(1) 調査の目的

 すでに行われた1987年から88年にかけての第1回の国際比較調査「産業化 社会の子どもたち」に次いで、今回は2回目の国際比較調査である。使用した 調査票は前回のものに多少の内容的修正を加え、また言語的には新たに バンコク版、ニュージーランド版を作成した。 都市環境に住む子どもたちが、毎日の生活の中でどのような幸福感の中に 暮らし、自分たちの未来像をどのようなものとして描いているかが、調査の メインテーマである。



(2) サンプル

 対象は小学5年生で、東京、札幌、福岡の子ども1,282人、トーランス、 ガーディナ(ロサンゼルス郊外)の子ども376人、オークランド、ウェリントン (ニュージーランド)の子ども1,046人、バンコク、ロブリー(タイ)の子ども 864人、計3,568人。調査時期は1989年10月から1990年4月であった(表1、2)。 なお本レポートでは、これらのデータを4地域にまとめ、それぞれ東京、ロス、 オークランド、バンコクと呼称してゆくことにする。

表1 サンプル構成(小学5年生) (人)
地 域 地 域 男 子 女 子
 東  京  東京・札幌・福岡 1,282 645 637
 ロ  ス  トーランス・ガーディナ 376 191 185
オークランド オークランド・ウェリントン 1,046 519 527
 バンコク  バンコク・ロブリー 864 425 439
9都市 3,568 1,780 1,788


表2 調査の実施スケジュール
地 域 学 校 数 実 施 時 期
 東  京  東京・札幌・福岡など9校 1989年10月〜12月
 ロ  ス  トーランス・ガーディナなど6校 1990年2月〜4月
オークランド オークランド・ウェリントンなど12校 1989年12月〜3月
 バンコク  バンコク・ロブリーなど11校 1990年3月〜4月




(3) 生活リズム

 調査日前日の過ごし方をたずねた結果では、起床から朝食までの時間は どの地域も約30分とあわただしく、とくにロスは9分と短い。 また起床から登校までは約1時間だが、オークランドでは75分とややゆっくりしたテンポで 朝を過ごしている。
 夕食を食べてから就寝までの時間は約2時間半。その中では東京の子が3時間 1分と長い。また睡眠時間はオークランドが10時間20分と長いが、東京の子は 9時間しか寝ていない。なお、前回調査のソウルは8時間44分、タイペイは8時間 37分であった。(表5)

表5 生活時間
 東  京   ロ  ス  オークランド  バンコク 
起床時刻 6:56 6:47 6:51 5:58
起床から朝食まで 24分 9分 18分 29分
起床から登校まで 59分 57分 75分 60分
夕食から就寝まで 3時間1分 2時間50分 2時間31分 2時間18分
就寝時刻 21:56 21:09 20:31 20:30
睡眠時間* 9時間 9時間38分 10時間20分 9時間28分
*ソウル  8時間44分
 タイペイ 8時間37分




(4) 朝食について

 調査日の前日、朝食を食べなかった子は、ロスの11%を筆頭に、オークランド 8%、バンコク4%、東京はもっと少なくてわずか2%であった。 また朝食を自宅でとった子の割合は東京が97%と最高で、オークランドの90%、 バンコク84%、ロス81%。朝食抜きの子や朝から学校給食を利用したり、屋台 等で食事をする子の数値は、家庭の安定度の指標とも考えられ、その点では 日本の家庭の健康性を指摘できそうである。
 また朝食を自宅で食べた子の中で、1人で食事した子の割合(孤食率)は、 オークランド、バンコク、ロスが30%台だが、日本は19%と低い。(表6)

表6 朝食の様子  (%)
 欠 食 率*  自宅で食べた子  学校給食他   孤 食 率 
 ロ  ス  10.8 80.9 8.3 30.0
オークランド 8.0 89.5 2.5 38.6
 バンコク  3.5 84.2 12.3 36.8
 東  京  2.1 97.1 0.8 18.6
*シアトル   12.6%    ソウル    5.1%
 ヒューストン 21.7%    タイペイ   1.7%




