1.子どもと家族



(1)

 調査の目的は、子どもの目を通してそれぞれの地域の家族の姿と、子どもにと っての家族の意味を探り出すことである。



(2)

 調査対象は東京、上海、ソウル、ロンドン、ニューヨークの都市の小学5年生 、合計4,964名で(表2)、

表2 サンプル数  (人)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク 全 体
 男 子  8993694722715052,516
 女 子  8954044492444562,448
  計   1,7947739215159614,964


調査は1993年5月から1994年3月までに、学校通しで行われた(表1)。

表1 調査対象地域・時期 
都市名  調査時期  
東 京*1993年5月〜7月    
上 海1993年5月
ソウル1993年10月
ロンドン1994年1月
ニューヨーク    1994年3月
*東京に札幌・千葉・名古屋・岐阜を合わせ、 総称として「東京」を使用。以下同。



(3)

 子どもの人数や家族サイズは、一人っ子社会の上海は別として、東京とソウル が子ども数2人前後に集中し、分散が少ないのに対して、ロンドンとニューヨーク では分散が大きく、例えば4人以上の子どもがいる多子家庭は、東京はたった6% なのに、ロンドンでは25%、ニューヨークでは22%もあり、多様である(表3 、表4)。

表3 家族の人数  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
3人以下 9.670.98.010.57.5
4人 43.514.655.633.235.4
5人 26.611.424.931.130.9
6人 12.63.18.014.512.8
7人以上 7.73.510.713.4


表4 子どもの数  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
1人 9.793.28.89.05.9
2人 54.04.960.535.339.0
3人 30.11.920.530.532.9
4人以上 6.210.225.222.2




(4)

 どの都市でも、母親の同居率は約95%かそれ以上で、たいてい子どものそば には母親がいるが、父親の同居率はそれの率を下回り、とくにロンドンとニューヨ ークでは、79%、85%と、5、6人に1人は父親がいない家庭が出てきている 。家族解体の深刻さがあらわれた数字であろう(表5)。

表5 同居家族  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
父母 14.812.96.11.67.2
祖母 22.618.512.32.110.8
父親 94.093.394.778.685.1
母親 98.595.196.095.096.8
兄弟 89.44.787.789.588.6
その他  3.54.27.19.111.8


 しかし母親の同居率は高くとも、多くの都市で母親の就労率は高くなっており 、日中は子どものそばから親の姿が見えなくなってきている。いちばん専業主婦率 が高いのは、ソウルの45%であり、次いで東京の33%となっている(図1)。

図1 母親の職業  (%)





(5)

 調査前日に朝食を食べなかった子どもは、ソウルとニューヨークに多く、ロン ドンでは朝から学校給食を食べている子が2割もいる(表8)。

表8 朝食の場所  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
自分の家  96.182.587.277.983.0
店で 0.67.10.51.60.7
学校で 0.15.60.720.53.1
その他 0.94.40.30.02.6
欠食率 2.30.411.30.010.6


夕食も含め食卓の状況からみると、東京の子どもは、5つの地域の中では 親からの世話をかなり十分に受けている印象を受ける(表10)。

表10 夕食の場所  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
自分の家  91.491.990.987.185.6
店で 5.02.73.21.88.2
学校で 0.50.10.30.80.0
その他 2.75.32.03.55.2
欠食率 0.40.03.66.81.0




(6)

 夕食の同席者で、父親だけが不在の食卓は、東京が33%と最大で、父親が職 場に拘束されている状況があらわれている(表11)。

表11 夕食の同席者  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
1人で 4.82.79.98.24.1
全員で 47.080.945.842.464.7
父親のみ不在 33.012.326.019.618.5
母親のみ不在 1.54.12.83.14.1
その他 13.715.526.78.6




(7)

 7つの項目を使用して、自分の家庭の評価をさせたところ、全体として自分の 家庭に対する強い肯定的感情がみられるが、とくにニューヨークと上海にその数字 が高い。中では東京の子どもの肯定率が最も低い(表17、表18、図2)。

