted)」を挙げていることである。興味深いことに、当初行なわれていた若者に自制を奨励するプログラムは、そのプログラムを受けていた男子の性的なパートナーの妊娠数が増えるなどの逆効果の結果をもたらしていた。

シェア論文、系統的調査論文両方の著者が、どのようにSREの効率性を高めていけばよいかについて広い意味で似通った結論を研究の結果に基き示している。彼らは、SREをより早い時期に提供することも含めて、プログラムをよりタイムリーで、若者に意味のあるものにしていくことの必要性を指摘している。また、社会に否定的な影響が潜在していることを指摘し、それらは、ある一定の場所での特別なSREのプログラムのみでは乗り越えることができないこと、そしてお互いに対する尊敬の心や、性的なニーズや欲望について話すことに対する不快感など、SREが性的関係やコミュニケーションにおける若者の交渉能力の発展、地域の性的健康サービスとのより公立的な連携の促進を行っていくことが必要であるとしている。

ユニセフの発行した豊かな国における10代の妊娠のレビューも、SREを、若者に意味があるタイムリーなものにしていくこと、そして若者にしっかりとした情報と共に、役に立つ社会的、人間的な技能をつけさせることの重要性を指摘している。この報告書の中で、筆者たちは10代の妊娠についての「成績一覧表(League Table)」を作成し、それらの成績に影響を与える要素について述べている。彼らの結論は、過去30年間、世界中の裕福な国において劇的な社会変化があり、それが若者の性行動に大きな影響を与えているというものである。中絶法の自由化、避妊具が手に入るようになったこと、男女の性的平等の増加、伝統的な性の既定への拒絶、社会的そして文化的環境において性のイメージやメッセージが浸透する、より性化した社会の現れなどが、若者が性的な関係性を築く際の背景を大きく変化させた。人々が最初に子どもを産む年齢は高くなり、一方初めて性行動を行なう年齢は低くなっている。筆者は国々が「成績一覧表」のどの位置に入ってくるかは、(イギリスはアメリカに次いで2番目に10代の妊娠率が高い)2つの要素に左右されると述べている。1つは、その国の人々が伝統的な価値から抜け出している度合いと、その「新しい世界」に若者が準備できている度合いが組み合わさったもの。もう一つは、どれくらいの割合の10代の若者が、「経済的に発展した社会に住み、相応な教育を受け、仕事をし、様々な機会に恵まれるという期待」を持ち、若いうちに親になることを避けようとする気持ちがあるのかという要素である。
これは英国における「問題」が、性と性的保健に関して若者が必要としているサポートや教育についての認識が欠けていること、そしてある若者に対する低い社会的期待や社会的排除の文化があるということについての認識が欠けていることを表している。社会的排除ユニット(Social Exclusion Unit:政府機関)の10代の妊娠についての報告書はこれらの要素を認識し、変化を呼びかけるためのきっかけを提供している。

これらの3つの論文と報告書は10代の妊娠を減らすためにSREに何ができるのか、そしてどのように貢献することができるのかについての洞察を与えてくれる。

近年の学校におけるSREについての教育基準オフィス(OFSTED:政府機関)による報告書は価値があるものである。なぜならそれにはSRE授業のレベルと質に対する注意を促し、実践をよりよくしていくための方法案と進展を評価する基準が述べられているからである。この報告書は授業全体がまだ貼り付けあわせたようなものであったり、内容が食い違っていたり、カリキュラムの中で弱い位置にあることからくる制限によって拘束されていること、そして教員の自信、また教員がそれに伴い授業をしていくような学びのはっきりした目標がないということを明らかにしている。

このような状況の中で、最近の調査は以下のような事実を浮き彫りにした。
  • 若者の性的健康を推進することにおけるSREが持つ大切な役割
  • 教育環境においてSREの効率的なプログラムを実施していくことは可能であるということ
  • SREは若者の性行動に影響を与えているただ1つの要素であり、よりよい性の健康サービスの活動や社会的排除を削減する活動を含めた様々な異なった活動により支援されるべきであること
ユニセフが述べるように、SREは現代の性的な文化に若者が「追いつく」ことを手助けする重要な役割を持っている。しかしながら、それは10代の妊娠の「問題」に対しての「治療法」ではない。実際、そのような前提から始めることはSREが何かということを否定するものである。子どもたちや若者には性教育をうける教育の権利があり、英国で鍵となる挑戦は子どもたち、若者、そして大人が性や人間関係について話をする自信や能力を持つ文化を創っていくことである。学校での質の高い性教育はこの文化の発展の重要な要素である。

私たちはこれらの研究や報告書からこの権利を確保するためにどのようなことをしなければならないか、どのように私たちがSREをより若者たちに適切なものとし、質を高めていくことができるか。そして短い期間においては、何が現実的に期待できるのかについてより深く学ばなければならない。強く、肯定的な政府のリードにより性教育の手引きが学校の中に入っていき、またその実践のよりよい状況を創り出すために国の性的健康の戦略が他の政策やイニシアチブに取り込まれた。この研究は、私たちの現在の位置、私たちがしなければならないと信じていること、そして以下のようなことを保証するために実行されなければならないことについて、より大きな重みを与えてくれる。
  • SREは子どもたちや若者が成長し、発展し、よりよく学ぶことができる安全な学校全体の状況を発展させるものであること
  • SREは生理や性的欲求、性的経験が始まる前から始めること
  • 子どもたちや若者がSREの計画や実践に参加をすること
  • 学校は両親やより広い地域と協働をしていくこと
  • 教員がきちんと研修を受けたと感じ、SREを実践する技能に自信を持つこと
  • SREが地域の特別なニーズに答えること
  • SREが地域のアドバイザリーや支援サービスと繋がること
(参考文献)
Wight, D., Raab, G., Henderson, M., Abraham, C., Buston, K., Hart, G. and Scott, S. (2002) The limits of teacher-delivered sex education: interim behavioural outcomes from a randomised trial, British Medical Journal(June 2002)

DiCenso, A., Guyatt, G., Willan, A. and Griffith, L. (2002) A systematic review of randomised controlled trials of interventions to reduce unintended pregnancies in young people, British Medical Journal, v 324 pp.1426-1435

UNICEF (2001) A league table of teenage births in rich nations. Innocenti Report Card No. 3, July 2001. UNICEF Innocenti Research centre, Florence

OFSTED (2002) Sex and relationships. London: OFSTED Social Exclusion Unit (1999) Teenage Pregnancy. London: HMSO
(日本語訳:山下博美)


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