(5) 夕食について

 朝食と比べて夕食の孤食率はずっと低く、どの地域も10%を割っている。しかし 食卓に家族全員がそろうかどうかを見ると、他地域が7割前後なのに、東京は42%と低く 、しかも父親が不在の食卓が39%もあり、日本の父親が家庭生活から疎外されている 様子が表れている。(表7)

表7 夕食の様子  (%)
 家族全員で*   父親のみ不在   孤 食 率 
 ロ  ス  74.4 11.1 6.7
 バンコク  67.4 17.8 7.1
オークランド 65.9 12.6 8.2
 東  京  42.3 38.5 3.5
*シアトル   63.7%



(6) 空腹感

 子どもが朝食時に空腹かどうか、また昼食にせよ夕食にせよ、食欲があるか どうかは、単に生理的な条件からのもの、というよりも、その背景に子どもの健康 な生活があるかどうか、よい生活リズムが保たれているかどうかを示している。 ロスとオークランドの子は健康な食欲をもっているが、バンコクと東京の子ども は朝食も下校時も、それほどの食欲を示さない。第1回目の調査では、受験勉強 が日本以上にきついソウルの子どもが際立って低かったことを考えると、 考えさせられる結果である。(表8)

表8 空腹感  (%)
 朝食時   帰宅時 
オークランド 27.3 48.0
 ロ  ス  21.9 40.2
 東  京  11.7 20.9
 バンコク  5.0 21.1
 ソウル  6.7 11.7
 タイペイ  12.5 32.9
 シアトル  22.9 40.0
「とてもおなかがすいている」割合



(7) テレビ視聴

 テレビの所有台数はどの地域でも2台以上が多く、いまや一家に複数のテレビが 置かれている状況が一般化した(表10)。またテレビ視聴時間はロスと東京がはぼ 3時間と他より若干長いが、他が長時間視聴児もほとんどテレビを見ない子もいる 、というように分散が大きいのに、日本は一様に長目の視聴をしている点が 特徴的である。(表11)

表10 テレビ所有台数
 平均  2台以上
 ロ  ス  2.5台 79.5%
 東  京  2.3台 76.7%
オークランド 1.8台 56.0%
 バンコク  1.8台 48.6%


テレビのない家
 東  京  0.0%
 ロ  ス  0.8%
オークランド 2.4%
 バンコク  3.1%


表11 テレビ視聴時間
平均(時間) 1時間以下 4時間以上
 ロ  ス  3時間5分 23.0% 23.8%
 東  京  2時間59分 4.9% 28.9%
オークランド 2時間42分 30.1% 22.0%
 バンコク  2時間25分 24.7% 12.7%


視聴時間30分以下
 東  京  0.5%
 ロ  ス  10.7%
オークランド 21.8%
 バンコク  9.4%




(8) 家の手伝い

 毎日家の手伝いをする子はバンコクに多く、日本の子は4地域でもっとも 手伝わない。また他の3地域では男子より女子が多く手伝っているが、 オークランドは手伝いに性差が見られない。(表12、表13)

表12 家の手伝い  (%)
 東  京   ロ  ス  オークランド  バンコク 
洗 濯 1.3 5.4 4.4 9.7
庭の掃除 2.8 2.7 3.2 11.3
夕食の買い物 2.9 7.5 7.3 8.5
皿洗い 6.1 17.3 31.0 28.1
部屋の掃除 6.4 26.2 19.3 22.0
夕食の手伝い 8.3 21.0 13.7 7.6
兄弟の世話 12.7 21.8 15.1 30.9
部屋のかたづけ 18.3 12.0 7.5 19.6
「毎日する割合」
太字は最大値  斜字は最小値