表17 自分の家の評価  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
経済的に豊
とてもその通り 27.720.422.019.452.9
わりとその通り 30.545.638.943.229.8
少しその通り 27.621.923.721.610.9
あまりそうでない 10.710.112.011.13.6
まったくそうでない 3.52.03.44.72.8
食事がおい
しい
とてもその通り 52.455.638.069.973.6
わりとその通り 31.335.632.224.220.5
少しその通り 13.47.619.34.34.1
あまりそうでない 2.10.98.31.01.1
まったくそうでない 0.80.32.20.60.7
家族が仲が
よい
とてもその通り 40.882.353.152.953.5
わりとその通り 28.012.328.729.831.4
少しその通り 20.43.412.611.39.4
あまりそうでない 8.11.54.73.44.0
まったくそうでない 2.70.50.92.61.7
お互いに助
けあう
とてもその通り 21.072.435.848.170.9
わりとその通り 27.118.133.835.218.6
少しその通り 31.46.120.010.57.5
あまりそうでない 16.32.68.13.12.0
まったくそうでない 4.20.82.33.11.0
近所とよく
つきあう
とてもその通り 21.341.034.744.764.8
わりとその通り 26.731.431.030.821.5
少しその通り 22.813.518.610.47.1
あまりそうでない 19.19.012.24.93.0
まったくそうでない 10.15.13.59.23.6
親戚と仲が
よい
とてもその通り 45.975.149.648.262.6
わりとその通り 27.716.931.822.620.7
少しその通り 16.85.111.413.08.4
あまりそうでない 7.22.06.17.64.5
まったくそうでない 2.40.91.18.63.8
みんなが幸
とてもその通り 37.277.848.139.456.3
わりとその通り 26.816.828.338.729.9
少しその通り 22.53.216.114.08.3
あまりそうでない 9.91.76.35.73.8
まったくそうでない 3.60.51.22.21.7


表18 家族評価(まとめ)  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
経済的に豊か 27.7 20.4 22.0 19.4 52.9
食事がおいしい 52.4 55.6 38.0 69.9 73.6
家族が仲がよい 40.8 82.3 53.1 52.9 53.5
お互いに助けあう 21.0 72.4 35.8 48.1 70.9
近所とよくつきあう 21.3 41.0 34.7 44.7 64.8
親戚と仲がよい 45.9 75.1 49.6 48.2 62.6
みんなが幸せ 37.2 77.8 48.1 39.4 56.3
「とてもその通り」の平均 35.2 60.7 40.2 46.1 62.1
「とてもその通り」の割合
大太文字は1位
太字は2位
斜字は5位


図2 家族評価(まとめ)  (%)





(8)

 しかし、「楽しい、のんびりする、緊張する、いらいらする」等の家庭におけ る子どもの「居心地」を表現する形容詞を使ってみると、ニューヨーク、ロンドン 、ソウルに居心地の悪さを肯定する数値が高い点に、何らかの問題の所在を感じさ せられる(表19)。この点では東京の子が、上海と共に最も居心地のいい家庭に いるようである。

表19 自分の家の居心地  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
楽しい とてもそう 41.652.942.849.366.5
わりとそう 23.526.824.729.520.2
少しそう 17.411.615.011.68.6
あまりそうでない 10.24.19.94.72.4
ぜんぜんそうでない 7.34.67.64.92.3
 否 定 率  17.58.717.59.64.7
のんびりする とてもそう 37.924.247.547.357.9
わりとそう 24.027.628.127.626.0
少しそう 19.519.510.912.58.0
あまりそうでない 9.518.38.16.24.4
ぜんぜんそうでない 9.110.45.46.43.7
 否 定 率  18.628.713.512.68.1
緊張する とてもそう 1.41.24.84.77.6
わりとそう 2.14.67.910.310.5
少しそう 4.59.010.316.218.5
あまりそうでない 14.228.530.220.319.4
ぜんぜんそうでない 77.856.746.848.544.0
 肯 定 率  3.55.812.715.018.1
いらいらする とてもそう 4.51.45.215.68.1
わりとそう 5.74.39.715.413.0
少しそう 10.17.812.317.517.7
あまりそうでない 24.127.427.224.522.4
ぜんぜんそうでない 55.659.145.627.038.8
 肯 定 率  10.25.714.931.021.1