表13 家の手伝い×性差  (%)
 東  京   ロ  ス  オークランド  バンコク 
男子 女子 男子 女子 男子 女子 男子 女子
洗 濯 0.9 1.8 3.2 7.7 4.5 4.2 5.3 13.4
庭の掃除 1.8 3.9 3.2 2.2 5.5 1.2 12.2 10.6
夕食の買い物 2.4 3.5 6.9 8.2 7.0 7.3 7.3 9.4
皿洗い 2.5 10.3 11.7 23.1 30.9 30.7 21.7 33.1
部屋の掃除 4.6 8.5 22.9 29.7 16.8 21.6 16.8 26.3
夕食の手伝い 4.8 12.4 13.4 26.8 12.8 14.2 5.3 9.5
兄弟の世話 10.9 14.5 19.0 24.6 13.2 16.4 25.5 35.0
部屋のかたづけ 13.3 24.0 17.9 6.0 11.4 3.8 18.6 20.2
「毎日する割合」



(9) 一日の楽しさ

 一日の中で15の時間帯をとってみると、4地域の子どもが共通に「楽しい」 と言っているのは「放課後友だちと遊ぶとき」「学校での昼休み」「夕食後 テレビをみているとき」で、それに次ぐ楽しい時間は「体育の時間」のようである。 またもっとも楽しくないのは「宿題をしているとき」「朝食のとき」 「朝目ざめたとき」である。(表14)

表14 一日の楽しさ  (%)
 東  京   ロ  ス  オークランド  バンコク 
70% 体育の時間 (76.7)
60% 放課後友だちと
遊ぶとき

昼休み

(68.7)


(64.7)

昼休み (65.2) 昼休み (62.8) 昼休み (63.8)
50% 体育の時間 (52.9) 寝ているとき

放課後友だちと
遊ぶとき

(51.9)

(51.2)

体育の時間

放課後友だちと
遊ぶとき

テレビを見る
とき

寝ているとき

(53.7)

(53.2)


(52.8)


(50.9)

40% テレビを見る
とき
(47.8) テレビを見る
とき
(48.8) 給食のとき (42.5) 放課後友だちと
遊ぶとき

マンガを読む
とき

テレビを見る
とき

(46.2)


(41.5)


(40.9)

30% 給食のとき

マンガを読む
とき

寝ているとき

(38.2)

(38.0)


(30.9)

体育の時間

夕食のとき

給食のとき

(39.4)

(35.3)

(33.9)

夕食のとき (35.5) 両親と話すとき (31.2)
20% 夕食のとき

ふとんに入る
とき

両親と話す
とき

(28.6)

(28.2)


(27.6)

ふとんに入る
とき

両親と話すとき

マンガを読む
とき

算数の時間

(28.4)


(27.9)

(26.0)


(24.9)

両親と話すとき

マンガを読む
とき

ふとんに入る
とき

算数の時間

授業の始まる前

(29.1)

(27.9)


(26.4)


(24.1)

(21.7)

算数の時間 (27.2)
10% 算数の時間

授業の始まる前

朝食のとき

(14.3)

(13.0)

(11.0)

授業の始まる前

朝食のとき

朝目ざめたとき

宿題のとき

(18.4)

(17.8)

(15.3)

(11.5)

朝食のとき

宿題のとき

朝目ざめたとき

(19.1)

(16.2)

(15.9)

給食のとき

授業の始まる前

宿題のとき

(16.2)

(15.9)

(11.4)

0% 朝目ざめたとき

宿題のとき

(7.7)

(4.7)

ふとんに入る
とき

寝ているとき

夕食のとき

朝食のとき

朝目ざめたとき

(9.9)


(9.5)

(7.3)

(2.7)

(2.1)

「とても楽しい」割合



(10) 楽しさ感

 各時間帯の楽しさを地域間で比較してみると、もっとも楽しさ感の強いのは オークランド、次いでロス、東京、バンコクの順となる。(表15)

表15 一日の楽しさ(各国間の比較)
 東  京   ロ  ス  オークランド  バンコク 
朝目ざめたとき  (1)15.9%  (2)(15.3)%  (3)7.7%  (4)2.1%
朝食のとき  (1)19.1  (2)(17.8)  (3)11.0  (4)2.7
授業の始まる前  (1)21.7  (2)(18.4)  (4)13.0  (3)15.9
給食のとき  (1)42.5  (3)33.9  (2)(38.2)  (4)16.2
夕食のとき  (1)35.5  (2)(35.3)  (3)28.6  (4)7.3
テレビを見るとき  (1)52.8  (2)(48.8)  (3)47.8  (4)40.9
宿題のとき  (1)16.2  (2)(11.5)  (4)4.7  (3)11.4
体育の時間  (2)(53.7)  (4)39.4  (3)52.9  (1)76.7
放課後友だちと遊ぶとき  (2)(53.2)  (3)51.2  (1)68.7  (4)46.2
両親と話すとき  (2)(29.1)  (3)27.9  (4)27.6  (1)31.2
寝ているとき  (2)(50.9)  (1)51.9  (3)30.9  (4)9.5
算数の時間  (3)24.1  (2)(24.9)  (4)14.3  (1)27.2
ふとんに入るとき  (3)26.4  (1)28.4  (2)(28.2)  (4)9.9
マンガを読むとき  (3)27.9  (4)26.0  (2)(38.0)  (1)41.5
昼休み  (4)62.8  (1)65.2  (2)(64.7)  (3)63.8
順位(平均) 1.9位 2.2位 2.9位 3.0位
楽しさ感(平均)*  (1)35.5%  (2)33.1%  (3)31.8%  (4)26.8%
*ソウル  36.7%    「とても楽しい」割合
 タイペイ 26.8%     ○印の中の数値は順位を示す
 シアトル 26.1%




(11) あなたはしあわせですか?

 「あなたはしあわせですか」とストレートに子どもたちに聞いてみると、 どの地域も7〜8割の子どもが「とても・かなり」しあわせと答えており 、子どもたちのよき環境適応が見いだされる。しかし表14で見た楽しさ感と対比 させてみると、オークランドの子はしあわせ感もたのしさ感も最大である。(表16)

表16 しあわせ感  (%)
しあわせ感* 楽しさ感(再掲)
オークランド 79.8 (1)35.5
 バンコク  78.9 (4)26.8
 ロ  ス  73.8 (2)33.1
 東  京  70.8 (1)31.8
*ソウル  76.6%    「とても・かなりしあわせ」の割合
 タイペイ 80.3%




(12) 自己評価

 子どもに「勉強のできる子ですか」「人気のある子ですか」等の自己評価 を求めると、日本の子どもの自己評価は極めて低い。これは文化的文脈(けんそん、 控え目など)で解釈するよりも、自信を失っている状態ととらえたほうが適切では ないだろうか。(表18)

表18 子どもたちの自己評価  (%)
東 京 ロ ス  オーク 
ランド
バンコク ソウル タイペイ シアトル
勉強のできる子 6.3 27.6 26.9 21.6 8.0 6.2 34.7
人気のある子 7.9 30.0 28.9 55.5 7.1 12.9 28.0
正直な子 10.0 36.6 33.2 46.7 18.0 13.4 29.3
親切な子 12.8 35.4 33.8 39.8 20.0 11.9 34.0
よく働く子 15.7 37.4 32.8 26.3 24.7 12.4 36.7
勇気のある子 17.5 34.0 35.4 26.1 23.9 14.8 39.6
スポーツのうまい子 18.1 39.9 36.9 25.8 25.1 20.7 37.5
平 均 値 12.6 34.4 32.6 34.5 18.1 13.2 34.3
「とてもあてはまる」割合
太字は最大値  斜字は最小値




(13) 成長欲求

 「早くおとなになりたいか」「いつまでも子どものままでいたいか」「小さい子ども の頃に戻りたいか」をたずねると 、ロス、オークランド、前回調査のシアトルでは「子どものままでいたい」、ソウル では「子どもの頃に戻りたい」、タイペイでは「早くおとなになりたい」と子ども たちは答えている。日本では、「早くおとなに」37%、「子どものままで」38%、 「 小さい頃に戻りたい」25%となっている。(表19)