(9)

 子どもの自己像は、ニューヨークと上海で明るく、東京とソウルは暗い。幸せ 感は上海が群を抜いて高い(表20、図3、表21、図4)。

表20 子どもの自己像  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
正直 8.159.38.821.749.2
親切 9.156.311.526.361.3
勇気がある 15.550.113.130.048.2
よく働く 11.346.110.328.859.3
人気がある 8.236.14.025.140.5
スポーツが得意 14.928.916.432.856.4
勉強ができる 6.422.25.933.152.7
肯定的平均 10.542.710.028.352.5
「とてもそう」の割合

図3 子どもの自己像  (%)



表21 あなたは幸せか  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
とても幸せ 31.670.625.029.648.4
かなり幸せ 29.223.139.648.038.4
少し幸せ 30.33.924.515.89.9
少し不幸せ 5.91.88.03.91.9
とても不幸せ 3.00.62.92.71.4


図4 あなたは幸せか  (%)



 しかし学校忌避感情は、ニューヨーク、ロンドンが群を抜いて高く、上海が最 も低い。毎日がつまらないという感情も、ニューヨーク、ロンドン、ソウルが高い (表22、図5、図6)。

表22 子どもの抑鬱感情  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
学校へ行きた
くない
とてもそう思う 12.41.312.132.141.8
わりとそう思う 15.02.216.030.028.3
あまりそう思わない 36.07.738.415.812.1
ぜんぜんそう思わない 36.688.833.522.117.8
 肯 定 率  27.43.528.162.170.1
毎日がつまら
ない
とてもそう思う 6.47.715.812.29.7
わりとそう思う 11.110.920.927.626.3
あまりそう思わない 37.739.834.629.428.7
ぜんぜんそう思わない 44.841.628.730.835.3
 肯 定 率  17.518.636.739.836.0
私は運が悪い
 
とてもそう思う 18.05.810.512.011.2
わりとそう思う 19.214.022.225.024.3
あまりそう思わない 36.834.738.923.420.8
ぜんぜんそう思わない 26.045.528.439.643.7
 肯 定 率  37.219.832.737.035.5


図5 学校へ行きたくない  (%)



図6 毎日がつまらない  (%)





(10)

 早くおとなになりたいかどうかを尋ねたところ、「もっと小さい頃に戻りたい 」とする退嬰的感情は、ソウルが最も高く、34%、次いで東京、上海の順である 。勉強のストレスであろうか(表23、図7)。

表23 早くおとなになりたいか  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
早くおとなになりたい 40.262.646.246.642.8
いつまでも子どものままでいたい 34.914.919.845.752.0
小さい頃に戻りたい 24.922.534.07.75.2


図7 早くおとなになりたいか  (%)





(11)

 将来の見通しは、社会的達成より家庭的達成の方が自分にはできそうだと考え られている。家庭的達成では上海の数字が高く、社会的達成では、ソウルの子がや や高いが、東京の子はそのいずれの数値も最小である(表24、図8、図9)。

表24 どんなおとなになれそうか  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク




皆から好かれる人になる 7.647.520.510.716.2
よい父(母)になる 18.464.357.247.266.0
幸せな家庭を作る 34.758.766.853.870.3
肯定率平均 20.256.848.237.250.8




有名な人になる 7.99.615.614.314.9
お金持ちになる 7.615.715.217.218.1
仕事で成功する 15.937.540.217.231.9
肯定率平均 10.520.923.716.221.6
「きっとそうなれる」割合

図8 家庭的達成  (%)



図9 社会的達成  (%)




2.親子関係をめぐって



(1)

 親子の意見が食い違ったとき、ロンドン、ニューヨークでは、子ども自身にか かわることについては、子ども自身の決定に委ねている反面、家族全体にかかわる 決定事項は、親によって決定し、親がリーダーシップを持っている。   東京、上海、ソウルでは、その逆に子ども自身にかかわる事項に子どもの意見 が尊重されず、親の意見が重視される。逆に、家族全体にかかわる意志決定場面で 、子どもの意見が取り入れられる傾向を示す(表25、図10)。

表25 親が決めるか、子が決めるか
−親子の意見が合わないとき、どうするか−  (%)

東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
休みの日の
過ごし方
いつも親の意見 14.922.417.235.531.9
わりと親の意見 41.442.954.339.546.3
わりと子どもの意見 37.029.025.020.519.0
いつも子どもの意見 6.75.73.54.52.8
どんなテレ
ビを買うか
いつも親の意見 47.564.747.257.848.4
わりと親の意見 40.929.242.128.333.2
わりと子どもの意見 9.44.48.89.912.1
いつも子どもの意見 2.21.71.94.06.3
どんなスニー
カーを買うか
いつも親の意見 8.418.18.98.47.2
わりと親の意見 13.919.317.912.611.4
わりと子どもの意見 40.936.049.938.139.3
いつも子どもの意見 36.826.623.340.942.1
学校へどん
な服を着て
いくか
いつも親の意見 11.819.17.17.86.3
わりと親の意見 14.634.718.410.88.7
わりと子どもの意見 23.331.943.022.429.8
いつも子どもの意見 50.314.331.559.055.2


図10 親が決める  (%)





(2)

 ロンドンとニューヨークでは歯みがきや就寝の習慣などの基本的な生活習慣と 家庭内の役割分担について明確なルールを決め、厳格にしつけている。一方、東京 では、親が子どものしつけについてあまり注意していない(表26)。

表26 親から言われること  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
きれいに歯
をみがきな
さい
いつも言われる 17.538.823.242.257.1
かなり言われる 15.919.919.216.517.3
少し言われる 30.313.724.715.711.3
あまり言われない 25.110.322.811.87.1
まったく言われない 11.217.310.113.87.2
家の手伝い
をしなさい
いつも言われる 7.15.06.720.523.8
かなり言われる 8.822.111.019.124.2
少し言われる 23.034.725.125.621.6
あまり言われない 30.522.233.116.715.3
まったく言われない 30.616.024.118.115.1
もう寝なさ
いつも言われる 21.029.218.832.553.1
かなり言われる 21.627.524.317.619.1
少し言われる 25.517.622.319.712.8
あまり言われない 18.613.716.515.68.7
まったく言われない 13.312.018.114.66.3
もっと勉強
しなさい
いつも言われる 17.770.126.923.229.6
かなり言われる 17.117.929.413.822.9
少し言われる 25.54.827.718.419.4
あまり言われない 20.54.212.116.413.6
まったく言われない 19.23.03.928.214.5
テレビばか
り見ていて
はいけませ
いつも言われる 8.033.214.113.717.0
かなり言われる 12.827.822.513.314.3
少し言われる 26.217.527.020.525.7
あまり言われない 27.811.724.119.919.4
まったく言われない 25.29.812.332.623.6




(3)

 体調が悪いときに学校をどうするかについての判断では、ロンドン、ニューヨ ークで子どもの健康が優先され、上海やソウルでは「学校に行くこと」が子どもの 健康より優先され、勉強への期待と圧力がみられる。東京は両者の中間に位置する (表28、図12)。

表28 登校の強制
−体調が悪いとき、登校について親は何と言うか−  (%)

東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
がんばって学校にいきなさい  23.142.834.36.14.6
できれば行った方がいい 34.553.147.030.421.4
休んだ方がいい 40.23.818.553.569.0
ぜったいに休みなさい 2.20.30.210.05.0


図12 登校の強制  (%)





(4)