表19 成長欲求  (%)
 東 京   ロ ス   オーク 
ランド
ソウル タイペイ シアトル
早くおとなになりたい 36.8 26.8 25.1 34.4 50.4 21.8
いつまでも子どものま
までいたい
38.0 63.5 64.9 22.8 12.4 71.8
小さい子どもの頃に戻
りたい
25.2 9.7 10.0 42.8 37.2 6.4
太字は最大値



(14) 地域と幸福感

 1)4地域の中でもっとも幸福感が高く、客観的に子どもらしい生活がある ように見うけられるのはオークランド(ニュージーランド)である。
 のんびりした生活リズムの中に暮らし、たっぷりの睡眠をとり、自己像が 明るく、一日の楽しさ感も強く、幸福感も強い。
 2)ロスでは、テレビ視聴時間が長く、朝食の給食利用や、朝食抜きの子など、 家庭崩壊の影が感じられる。そのためか、「おとなになるより、いつまでも 子どものままでいたい」子が多くなっている。
 3)日本の子どもで気になるのは、環境(学校配置や母親のケア)は配慮されているが 、自己像が暗く、自信がない。一日の楽しさ感、幸福感も十分でない。
 4)バンコクの子のデータには、何か物質的な不十分さの影を感じる。 学校までの距離が遠く、朝食を屋台等でとる率も高い。また、総体としての 一日の楽しさ感が弱い。しかし、家庭的なまとまりがあり、学校での授業時間の 楽しさ感は他の地域より強い。そして、宗教的背景もあるのか、「しあわせか」 と問われれば「しあわせ」と答える子が多く、自己評価も高い。(表20)

表20 まとめ
子ども
の数
子ども
3人以上
家族
サイズ
テレビ
2台以上
テレビ
視聴時間
早起き
(登校まで)
睡 眠
時 間
朝食抜
きの子
家族そろ
って夕食
空腹感
(朝)
空腹感
(夕)
一日の
楽しさ感
しあわ
せ感
自己評価
(高い子)
東京 2.4人 36.5% 4.5人 76.7% 2時間
59分
59分 9時間 2.1% 42.3% 11.7% 20.9% 31.8% 70.8% 12.6%
ロス 2.6  40.2  4.7  79.5  3時間
5分
57  9時間
38分
10.8  74.4  21.9  40.2  33.1  73.8  34.4 
オーク
ランド
3.2  61.0  4.6  56.0  2時間
42分
75  10時間
20分
8.0  65.9  27.3  48.0  35.5  79.8  32.6 
バンコク 2.9  53.6  5.3  48.6  2時間
25分
60  9時間
28分
3.5  67.4  5.0  21.1  26.8  78.9  34.5 
太字は最大値  斜字は最小値



(15) 朝、学校へ行きたくない

 「朝、学校へ行きたくない」と「いつも・わりと」そう思う割合が多いのは ロス(37%)とオークランド(35%)で、東京の子がそう思う割合は19%、バンコクは 7%にとどまっている。(図3)

図3 朝、学校へ行きたくない  (%)





(16) 教科の勉強は好きか

 算数に例をとると、算数が「とても好き」なのは、ロスが48%、オークランド45% で、「朝、学校へ行きたくない」と言っているにしては、子どもたちは勉強が 好きと答えている。それに対し、東京の子が、算数が好きと思っているのは25% にすぎない。(表22)

表22 勉強は好きか (%)
−東京の子は好きではない−

 東 京   ロ ス   オーク 
ランド
バンコク シアトル タイペイ ソウル

 
とても好き 18.5 42.8 51.6 32.4 20.4 37.9 31.2
わりと好き 43.6 41.0 34.2 53.8 36.5 40.8 54.8
あまり好きではない 27.7 8.9 9.0 12.8 21.9 17.3 11.9
とても嫌い 10.2 7.3 5.2 1.0 21.2 4.0 2.1