 上海やソウルでは、口に出さなくてもお互いの気持ちがわかるという心理的な 親子の連帯意識が強く、密着した親子関係である。一方、ロンドンやニューヨーク では伝統的な核家族の崩壊が進み、親子であってもお互いの気持ちがわかりにくい 状況にある(表29、図13)。

表29 親子の意志の疎通性  (%)

(1)学校でつらいことがあったとき、親は気持ちをわかってくれるか
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
ぜんぜんわかってくれない 8.13.23.23.94.3
あまりわかってくれない 14.37.59.614.013.8
少しわかってくれる 46.321.750.634.736.5
とてもよくわかってくれる 31.367.636.647.445.4

(2)自分がいつも何を考えているか、親はわかっているか
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
ぜんぜんわかっていない 14.49.08.224.911.9
あまりわかっていない 21.417.820.330.227.5
少しわかっている 44.348.048.534.539.2
とてもよくわかっている 19.925.223.010.421.4

(3)親がどんな気持ちでいるかわかるか
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
ぜんぜんわからない 10.72.72.918.313.6
あまりわからない 30.111.612.430.233.9
わりとわかる 48.848.568.835.239.5
いつもわかる 10.437.215.916.313.0

(4)親はあなたの考えに賛成してくれるか
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
いつも反対する 4.42.31.26.93.6
わりと反対する 31.411.313.025.722.6
わりと賛成してくれる 60.580.383.561.770.0
いつも賛成してくれる 3.76.12.35.73.8


図13 親子の意志の疎通性  (%)





(5)

 子どものわがままに対する許容度は、おかずの好き嫌いに例をとれば、やはり 上海とソウルが大きく、次いでニューヨーク>東京>ロンドンの順になっている( 表30)。

表30 子どものわがままの許容性  (%)

(1)「このおかずは嫌いだ、たまご焼きが食べたい」といったら?
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
きっと作ってくれる 9.117.117.07.012.5
たぶん作ってくれる 24.231.342.426.642.6
たぶん作ってくれない 36.721.230.527.628.5
ぜったい作ってくれない 30.030.410.138.816.4

(2)友人の持っている3,000円のゲームを買ってほしいと何度も言ったら?
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
きっと買ってくれる 5.110.52.55.37.6
たぶん買ってくれる 19.634.217.137.745.0
たぶん買ってくれない 41.723.247.240.037.3
ぜったい買ってくれない 33.632.133.217.010.1




(6)

 上海、ソウルなど、親と心理的に密接な関係を保っている子どもは、そのうえ まだ「もっと話す時間がほしい」「自分の世話をしてほしい」「もっと遊んでほし い」など、親との交流を多く求めている。しかし同時に、「うるさく言わないでほ しい」と、両価値的な気持ちも持っているのが特徴である(表31、図14)。

表31 親への期待  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
もっと親と
話す時間が
ほしい
とてもそう思う 18.156.538.218.224.4
わりとそう思う 28.631.136.639.334.9
あまりそう思わない 36.89.219.927.724.3
ぜんぜんそう思わない 16.53.25.314.816.4
もっと親が
自分の世話
をしてほし
とてもそう思う 8.345.444.714.714.1
わりとそう思う 16.930.429.027.725.4
あまりそう思わない 50.118.018.025.330.4
ぜんぜんそう思わない 24.76.28.332.330.1
もっと親が
自分と遊ん
でほしい
とてもそう思う 24.442.434.319.726.8
わりとそう思う 26.429.228.228.331.6
あまりそう思わない 32.319.625.925.423.8
ぜんぜんそう思わない 16.98.811.626.617.8
親がうるさ
く言わない
でほしい
とてもそう思う 26.437.928.814.920.2
わりとそう思う 29.633.429.534.335.1
あまりそう思わない 29.918.729.131.725.9
ぜんぜんそう思わない 14.110.012.619.118.8


図14 もっと親が自分の世話をしてほしい  (%)





(7)