 
とても好き 25.1 48.0 44.5 49.0 43.6 21.5 33.6
わりと好き 34.3 26.3 28.1 40.8 26.0 30.1 34.2
あまり好きではない 26.8 15.4 13.9 8.5 12.6 35.2 19.9
とても嫌い 13.8 10.3 13.5 1.7 17.8 13.2 12.3

 
とても好き 34.2 49.5 43.6 47.0 36.3 17.4 41.8
わりと好き 42.5 30.9 32.0 34.4 28.3 37.8 39.7
あまり好きではない 18.1 15.2 15.4 14.7 14.2 36.5 15.5
とても嫌い 5.2 4.4 9.0 3.9 21.2 8.3 3.0

 
とても好き 22.0 23.9 36.9 50.0 21.6 19.1 21.2
わりと好き 36.9 36.6 37.8 36.4 27.9 35.8 36.7
あまり好きではない 28.8 23.1 16.9 11.4 21.0 34.2 27.9
とても嫌い 12.3 16.4 8.4 2.2 29.5 10.9 14.2
4教科平均
(とても好き)
25.0 41.1 44.2 44.6 30.5 24.0 32.0
太字はそれぞれの都市の中での最大値



(17) 帰宅後の勉強時間

 第1回目の調査も含めて、7つの都市の中で、勉強時間のもっとも長いのが 、ソウルの2時間54分、次いでロスの2時間25分。それに対し、 東京の子どもの勉強時間は1時間17分にとどまっている。もっとも、東京の子ども たちの33%は塾通いをしているので、実際の勉強時間はもう少し長いもの になる。(表24)

表24 帰宅後の平均勉強時間
  平均勉強時間   3時間以上勉強する子
ソウル 2時間54分 34.9%
 ロ  ス  2時間25分 28.3%
タイペイ 1時間51分 15.9%
バンコク 1時間44分 10.3%
 東  京  1時間17分 15.4%
シアトル 1時間15分 8.3%
オークランド 1時間13分 5.6%
東京=通塾率 32.9%



(18) 勉強机の所有率

 自分専用の勉強机を持っている割合のもっとも高いのが、東京の94%、タイペイ 85%、ソウル72%となる。そして、シアトル58%、オークランド49%、バンコク 41%など、諸外国では、経済的にゆとりがあっても、子どものうちは勉強机を 与えない方針の親もいるように思われる。(図5)

図5 勉強机を持っているか  (%)





(19) 成績の自己評価

 学業成績についての自己評価で、「とても・かなり」よいが、シアトルでは75% 、ロスでは69%に達する。それに対し、東京の子は18%、タイペイ22%、ソウル 33%である。
 東京、タイペイ、ソウル、バンコク、そしてオークランド、さらにロスとシアトル の順で、子どもの成績についての自己評価が高まっている。そして、各地で 調査を重ねた印象からすると、自己評価の低いエリアほど、教育過熱状況が 進んでいるような印象を受ける。 換言するなら、過熱状況が進むと、成績にこだわりを示し、自己評価が低下する。 それに反し、教育をめぐる状況にゆとりがあると、成績の自己評価が 高まる。(図6)

図6 成績のよい子の割合  (%)





(20) 希望する最終学歴

 ソウルやタイペイ、バンコクなどNIESの地域では、子どもたちの半数が 外国の大学へ進みたいと思っている。それに対し、ロスやシアトルの子どもは、 自分の国の大学へ進みたいと考えている。(表29)
 そして、日本の子どもの大学進学志望率は67%にとどまっている。学業成績が 下位になるにつれて、大学進学はむずかしいと、進学を断念する割合が増加する ためである。

表29 外国の大学へ進みたい割合  (%)
大学進学
志望率(A)
進学者中の
外国志望(B)
海外の大学へ
進みたい(A×B)
ソウル 93.3 46.0 42.9
バンコク 93.1 59.1 55.0
タイペイ 91.4 61.8 56.5
 ロ  ス  90.8 13.4 12.2
シアトル 84.8 6.6 5.6
オークランド 67.8 18.8 12.7
 東  京  67.2 10.9 7.3




(21) 将来の見通し

 アメリカの子どもたちは大きくなったら仕事で成功し、しあわせな家庭を 作れるだろうと思っている。しかし、東京の子どもは、未来は暗いと感じて いる。(図9)
 アメリカの子どもたちは成績が不振でも将来に明るい見通しを抱いている。 しかし、東京の子どもは成績の良し悪しと将来の見通しを関係づけて考えて おり、成績が下位になるにつれて、子どもたちは社会的な達成を断念している。 (表34)

図9 将来の見通し  (%)



表34 将来の見通し×成績  (%)
よ い  ふつう  よくない(B)  B/A 
とても(A)  かなり 







 東  京  55.6 33.7 18.2 17.3 31.1
バンコク 40.0 34.6 26.8 18.2 45.5
 ロ  ス  80.0 70.1 64.8 61.5 76.9
オークランド 76.6 63.2 50.0 67.6 88.3






 東  京  67.3 55.4 37.4 28.7 42.6
バンコク 60.0 60.8 55.5 50.0 83.3
 ロ  ス  91.3 87.4 84.8 83.1 91.0
オークランド 84.5 77.1 75.6 78.8 93.3
「きっとそうなれる」割合



(22) 女子の生き方

 ロスやオークランドの子どもは結婚しても仕事を続けようとしている。しかし、 東京の子どもの60%は、結婚したら仕事をやめるとしており、専業主婦志向が 強い。(表36)

表36 女子の生き方(女子)  (%)
結婚しても
 仕事を続ける 
結婚しても子どもを
持たずに働く
結婚したら
 仕事をやめる 
 ロ  ス  71.0 10.6 18.4
 バンコク  59.1 11.1 29.8
オークランド 56.3 15.7 28.0
 東  京  36.1 4.2 59.7




(23) 男子の結婚観

 ロスやオークランドの男子のはぼ6割は結婚しても仕事を続ける人と結婚したい という。それに対し、東京の男子でそう思っているのは4割にすぎない。(図11)

図11 男子の結婚観(男子)  (%)





(24) 自己評価と性差

 シアトルやロスの子どもたちの自己評価に性差は少ない。しかし、東京の子 どもたちは自己評価が低いのに加え、とくに女子の自己評価が低い。(図12)

図12 自己評価×性差  (%)





(25) 自己評価と地域

 ロスやシアトルの子どもたちは高い自己評価をしており、明るい未来像を 抱いている。それに対し、NIESの子どもたちは意欲に満ち、やる気 を出して、未来にのぞもうとしている。東京の子どもたちは、自己評価が 低く、閉ざされた未来を予感している。東京の子どもたちに挫折の影を 感じる。



(26) 全体として

 1回目、2回目の調査を通して、NIESの子どもたちは意欲に 満ちて毎日を過ごしているのが印象的である。子どもたちは懸命に勉強し 、明るい将来を築こうとしている。
 それに対し、アメリカでは家庭の崩壊が進むなど、子どもをとりまく環境は 決してよいとはいえないが、子どもたは自分に自信を持ち、子どもらしさを 残しながら、元気に成長しようとしている。
 そうした中で、東京の子は環境的に恵まれているのに、自分に対して自信を 失い、意欲を喪失している。豊かな社会が到来し、親たちも少ない 人数の子どもをていねいに育てようとしている。しかし皮肉なことに 、子どもたちが子どもらしさをなくし、無気力傾向が感じられる。
 子どもたちの意欲を伸ばし、子どもたちに未来に希望を抱かせるのに どうしたらよいのか。子どもの成長のスタイルをトータルに考えてみる必要性 を感じる。考えてみると近代の日本では、子どもを型にはめるのが教育の ように思われてきた。そうした子ども観を改めて、子どもの自主性を尊重する 教育が必要となってきているのではなかろうか。