 子どもの将来の親との関係をみてみると、結婚した後、親との同居について、 上海とソウルでは同じ家か隣の家に住みたい子が4分の3以上を占めるのに対して 、ロンドンとニューヨークでは2割にも満たない。東京は4割で、ここでも両者の 中間に位置する(表32、図15)。

表32 結婚後、親とどれくらい離れて住みたいか  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
同じ家 22.736.145.94.94.9
隣の家 18.652.429.57.511.6
車で30分以内の所 43.410.520.158.560.7
親の家の近くでなくていい 15.31.04.529.122.8


図15 結婚後、親とどのくらい離れて住みたいか  (%)



東京、ロンドン、ニューヨークではいずれも2割程度が、親に介護が 必要になったとき、老人ホームに入れたほうがよいと考えるが、上海 とソウルでは1%以下である(表33、図16)。
 上海とソウルの親子には、伝統的な密着した関係が生きている。生涯にわたっ て親との関係を密に保とうとしている。

表33 親が老後、歩けなくなったらどうするか  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
老人ホームに入れる 24.10.90.425.819.2
近くの家で世話をする 21.815.123.446.247.0
自分の家で世話をする   54.184.076.228.033.8


図16 親が老後、歩けなくなったらどうするか  (%)





(8)

 家族の解体が進行しつつあるロンドンとニューヨークでは、親子関係は、独立 性と世代間に境界を設けることが重視される。また、そのような関係を維持するた めに、親の意志決定機能としつけや家庭内の役割分担が明確に規定されている。



(9)

 東京の親子関係をまとめてみると、上海・ソウルと比較して、東京では親子の 一体感が薄れ、子どもも将来、親と距離を置いた生活を望んでいる点などから、伝 統的な親子密着のパターンはかなり崩れてきている印象を受ける。しかし、と言っ て東京は、欧米のように個を尊重する原則や親子間の境界や明確なルールの設定な どは未確立で、欧米的な親子関係に近づいているとも言えない印象を受ける。  また東京の子どもたちは、家庭に大きな居心地のよさを感じているにもかかわら ず、残念ながら親子関係における満足感や幸せ感は決して十分でないように見受け られる。


3.性差との関連で



(1)

 母の役割と父の役割に関連して、「夕食を作るのは母親」「収入の多いのは父 親」という評価は、どの社会にも共通している。そうした中で東京は父と母との役 割が分化しているのに対し、ロンドンやニューヨークでは父と母との性差が少ない (表34〜36)。

表34 母親がする割合  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
夕食を作る 95.067.988.979.177.9
一番早く起きる 65.851.156.545.036.4
子どもを叱る 50.248.248.332.621.0
世の中のできごとを
よく知っている
17.213.37.525.417.7
仕事で疲れている 11.933.923.731.415.7
遊んでくれる 11.827.022.923.414.7
収入が多い 5.926.39.720.86.9
「たいていお母さんの方」の割合

表35 父親がする割合  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
夕食を作る 2.023.12.49.36.8
一番早く起きる 22.224.126.838.046.0
子どもを叱る 16.532.016.624.917.2
世の中のできごとを
よく知っている
46.470.060.335.625.2
仕事で疲れている 68.048.548.041.550.0
遊んでくれる 47.842.232.523.923.5
収入が多い 79.560.971.156.141.8
「たいていお父さんの方」の割合

表36 父親と母親のどちらがするか  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
夕食を作る
一番早く起きる
子どもを叱る
世の中のできごとを
よく知っている
仕事で疲れている
遊んでくれる
収入が多い
◎=「たいていお母さんの方」の割合が50%を超す
○=「たいていお母さんの方」の割合が40%〜49%
■=「たいていお父さんの方」の割合が50%を超す
□=「たいていお父さんの方」の割合が40%〜49%




(2)

 母親の不在の時の夕食をどうするかでは、東京では母親が作っておく、つまり 母親が母的な役割を担おうとしているのに対し、ロンドンやニューヨーク、上海で は父親が作る。そしてソウルでは子どもが作っている(図17、表37)。

図17 母親が遅いときの夕食の準備  (%)



表37 母親が遅いときの夕食の準備  (%)
 父 親  子ども   他の人  母 親   外 食  出 前 
東京 16.025.411.734.23.29.5
上海 50.014.517.79.24.44.2
ソウル 13.343.47.324.92.48.7
ロンドン 42.422.43.520.33.18.3
ニューヨーク 37.611.38.717.18.117.2




(3)

 家事の手伝いに関してみると、上海は男子女子共に家事を手伝うが、ソウルと 東京の子どもの特に男子は手伝いをしない。ロンドンとニューヨークは上海と東京 の中間に位置している(表39、表40)。

表39 家事の手伝い×性  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
男子女子 男子女子 男子女子 男子女子 男子女子
洗濯 6.2  12.0
(51.7)
23.3  25.9
(90.0)
11.3  12.5
(90.4)
12.5  25.8
(48.4)
9.2  17.9
(51.4)
部屋の掃除 11.6  21.5
(54.0)
45.4  46.2
(98.3)
21.4  30.4
(70.4)
29.2  43.4
(67.3)
26.0  30.7
(84.7)
夕食後の皿洗い 18.2  33.4
(54.5)
42.1  53.0
(79.4)
9.4  26.0
(36.2)
39.9  45.2
(88.3)
28.1  35.2
(79.8)
夕食の手伝い 30.1  51.7
(58.2)
23.2  18.4
(126.1)
35.4  57.5
(61.6)
37.4  50.7
(73.8)
45.5  59.4
(76.6)
部屋の整頓 37.5  51.9
(72.3)
61.8  67.9
(91.0)
51.6  71.9
(71.8)
49.1  52.8
(93.0)
51.6  58.1
(88.8)
男子/女子(平均) (58.1)(97.0) (66.1)(74.2) (76.3)
「毎日」+「わりと」する割合
( )内は男子/女子×100


表40 家事の手伝い  (%)
東 京 上 海 ソウル  ロンドン  ニューヨーク
男子女子 男子女子 男子女子 男子女子 男子女子
洗濯  ×  ×   ○  ○ 
部屋の掃除  ×  ×   ○  ○ 
夕食後の皿洗い  ○  ○   ×  × 
夕食の手伝い  ×  ×   ○  ○ 
部屋の整頓  ×  ×   ○         ○ 
○=5都市の中で最大値  ×=5都市の中で最小値



(4)

 将来何人子どもがほしいかでは、上海では1人、東京とソウルでは2人、ロン ドンでは2〜3人と、現状とほぼ同じ数の子を望んでいる(表44)。

表44 子どもの数  (%)
0人 ほしい 1人 2人 3人 4人以上

東 京 5.894.210.850.423.010.0
上 海 3.496.676.119.10.70.7
ソウル 4.695.423.259.37.75.2
ロンドン 7.292.89.545.517.919.9
ニューヨーク  2.797.33.940.128.924.4

東 京 4.195.911.257.024.33.4
上 海 1.998.172.822.91.41.0
ソウル 1.798.314.964.611.07.8
ロンドン 7.292.87.840.220.923.9
ニューヨーク 3.097.04.039.831.022.2

東 京 7.392.710.453.121.67.6
上 海 5.095.078.515.50.70.3
ソウル 7.192.932.354.43.32.9
ロンドン 7.592.510.551.513.916.6
ニューヨーク 2.697.43.340.426.826.9
「ほしい」は「わからない」を含む



(5)

 生まれ変わりの希望で、性役割の受容度をみてみると、どの都市でも男子は男 子としての生まれ変わりを望んでいる。そして、ロンドンとニューヨークの女子の 8割以上も女子に生まれたいと答えている。しかし、上海の女子の生まれ変わり願 望は66%にとどまる(表45)。

表45 生まれ変わり  (%)
ぜったい できれば  男に  できれば ぜったい  女に 

東 京 40.819.960.720.518.839.3
上 海 41.120.661.718.919.438.3
ソウル* 51.748.3
ロンドン 47.311.058.312.729.041.7
ニューヨーク  45.59.755.212.832.044.8

東 京 71.022.793.74.22.16.3
上 海 69.322.691.93.54.68.1
ソウル 75.224.8
ロンドン 80.513.193.64.81.66.4
ニューヨーク 82.612.394.94.01.15.1

東 京 10.817.228.037.035.072.0
上 海 15.318.834.133.532.465.9
ソウル 26.773.3
ロンドン 8.08.016.023.760.384.0
ニューヨーク 3.76.510.223.366.589.8
*ソウルでは調査票の打ち合わせの段階で他と尺度を異にしてある。



(6)

 将来結婚した後での理想の生き方については、東京は男女共に専業主婦を望ん でいる。それに対し、上海、ロンドン、ニューヨークでは男女共に共働きを考えて いる。そうした中で、ソウルでは男子は女子に専業主婦を望み、女子は共働きを望 んでいるなど、性差による違いが認められる(図20、表46、表47)。

図20 女子の生き方(女子のみ)  (%)



表46 女子の理想の生き方(女子のみ)  (%)
専業主婦 共働き ディンクス わからない
東 京 36.416.61.945.1
上 海 1.862.13.033.1
ソウル 25.534.38.931.3
ロンドン 8.444.48.039.2
ニューヨーク 7.647.52.542.4


表47 女子への希望(男子のみ)  (%)
専業主婦 共働き ディンクス わからない
東 京 39.015.71.244.1
上 海 6.256.00.337.5
ソウル 53.517.82.825.9
ロンドン 12.940.89.037.3
ニューヨーク 14.737.63.544.2




(7)

 将来、共働きだったとしてどちらが食事の準備をするかについて聞くと、東京 では母親(女の人)が作るが68%を占める。それに対し上海、ロンドン、ニュー ヨークでは父親と母親とが「同じだけ」が6割を超える。そして、ソウルでは男子 は母親がするのを望むが、女子は「同じだけ」したいと答えている(表49)。

表49 食事の準備は誰が  (%)
母 親  小計  同じだけ 父 親  小計 
 全部  大体   大体  全部 

東 京 15.952.468.326.93.81.04.8
上 海 1.122.623.766.57.22.69.8
ソウル 1.539.941.450.75.82.17.9
ロンドン 6.310.917.276.03.83.06.8
ニューヨーク  6.513.419.975.13.11.95.0

東 京 12.948.261.131.16.21.67.8
上 海 2.324.426.759.810.33.213.5
ソウル 3.050.353.338.76.71.38.0
ロンドン 10.012.022.072.05.20.86.0
ニューヨーク 8.513.321.871.84.22.26.4

東 京 18.856.875.622.51.40.51.9
上 海 0.021.321.273.03.62.25.8
ソウル 0.028.928.963.35.02.87.8
ロンドン 2.79.512.280.12.35.47.7
ニューヨーク 4.114.318.478.32.11.23.3




(8)

 将来の見通しで、上海やソウル、ニューヨークの子は見通しに男女差が認めら れないが、東京の女子は社会的な達成を断念して家庭志向をする態度を示している (図25、表54)。

図25 将来の予測×性  (%)



表54 将来の予測×性  (%)
東 京 上 海 ソウル ロンドン ニューヨーク
お金持ちになる 36.071.490.437.058.1
皆から好かれる人になる 70.1122.1100.567.270.8
有名な人になる 40.088.282.424.040.1
仕事で成功する 52.994.384.863.680.6
よい父(母)になる 105.694.497.6102.6113.6
幸せな家庭を作る 127.299.5100.9100.4106.1
「女子がきっとそうなれる」÷「男子がきっとそうなれる」



(9)

 全体として、東京は性的な役割の分化した専業主婦志向が強いのに対し、ロン ドンやニューヨークでは性的な格差が縮小している。上海も性差は少ないが、女子 たちの間に結婚や出産についての戸惑いが認められる。また、ソウルでは専業主婦 を望む男子と共働きを求める女子との間に対立が存在している。